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sippo・sippo|更新|2015/05/25

めざせ、嘱託警察犬 家族と共に歩む道

今を知ろう、共に生きよう 

「人と犬が一緒に楽しめること」

右から、とうま、さんじ、とうまの息子のえいす(1歳半、男の子)(a)
右から、とうま、さんじ、とうまの息子のえいす(1歳半、男の子)(a)

 ウェルシュ・コーギーのさんじ(3歳、男の子)は、今年4月、岡山県警の嘱託警察犬審査会で見事合格を果たし、7月から1年間、「地域捜索犬」の任についた。地域捜索犬は浮遊臭から捜索対象者の臭いを選び、居場所を特定する役割を担う。
 近年、愛くるしい小型犬や中型犬が嘱託警察犬(以下、嘱託犬)になったというニュースを目にする機会が増えた。その姿は、精せいかん悍でたくましい、従来の警察犬のイメージとは異なるが、サイズや犬種に関わらず、さまざまな犬が活躍する姿は頼もしくもある。


 警察犬には、各都道府県警察が飼育管理と訓練を行う直轄警察犬(以下、直轄犬)と、一般の人がこれらを行う嘱託犬がいる。直轄犬は全国で約170頭、嘱託犬は約1300頭。嘱託犬は都道府県警察が毎年審査会を行い、選考する。任期は1年で、指導手と嘱託犬が一体となって活動するが、指導手は都道府県により、家族の場合も訓練士の場合もある。
 さんじの飼い主である高田知佳さんは17年前、初めてラブラドール・レトリーバー(以下、ラブ)を迎えたのを機に、犬のしつけ教室に通った。服従訓練を終了、競技会に向けて選別・追及訓練と進む中で、嘱託犬に挑戦してはと声がかかる。二人三脚で訓練を重ね、3回目の審査会で合格、その後2年2期を務めた。現在共に暮らすラブのとうま(10歳、男の子)も8年嘱託犬を務め、今年引退した。

 

さんじは、 以前飼っていたコーギーのひ孫。(右)(b)/審査会に臨む高田さんとさんじ。(左)(c)
さんじは、 以前飼っていたコーギーのひ孫。(右)(b)/審査会に臨む高田さんとさんじ。(左)(c)

「私が望むのは犬と共に楽しめること。その一つが犬と一緒に嘱託犬を目指すことで、それが社会のお役に立てるなら、とても嬉(うれ)しい」
 さんじの訓練は生後半年から始めた。「コーギーはバイタリティがあり、この子も嘱託犬ができたらなと思って気軽な遊びから始めたのです。すると、これは行けるかもと」
 ペアを組んで嘱託犬を目指すには、飼い犬の性格や気持ち、その時々の状態を敏感に把握し、見極めることが必須だ。「ラブの経験から、つい“こうなるはず”と型にはめてやらせようとしてしまう。けれどそれでは、伸びる芽も伸びません。ほめたり、違うと教えたりするタイミングも試行錯誤です」
 さんじはいつも全力投球。オンオフがはっきりしていて、普段は“お母ちゃん命”の甘えん坊だが、競技会でスイッチが入ると抜群の技を見せる。一方で、ペース配分は苦手だ。以前の審査会でも後半でばててしまった。
「出動要請はいつ来るかわかりません。いつでもベストな状態で出られるように、人・犬両方の健康管理には気を付けています。人の命が掛かっている仕事ですし、行方不明者のご家族を早く安心させてあげるためにも」
 岡山県警鑑識課の清水孝佳次長によると、県警は昭和30年から嘱託犬を採用、現在は33頭(飼い主29人)がいる。審査は一般捜索、地域捜索、死体捜索の中から希望する種類を受験し、合格すれば犬種にかかわらず採用となる。岡山県は嘱託犬の出動件数が全国トップクラス。「どのご家族も、たとえ出動が重なっても快く引き受けてくださって、本当に感謝しています」

 

