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sippo・sippo|更新|2015/05/22

今を知ろう、共に生きよう セカンド・オピニオン その実情と課題

あなたは「セカンド・オピニオン」をペットの医療に使ったことがあるだろうか。そこではどんなプロセスを踏んだだろう。
見えてきたのは、望まれる協力体制とは異なる現実。
本来のセカンド・オピニオンとは。その実現に必要なこととは。
イラストレーション/ハラ アツシ 撮影/蜂巣文香(a) 写真提供/オールハート動物病院(b、e)


 

ニーズと方針のギャップが生む転院


「セカンド・オピニオン」という言葉は人の医療でも獣医療でも、随分と定着してきた感がある。しかし、国内の獣医療においては、かかりつけ医に相談しないまま家族の独断で病院を変える、いわゆる“転院”になっているケースがほとんどだと言われる。
「先生に相談すると、気を悪くされないか」「先生の知り合いを紹介されて、結果的に状況は変わらないのではないか」といった懸念や、友人やインターネットから得た情報が後押しして、転院は“こっそりと”行われる。
 しかし、さらにその背景にあるのは、家族が動物病院に期待していた医療と病院から提供された医療のギャップだと、東京都杉並区、ひがしやま動物病院の東山哲獣医師は分析する。
「ご家族のニーズと病院の方針との不一致が溝を深めてしまいます。ご家族からすれば、病院から十分な説明がない、検査をしてもらえない、薬が合っていない、入院はさせたくないけれど強く勧められるなどの状況が、病院への不信感につながっているのです」
「とはいえ、相談がないままの転院は、何より動物に負担をかけます。たいていの場合、以前より遠い病院になり移動時間が長くなる。新しい病院で検査を一からやり直す。結果的に麻酔の回数も増える。動物病院側も家族の情報だけで改めて初診を行うことになり、積み上がる医療にならない。そもそも本当にセカンド・オピニオンを聞くべき病院を訪れているかも心配です」

 

Sippo Tips セカンド・オピニオン
人の医療における「セカンド・オピニオン」は、一人の医師の意見だけで治療法などを決めずに、別の医師の意見も聞いて患者が選択を行うことを指す。医療ジャーナリストの田辺功氏によれば、1980年代に米国の民間医療保険会社が医療費抑制策の一環として導入し、同国では定着している。

専門性と技術を備えた病院を紹介

家族と病院とのコミュニケーションの重要性を説く東山獣医師。(左)(a)/高齢犬に鍼治療を施術する池田史織獣医師。(右)(b)
家族と病院とのコミュニケーションの重要性を説く東山獣医師。(左)(a)/高齢犬に鍼治療を施術する池田史織獣医師。(右)(b)

 ひがしやま動物病院にも実際、かかりつけ医の病院に相談のないまま、別の見立てや治療を求めて訪れる家族が少なくないという。そのようなケースでは、最初の動物病院の心証を害しないような理由を家族に助言して、検査結果をもらってきてもらい、それを踏まえた次のステップを検討・提案するという。一方、ひがしやま動物病院からセカンド・オピニオンを家族に提案する場合は、その分野の専門病院や必要な機材がより整っている病院が紹介先となる。
 神奈川県川崎市にあるオールハート動物病院は、そのような紹介先の一つだ。院長の池田人司獣医師は整形外科・外科を専門とし、ひがしやま動物病院にとっては、外科部長的な存在だという。
「自分で対応できる症例でも、専門的で難易度の高い外科手術と判断すれば、池田先生を紹介しています。治療によりよい設備や機材があり、先生の手術経験も豊富。CT(コンピュータ断層撮影)があるので撮影した直後に手術が可能で、手術自体も迅速です」

 

 

「先生同士の風通しのよさを実感」

念願叶って犬を迎えた小川さんとモス。(左)(c)/モスの脊椎3DCT画像。(右)(e)
念願叶って犬を迎えた小川さんとモス。(左)(c)/モスの脊椎3DCT画像。(右)(e)

