猫の絵ばかり描くNY路上の画家 映画「ミリキタニの猫」

マサ・ヨシカワさん。バイキング風の帽子をかぶる理由は「ドキュメンタリーは硬いと思われたくないので」=東京都渋谷区
マサ・ヨシカワさん。バイキング風の帽子をかぶる理由は「ドキュメンタリーは硬いと思われたくないので」=東京都渋谷区

 米ニューヨークの路上で絵を売って暮らす日系米国人の数奇な人生をたどった2006年制作のドキュメンタリー「ミリキタニの猫」が、27日から東京・渋谷の映画館ユーロスペースで上映される。主人公のジミーは映画ができて6年後、92歳で生涯を終えた。映画作りに関わり、最期をみとったマサ・ヨシカワさんが「今の若い世代にも見てほしい」と10年ぶりのリバイバルを企画した。

 撮影が始まったのは01年1月。監督のリンダ・ハッテンドーフさんが、公園で猫の絵ばかりを描くジミー・ミリキタニさんと親しくなり、「撮ってくれ」と頼まれる。仕事の行き帰りにハンディカメラを携えて立ち寄り、風変わりなホームレスの日常を撮り始めた。

 その年の9月11日。世界貿易センタービルに旅客機が突っ込んだ。崩れ去ったツインタワーの粉じんとパニックのなか、ハッテンドーフさんはジミーを放っておけずにアパートに招き入れる。同時テロ後、寛容さを失う米国社会を報じるテレビ番組を眺めるジミーが自身の絵を示しながら、ぽつりぽつりと人生を語る。

 山に囲まれた日系人強制収容所。炎に包まれた広島の原爆ドーム。第2次大戦時、自分を含め多くの日系人が収容所に入れられたこと。市民権を剝奪(はくだつ)されたこと。子ども時代を過ごした広島に原爆が落ちたこと。親戚や友人ら多くの命が奪われたこと。簡素な英語で言う。

「No war! World peace!」

 マサさんが関わったのは02年から。ニューヨークを拠点に映像製作のコーディネーターとして働き、映像関連の催しでハッテンドーフさんに声をかけられた。絵に記された言葉の翻訳や、ジミーの話を裏付けるために日本語ができる協力者が必要だった。戦争、テロ、人種差別、ホームレス、アート……。様々なテーマを併せ持つジミー。何より個性的な生き様に、マサさんもひかれていった。

 映画は06年から世界各地の映画祭などで上映され、数々の受賞をした。07年3月に米国で劇場公開されると、ニューヨークで6週間のロングランを記録し、同年9月に公開された日本でも4万人近くを動員した。

 ジミーは公開前に数十年ぶりに来日し、広島市で平和記念式典に参加。育ててくれた親戚の家族と戦後初の再会を果たした。日米各地で個展も実現し、画家としても日の目を見た。映画が変えたその後の人生を楽しんでいたという。


■「その後」描いた短編も同時上映

 亡くなったのは12年10月。入居する福祉施設で転んで頭を打ち、数週間後に息を引き取った。ハッテンドーフさん、マサさんら3人が立ち会った。

「出会いと小さな奇跡がいくつも重なってできた映画。完成後もいくつもの出会いがあった」。マサさんは映画が縁でつながったジミーを知る人たちに思い出を語ってもらい、広島市の三力谷(みりきたに)家の本家を訪ねてルーツを聞き、21分の短編にまとめた。本編と2本立てで上映する。

 映画ができて10年。欧州など世界各地でテロが相次ぎ、人種差別や移民排斥の動きが広がる。「今こそ見てほしい」とマサさん。平和を願い、大都市の片隅で絵を描き続けた老画家への追悼の思いを込めて。

(井上恵一朗)

朝日新聞
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