わが子の凛々しい姿を誇らしく、のぞき見

京都府警嘱託犬指導員の岡野さんとライム。(左)(e)
競技会で臭気選別試験を受けるライム。(右上)(f)
審査会で幅跳び試験を受ける、さんじ。(右下)(g)
京都府警嘱託犬指導員の岡野さんとライム。(左)(e) 競技会で臭気選別試験を受けるライム。(右上)(f) 審査会で幅跳び試験を受ける、さんじ。(右下)(g)

 京都府警では、プロの指導員と犬がペアで出動する。鑑識課警察犬係の島本芳幸警部補によると、嘱託犬は現在、足跡追及15頭、捜索(危険物など)16頭、臭気選別8頭(2分野に登録している犬が2頭)の計37頭。捜索は国内外の要人や皇室関係者が訪れる場所の事前捜索と、京都ならではの任である。以前は嘱託犬や候補犬は指導員に預けられたままというケースも多かったが、現在は家族と暮らし、訓練と出動の時だけ指導員と出かける犬が増えているという。


 黒ラブのライム(5歳、女の子)は、大南雅弘さん宅で、娘のボニー(5カ月)、イエロー・ラブのレオン(13歳、男の子)と暮らしている。2011年に初めて嘱託犬に合格、今年で3期目の捜索犬を務める。
 家では、いたってのんびり、ごろごろ。心根が優しく、人の気持ちをよく察する子だという。一方で、京都府警嘱託犬指導員の岡野健史さんが訓練に迎えに来ると、家族がやきもちを焼くほど尻尾を振って、喜び勇んで出かけていく。訓練は週に2~3回、まさに子供の通園のようだと大南さん夫妻は微笑(ほほえ)む。

「私たちは家族として普通に接しています。それでも、我が家の犬が嘱託犬をしていることで、私たちが治安の仕組みを学んだり、審査会や競技会での晴れ姿を見るために遠出したり、普段は見られないわが子の凛々(りり)しい顔を見ることができたり(本番中は犬の気持ちがそれないよう、遠くの物陰からそっと見ているのだそう)、“お遊戯”の出来に一喜一憂したり。犬たちに私たちの世界を広げてもらっています」。家族である嘱託犬を誇らしく思うと同時に、“犬に恥じない家族”でいようとも思うそうだ。
 指導員の岡野さんは、犬一頭一頭の個性を見て、教え方、伸ばし方を工夫している。
「しつけや訓練をすることで、家族と犬の信頼が深まり、今以上にコミュニケーションをとれるようになれば、かわいさ倍増です」
 緊急性や危険度が高い事件は直轄犬が出動するが、警察犬の出動件数が過去20年増加傾向にある中、活動を分担してカバーする嘱託犬の役割は大きくなっている。

 

京都府警嘱託犬指導員の岡野さんとライム。(左)(e)
競技会で臭気選別試験を受けるライム。(右上)(f)
審査会で幅跳び試験を受ける、さんじ。(右下)(g)
京都府警嘱託犬指導員の岡野さんとライム。(左)(e) 競技会で臭気選別試験を受けるライム。(右上)(f) 審査会で幅跳び試験を受ける、さんじ。(右下)(g)

「嘱託犬のご家族が飼育費や訓練費をボランティアとして支えてくださっている。審査に合格するのは簡単ではありませんが、多くのご家族と犬に、嘱託犬を一つの選択肢として挑戦していただけたら嬉しい」と島本さんは話す。
 家族が支える嘱託犬。彼らの嬉しそうに甘える表情が、家族との絆を物語っている。
「今日はトレーニングに行かないの?」。少しつまらなさそうなライムの表情が、またかわいらしい。

(写真提供/高田知佳さん(a、b)、岡山県警(c、g)、大南雅弘さん(f)
撮影/sippo編集部(d、e) 取材・文/sippo編集部)

 

 

(朝日新聞 タブロイド「sippo」 No.20(2013年9月)掲載)