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朝日新聞・朝日新聞デジタル|更新|2015/05/22

犬のお使い こんぴらさんにも「代参」

サザエさんをさがして

 首に風呂敷を巻きつけたワンちゃんといえば「お使い犬」である。肉屋の主人に「こうきゅう日」と促されて客は帰っていくが、子供のワカメも「おヤスミなの」と言われてようやく理解する。でもそこは忠実なワンちゃん。じっと待ち続け、とっぷり日も暮れてしまったようだ。


 ワンちゃんの放し飼いは動物愛護法や条例で禁じられている今、お使い犬を見かけることはないためか、「本当にそんな犬がいたの?」「都市伝説でしょ」と疑問視する声も。だが、60代以上だと「そんな犬がいたな」と記憶に残っている人も多い。


 少年時代を京都市内で送った関西学院大教授(情報人類学)の奥野卓司さん(62)も1960年代に、近所の豆腐屋さんに来ていたお使い犬を見かけた1人だ。雑種で首には縄作りの籠をつけていたという。
「サザエさんの漫画ではお使い犬が街の何げない日常風景のように描かれている。でも、当時は街中に野良犬がたくさんいた時代。お使いをするほど飼いならされた犬はむしろ珍しい存在だったはず」という。



 心配なのは、食べ物だと道草をして食べてしまうことはないかだ。雑誌「いぬのきもち」の監修を務める、「しつけスクールCan!Do!」代表の西川文二さん(55)は「犬は二つの言葉の組み合わせなら理解できます。賢い犬ならば特定の1カ所を覚えさせ、『肉屋に行って』と命令するのは訓練次第で可能です。ただ、うまそうな匂いといった誘惑が大きいと負けてしまうかも」という。



 究極のお使い犬と言えば、江戸時代の「こんぴら狗(いぬ)」ではないか。


 江戸の庶民にとって、伊勢神宮や、讃岐の金毘羅大権現(金刀比羅宮=こんぴらさん)、京都の東西本願寺に参拝することは人生の一大イベントだった。しかし、参拝の旅は厳しく、当人に変わって旅慣れた人が代理で参拝するケースも。人ばかりでなく、飼い主の「代参」をする犬もあったという。


 金刀比羅宮文書広報課によると、こんぴら狗は、首に「こんぴら参り」と記した袋をかけ、中には飼い主を記した木札、初穂料、道中の食費などを入れていた。旅人から旅人へと連れられ、街道筋の人びとに世話をされてお宮にたどり着く。お金と引き換えにお守り札を首にかけてもらい、再び旅人の世話になりながら飼い主のもとに戻ったという。


 785段の石段を上り切った本宮では現在、ゆかりの「ミニこんぴら狗」のマスコット付き幸福の黄色いお守り(1500円)を手に入れることができる。


 ところで、サザエさんには、「お使い犬」が、今回ご紹介した漫画を皮切りにその後もたびたび登場する。『サザエさんの正体』(平凡社)の著作がある漫画研究家の清水勲さん(73)によると、確認できただけで、1950年から74年にかけて計9回を数えるという。


 主なものを紹介すると……。▽肉屋さんで福引券をもらったお使い犬が1等のたんすを当てて気絶してしまう(63年12月11日)▽買い物帰りに物乞いの可愛いワンちゃんにひと目ぼれし、おつりの10円をあげてしまう(64年3月11日)▽お使いを頼まれたのにマイカーに乗り込んで、「車があると犬までこれだもの」とあきれられてしまう(65年3月9日)、といった具合だ。


「いずれの漫画にも『犬は人間よりも人間味があって賢い存在』といった視点で描かれている」と清水さん。ともあれ、サザエさんのお使い犬は、泥棒、押し売りと並ぶ頻出ネタの一つで、清水さんは「困ったときの便利なネタでもあったのではないか」と分析している。(進藤健一)

 

(朝日新聞 2013年2月16日掲載)

 

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