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朝日新聞デジタル|更新|2015/05/14

「タマ」 白い猫とは限らない

「たま電車」の前でニャーとないているのが和歌山電鉄の「たま駅長」=2009年、和歌山市
「たま電車」の前でニャーとないているのが和歌山電鉄の「たま駅長」=2009年、和歌山市

 「タマ」といえば、多くの日本人が思い浮かべるのは、アニメ版「サザエさん」に登場する、あの愛らしい猫の姿ではないだろうか。フジテレビの番組サイトでは、“真っ白なオス猫。トレードマークは大きなスズ。普通の猫と違ってネズミが大の苦手”などと紹介されている。

 では、新聞連載では、どんな猫として描かれていたのだろう。掲載作が示す通り、磯野家にタマと呼ばれる飼い猫がいたことは間違いない。だが、その姿がわからない。マンガを繰ってみると、どうも首にリボンを巻いた白い猫と、白黒のぶち、あるいは三毛猫と思われる2匹が飼われているのは確実のよう。しかし、猫たちが家族から名前で呼ばれるシーンが、なぜかほとんどないのだ。

 フネのひざで眠る白い猫が「ミー」と呼ばれ(1953年9月2日付)、おひつの上で寝ぼけている猫がワカメに「ミー公」と呼ばれていた(56年11月21日付)のは確認できた。タマが登場する作品も2本見つけたが、どちらも近所の飼い猫だった。長谷川町子美術館に尋ねると、「作品中でタマは特定されていないのです」。リボンを結んだ白猫は、アニメ版のイメージに近いが、タマは白い猫ではなかった!?可能性もあるという意外な事実が判明した。

 それにしても、猫の名前といえばなぜタマなのか? 丸くなって眠る姿や、玉と遊ぶのが好きだから、魂、霊(たま)などに通じる神秘的な存在だから……など諸説あるようだ。歴史的には、「招き猫」発祥の地のひとつとされる東京・世田谷の豪徳寺に伝わる江戸時代の伝承に登場する猫の名前もタマだったという。

 

 

 現在、最も有名な「タマ」といえば、和歌山電鉄の「たま駅長」だろう。2007年に同社貴志川線の貴志駅長に抜擢(ばってき)されると人気が爆発。経済効果は10億円以上ともいわれ、同電鉄の経営再建に大きく寄与した。毎年昇進を重ね、今年1月にはとうとう、社長代理兼貴志川線全14駅の総駅長となる「ウルトラ駅長」という肩書をもらった福猫だ。

 この4月に15歳になるおばあちゃんの三毛猫だが、3月現在は週4日勤務。基本業務は睡眠だそう。キャットフード1年分の報酬に加え、4年前には駅舎が改装され、専用駅長室をつくってもらったほか、2カ月に1回は健康診断を受け、12年には駅長代行を務める部下の「ニタマ」も配属されるなど、環境・待遇面では悠々自適の毎日をおくる。

 今も人気は衰えず、最近では香港や台湾、タイからも駅長目当てで観光客が訪れるとか。名前の由来を同社広報の山木慶子さんにうかがうと「飼い主さんによれば、サザエさんの“タマ”にちなんで名付けたそうですよ」。にゃんと不思議な因縁に、たまげました。

 

 

 だが、タマという伝統ある名も最近ではかなり揺らいでいるようだ。

 ペット保険のアニコム損害保険では08年から猫の名前ランキングを発表している。保険に加入する2万5千頭余を対象にした第1回調査でタマは18位だった。09年からは保険に新規加入した0歳の猫を調査しているが、この集計だとタマは30〜40位台に低迷する。ちなみに最新14年の結果では(1)ソラ(2)レオ(3)ココ(4)モモ(5)リン(6)マロン(7)ハナ(8)キナコ(9)ハル(10)メイの順で、タマは46位に。

 飼い猫全体でみれば、タマはまだ健在だが、子猫につけるには人気薄といえそう。近年では、完全室内飼いで猫を家族の一員と考える飼い主が増えた。「タマやミケといった“猫らしい”名前より、かわいらしく呼びやすい名前が好まれている。また、こだわりを持って命名する方も多く、名前は分散、多様化する傾向がある」(同社)そうだ。

(山内浩司)

 

(朝日新聞 2014年3月29日掲載)

 

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