TOP > ニワトリ 身近にあった命のぬくもり

トピックス

朝日新聞・朝日新聞デジタル|更新|2015/05/19

ニワトリ 身近にあった命のぬくもり

サザエさんをさがして

 東京・世田谷の桜新町に居を構える磯野家の庭では、ニワトリが飼われていた。この作品以外にも、日曜大工で鳥小屋を作っている波平が小屋の中から出られなくなったり、飼っていたニワトリをしめて食べ、食卓がビミョーな雰囲気になったり……といったエピソードが登場する。
 動物好きでも知られた作者の長谷川町子さんは、実際にニワトリを飼っていたのだろうか? エッセー集『サザエさんうちあけ話』によると、「終戦後、菜園の片すみでニワトリを飼っていました」とある。戦時中、故郷・福岡に疎開していた時期のことのようだ。

 

 

 家族は「かわいげがない」と世話をしなかったので、町子さんがエサやりを担当。その中にシャモとのハーフがいた。「彼」と呼ぶこの雄、エサやりの時にからかった姉を敵視し、姿を見れば襲ってきたが、町子さんとは温厚な関係を築いていた。
 しかし彼は、遠来の客をもてなすため、白菜や春菊と共に水炊きになった。当時、20代半ばだった町子さんは、彼のために泣いたという。「皆さまもコドモさんが、かわいがっている飼いものを、勝手にしょぶんしたりしないよう、きをつけて下さい」と結ばれるエッセーからもショックの大きさが伝わってくる。当時のニワトリはペットではなく、卵を取り、食用にもなる経済的な生き物なのであった。
「このあたりも昭和30年代までは、ニワトリを飼っている農家が多かった。うちの商売も、ニワトリのエサ販売から始まったんです」。桜新町のお隣、用賀で約60年営業する「なおい小鳥店」の池田美奈子さんは話す。農家から仕入れた卵を売っていた時期もあり、新鮮でおいしいと評判だったとか。近所のお屋敷にエサを配達した記憶もあるという。
 今はニワトリは扱っていないが、時々、「飼ってみたい」という問い合わせがあり、専門業者から取り寄せることはあるという。「でも、かわいらしいヒヨコの時期はごくわずか。すぐ大きくなるし、ときをつくる雄の鳴き声も大きい。今の住宅事情では難しい面もありますね」

 

 

 家で育てたことはなくても、学校で飼った体験を持つ方は多いだろう。それもそのはず、日本では明治時代から、体験教育として小動物の飼育が推奨されてきた。近年でも、1992年度から新設された小学校の生活科で、動物飼育を通した生き物との触れ合いが盛り込まれた。「世話をして生き物に“思いをかける”。そこから命の大切さを知り、他者への共感や豊かな表現力などが育まれます。動物に接する機会が減った現在、大事な体験です」と、全国学校飼育動物研究会の事務局長で獣医師の中川美穂子さんは言う。
 2003年の調査でも、動物を飼育する小学校は88%にのぼる。飼われているのはウサギ(79%)とニワトリ(66%)が圧倒的な人気を誇る。特に小型のチャボは「小さな子でも世話がしやすいし、きちんと育てれば懐く。怖がらせなければつつきません」と中川さんは勧める。
 だが、04年に発生した鳥インフルエンザの影響で、飼育をやめたり、処分したりした学校が少なからずあったようだ。指導する先生側も動物飼育経験のない人が増え、休日の世話の負担から、手間のかからないメダカなど魚類の飼育に切り替える学校もあるという。
 中川さんの自宅では、チャボ11羽を飼っている。恐る恐る抱かせてもらうと、フワフワした体とざらざらした足の触感に、子どもの頃、飼っていたニワトリの記憶がよみがえった。犬や猫とは違った「生き物」を実感させる、ぬくもりでもある。

(山内浩司)

 

(朝日新聞 2013年7月13日掲載)

 

 サザエさんのベスト版『よりぬきサザエさん』の全13巻が好評発売中です(各1050円)。ご注文は書店、ASAで。詳細はこちらから。