 小川万理子さんが3年前に動物保護団体から迎えたミニチュア・ピンシャーのモス(男の子・推定8歳)は昨年11月23日、息子さんの膝(ひざ)に飛び乗ろうとして突然後ろ脚2本が硬直し、腰が抜けたような状態になった。祝日だったが、かかりつけ医のひがしやま動物病院ですぐ診察できることになり、病院に連れて行った。
 レントゲン診断では、ヘルニアか脊髄梗塞(せきずいこうそく)。病院側から小川さんには、近くてCTが撮れる病院と、少し遠いがCTが撮れ、必要な場合は手術も可能なオールハート動物病院の2案が提示された。
 小川さんは万が一を考えて後者を選択。すぐ連絡を取ってもらい、その足で川崎市に向かった。
 CTの結果は脊髄梗塞。そのまま入院して、手術は行わず、総合診療医・獣医鍼(はり)治療師である池田史織獣医師を中心に、1週間、超音波、レーザー、針の治療を行った。治療に際しては詳しい説明があり、投薬は内臓への負担が大きく行わないこと、回復率は75%と想定されることなども伝えられた。治療を経て、モスはほぼ後遺症がないほどにまで回復した。
 退院後は週1回通院し、その後かかりつけの病院に戻って、月1回の通院時に経過観察を行っている。
「今回の経験では、先生同士の風通しのよさを感じました。また、それぞれの先生が、何ができて、何ができないかを、理由と共に明確に説明してくださる。よい先生を紹介してくださったかかりつけの先生への信頼も増しました」
 紹介先となった池田獣医師は、こう話す。「私を紹介される先生のほとんどが、日頃から意識が高く、総合的な内科から外科、予防医療まで、常に最新の知識をお持ちです。家庭医として幅広くカバーする勉強熱心な先生ばかり。結果、私の意見も、かかりつけ医の意見と相違がないことが多く、私はそれをCTなどの医療機器や自身の経験を基に“確定診断”に近づける、また、より詳細に病変部位を可視化し、それについて所見を述べるという立場にあります」
 受け入れの際には、かかりつけ医から、患者の病歴や診療記録、紹介理由となる診断結果などの提供を受ける。さらに、当院での治療終了後は、検査・手術関連の医療データや入院中の記録などをかかりつけ医に申し送る。
 かかりつけ医となる1次病院は、すべての分野に専門性があるわけではない。だからこそ、信頼できる病院の紹介が必要な場面も出てくる。と同時に、かかりつけ医として継続的な付き合いが続くことで、獣医師は家庭でのペットの様子や治療の経緯・症例から多くを学び、それが次の治療にもつながっていくのだ。
「紹介されたご家族とお話しすると、病気に対する理解度から、かかりつけ医との信頼関係がわかります。モスちゃんのケースでも、東山先生の平素からのコミュニケーション・スキルの高さがわかる。何でも相談できる家庭医として、『何か平素と違う?』と感じたら、必ず受診するように勧めています」

 

異なる意見や見解の狭間(はざま)で生じる迷い

涙目が治ったチンチラのぱんく(男の子・6歳)(d)
涙目が治ったチンチラのぱんく(男の子・6歳)(d)

 他方で、かかりつけ医と紹介先の連携がうまく行かない例もある。

 横浜市に住むHさんは、保護団体から迎え入れた猫の避妊手術を、団体がかかりつけ医にしている動物病院で行った。術後、猫の元気がなく、調べてみると猫伝染性腹膜炎を発症していた。この病気はまだ予防と治療の術(すべ)がなく、かかりつけ医に紹介状を出してもらい、対症療法のために漢方療法とホメオパシーを行う別の獣医師にかかることになった。
 しかし、当初容態は安定していたものの、ある週末に急変。漢方療法の動物病院に連絡が取れず、かかりつけ医に連絡をしたが、今は漢方療法を行っているので、うちでは対応できないとの回答で、猫はそのまま急逝した。
 Hさんがもともと近所でかかりつけ医にしている動物病院と、この漢方療法の動物病院との間でも、予防接種の薬剤や、避妊手術と猫伝染性腹膜炎の関係について見解の相違があり、それぞれの病院はもう一方の存在を知ってはいるものの連携とはならない。
「昔からお世話になっているかかりつけの動物病院、いろいろな病院に行っても治らなかったチンチラのひどい涙目を治してくださった漢方療法の病院。どちらの病院も信頼しているので、意見や見解が異なると、どうすればよいかと悩みます」とHさんは話す。

 

患者に必要なのはやり直しでなく連携

 冒頭で述べたような懸念から、家族からかかりつけ医にセカンド・オピニオンを願い出るのは難しいという面もある。また、複数の動物病院の間で家族が板ばさみになる事態も回避したい。
 望ましいのは、経過が思わしくないとき、家族が不安になっているときに、動物病院が家族と腹を割って話をし、家族が希望や質問を言い やすい関係づくりを心掛けることだと東山獣医師と池田獣医師は助言する。家族もできるだけ積極的に動物病院にリクエストを出して、希望や不安を明確にする。両者がそうすることで、よりよい関係を築いていくことができるだろう。
「患者である動物を私のようなかかりつけ医とセカンドの獣医師が協力体制で診る。だれのための医療かを考えれば、診療のやり直しや建設的でない意見の対立をできる限り避けて、連携してサポートできるのが何よりです」

(sippo編集部)

 

 

 (朝日新聞 タブロイド「sippo」 No.19(2013年6月)掲載)