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朝日新聞・朝日新聞デジタル|更新|2015/05/22

警察犬育成、ナンバーワン 女性訓練士・松尾さん、最高位賞

 昨年度、全国で最も多く優秀な犬を育てた警察犬訓練士の女性が佐世保市にいる。犯罪捜査や行方不明者の捜索にあたる優秀な犬たちを、どうやって鍛えているのか。国内トップレベルの腕前を見せてもらった。

 

 佐世保市指方町で松尾警察犬訓練所の所長を務める松尾晴美さん(39)は、県内で3人しかいない警察犬公認訓練士の一人だ。
 日本警察犬協会が犬の能力を評価する訓練試験で、年間にのべ20科目以上に合格させた訓練士に贈られる訓練実績最高位賞を昨年度、受賞した。受賞は県内初で、受賞した4人のうち最も多いのべ30科目に計15頭を合格させた。


 県警は警察犬を飼っていない。民間が飼い、県警の要請で出動する嘱託警察犬は16頭で、そのうち3頭が松尾さんの訓練所にいる。
 訓練の様子を見せてもらった。まずは、においから人を捜す足跡追及訓練だ。
 出てきたのは、7歳のメスのシェパード、グレース。訓練所近くの空き地で、上着のにおいをもとに草むらに隠れた記者を捜してもらったが、5秒もかからないうちに見つかってしまった。

上着のにおいをもとに、草むらに隠れた記者を捜すグレース=いずれも佐世保市指方町
上着のにおいをもとに、草むらに隠れた記者を捜すグレース=いずれも佐世保市指方町

 訓練士の指示に従って動く服従訓練では、松尾さんはほとんど声を出さずにグレースを歩かせたり、止まらせたりしてみせた。グレースは松尾さんの目や口元を見て、次の指示を待っている。

グレースは次の指示を待つ間、松尾晴美さんの目や口元から目を離さない
グレースは次の指示を待つ間、松尾晴美さんの目や口元から目を離さない

 誰の言うことでも聞くわけではない。試しに記者が「おいで」と声をかけてみたが、まったく反応がなかった。続いて松尾さんが指示を出すそぶりを見せると、耳を立ててすぐに動ける体勢になった。

 松尾さんは「生後4カ月から訓練を始めて、指示を聞いてくれるようになるまでには1年近くかかった」と話す。

 警察犬は、人間の2千倍~1億倍といわれる嗅覚(きゅうかく)を生かし、遺留品から行方不明者や容疑者を捜すなど、初動捜査に欠かせない。


 松尾さんとグレースは、県内の様々な事件の解決に貢献してきた。2008年に佐世保市内であった強姦(ごうかん)致傷事件では、現場の遺留物からにおいを追い、米海軍佐世保基地に所属する米兵の逮捕にたどり着いた。


 訓練では「褒めて伸ばす」を徹底しているという。お座りひとつでも、できるまで根気強く指示を出し続け、できたら思い切り褒める。恥ずかしさを捨て、表情と身ぶり手ぶりで喜びを表すことが大切だ。言うことを聞かないときは、たたいたり蹴ったりすると、人間におびえるようになるため、大きな声で1回叱るだけでいい。遊び感覚で覚えさせれば、自分から訓練をしたいそぶりを示すようになるという。「人間と同じですね」と松尾さんはほほえむ。

 

●高齢化進む訓練士、警察犬も不足気味

 日本警察犬協会によると、全国で警察が飼う警察犬は約200頭、嘱託警察犬は約1300頭いる。公認訓練士は1070人。どちらも不足気味で、訓練士は高齢化が進んでいる。
 一番の要因は、訓練士の負担が大きいことだ。


 警察犬の育成には時間がかかる。グレースは1歳で合格した優等生だが、合格までに5年かかる犬もいる。その間、公的な助成や支援はなく、えさ代などは飼い主の負担だ。
 合格しても、県内では報酬は時給制。普段の訓練に給料は出ない。


 それでも、松尾さんは、警察が行方不明者の捜索を打ち切った後も、遺族の要望に応じて無償で捜索を続けることがある。活動費用は、飼い犬のしつけ教室を開いてまかなっている。
 訓練士は犬の体調の変化などにすぐ対応できるよう、訓練所に住み込まなければならない。環境に慣れず、辞めていく人も多い。


 松尾さんの訓練所は、スタッフ3人がすべて女性だ。松尾さんが訓練士を志したころは「女性だから」と断られることが多かったが、今や全国の訓練士の半数が女性だという。


 きつくても続けられるのは、犬と心が通じ合ったときの感動に魅了されるからだ。グレースに出会って間もないころ、松尾さんが具合が悪くなって寝込んでいると、それまで訓練を嫌がることもあったグレースが近づいてきて、慰めてくれたという。松尾さんは「訓練士は人を助けたいという思いと、動物を愛する気持ちを忘れてはならない」と話す。

 

●災害救助犬の必要性を実感

 松尾さんは新たな取り組みも始めている。

 昨年3月、災害救助犬を育てるためのNPO法人、ジャパン使役犬活動センターを設立した。東日本大震災の発生直後に福島県相馬市に入り、災害救助犬の必要性を実感したという。
 NPOは街頭募金で育成資金を集め、地域で犬を連れたパトロールをするなど、災害救助犬の普及に努める。地域や学校で講習会を開き、防災教育にも力を入れていくという。(井口恵理)

 

(朝日新聞 2013年4月17日掲載)