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朝日新聞・朝日新聞デジタル|更新|2017/03/28

殺処分される犬猫は、かつての自分の姿 「ひきこもり」から映画監督になった古新舜さん

古新舜さん
古新舜さん

■人生の教科書、自分でつくる

「いじめとひきこもりから映画監督へ」。自身の歩みを、インターネットのブログにこう書く古新舜さん(35)。厳しい体験を経た「表現者」として、教育の現場に足を運び、「人生の教科書は自分でつくるもの」と語りかけている。児童や生徒、親や教師に何を伝えるのかを聞いた。


――どんな挫折を?


「私は幼少期から周囲の子となじめず、小学1年生の時、自分に合った勉強がしたくて5年生の教室へ行くような子でした。親の敷いたレールに乗って中高一貫校に進み東大を目指しましたが、いじめに遭った。人間不信に陥り、大学受験当日は隣の人が怖くて体がぶるぶる震えていました。結果は失敗です。『これからの人生は好きにしていい』という親の言葉にがくぜんとしました。親に従い一途に努力してきた自分は何だったのか、と」


「何も言わずただ抱きしめてくれたのなら、違ったかもしれません。心も体もぼろぼろになり入院。自殺を考え、ひきこもりました。インターネットで死ぬ方法を探すうち、言葉を交わすチャット仲間を得ました。水商売の女性、大工のお兄さん……。『すべて』だと思ってきた受験の外に違う世界があることを知り、救われたのです」


――映画へ進んだのは?


「早大へ進学し、講義型の授業に疑問を持つようになりました。理系の学生でしたが、関心は文学や詩、古典などにありました。22歳のとき、絵本『ホシの生命』を制作し、あこがれていた創作の世界に初めて足を踏み入れることができた。映画界にいた高校の同級生に『文章が書けるなら脚本も』と誘われました」


――分かりやすく表現し、伝えられる。古新さんが学校に招かれる理由ですね。


「子どもたちには自作の映画『ノー・ヴォイス』について語ります。保健所に保護され殺処分となる犬や猫を、ドラマとドキュメンタリーの2部構成でとらえた作品です。オリの中に閉じ込められ、声を出さず死を待つ犬の姿は、死ぬことだけを考えていたかつての自分の姿と重なって見えました」


「犬には人間を幸せにする能力があり、犬を幸せにするのも人間です。犬と人それぞれの視点で考え、命の大切さを共感する。この映画の話を聞いてくれた小学4年生から『いま自分にできるのは一つ一つの命を大切にすること』と感想が寄せられました。『気づき』があったのだと思います。悲しい現実を伝えるだけではなく、一人ひとりの行動が社会を築いている、と伝えたいのです」


――一方的に教えるのではなく、子どもたちが自ら考え、動く?


「それが、いま教育現場で求められている『アクティブラーニング』だと考えます。10年前、映画の助監督をしながら大学受験予備校で物理を教えていた時、私は最初の授業で『大学なんて行かなくていい』と言い放ちました。生徒たちは『授業料返せ』と騒ぎ出しましたが、そこで、なぜ大学に行くのかを徹底的に話し合ってもらいました」


「彼らは『親に言われた』『日本の仕組みだから』と。欠けているのは『私は』という主語では? と私は問いかけました。能動的な判断、選択を生むきっかけづくりです。小学生に対して『一歩踏みだすことで人生は変わる。みんな人生の主人公』と話すのも、このためです」


――教員を対象にした講演も増えています。


「学校の中にいては生まれない発想が求められていると思います。子どもから学び、大人が変わる。教師もひたすら学び成長する。相手が輝くためには自分が光らなくてはいけない。子どもと教師、親と子の関係も同じです」


(聞き手・高橋町彰)

 

こにい・しゅん

6歳から23歳まで和光市に居住。早大大学院、デジタルハリウッド大大学院修了。川口市にある映像制作を目的とした施設「SKIPシティ」内で下積みをし、映画監督・脚本家に。昨年12月、久喜市立鷲宮小学校で児童に講演するなど教育分野で全国的に活動。映画と教育の体験型ワークショップ「シネマ・アクティブ・ラーニング」を積極的に展開する。