動物虐待事件を防ぐ手だてはないか

 惨殺された猫や不審死している猫が見つかった――という事件が各地でおきています。同じ地域内で連続して死骸が見つかるなど、同一犯による可能性が疑われるケースもあります。


 動物愛護法では1999年まで、飼われていない猫をみだりに殺傷した者に対する刑罰は「罰金3万円」が上限でした。しかし、神戸市で幼児が殺される痛ましい事件が97年に発生し、犯人の少年が以前に動物虐待を繰り返していたことがわかりました。この事件をきっかけに、「人が被害者となる重大事件の芽を未然に摘む」という目的で、また「動物を大切にする」という意味からも、動物虐待の罰則を大幅に強化することになりました。

 その後、法改正の度に徐々に罰則は重くなり、今では「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」となっています。また、以前(うさぎの遺棄の回)説明したように、刑事手続きに乗せられること自体による不利益もあります。

 動物の殺傷事件だけで実刑判決を受けたケースは寡聞にして知りません。ですが、猫の里親に名乗りをあげ、生涯大切に飼うと言って何匹も猫を引き取りながら、実際は殺していた事件について、2012年に横浜地裁川崎支部において、懲役3年、執行猶予5年(保護観察付き)という、実刑判決の一歩手前の事案もありました。

 ただ、動物の殺傷事件で犯人が検挙されて刑事裁判で有罪判決を受けるのは、不審死の報道の数に比べるとわずかであり、多くの事件では犯人が見つかっていないと考えられます。

 というのも、人間の被害者であれば、いつ、どこで、誰に殴られたのかを警察に話すことができますし、殺人事件となれば交友関係やわずかな手がかりを駆使して犯人を割り出すことが可能ですが、動物は言葉を話せませんし、人間のような捜査手法が使えません。

 こうした捜査・検挙の難しさから、動物虐待事件については、警察も対応に苦慮していることがうかがわれます。一方で、動物が好きな人たちは、こうした報道に接するたびに、悔しさと腹立たしい気持ちで一杯になっていることと思われます。いくら罰則が重くなっても、犯人が見つからなければ処罰はできず、意味がありません。

 このような状況を改善する方法として、欧米の一部で導入されている「アニマルポリス」(国や地域によって微妙に制度の内容は異なります)が日本にもできればいいのに――と望む人は少なくないと思われます。ただ、「海外に手本となる制度があるから日本にもすぐに採り入れるべき」という気持ちはわかりますが、一足飛びに導入というわけにはいかないのが実際のところのようです。

 では、その間、動物虐待や惨殺を野放しにしておいていいのか、と言われれば、それでいいはずがありません。となると、現状の警察や動物行政の制度を前提として、動物殺傷事件を防止していく必要があります。そのためにも、事件発生時に有効な捜査を行い確実に検挙するにはどういう点をどのように改善すればいいのか、それぞれの関係者が考え、ときには関係者間で意見を出しつつ協議をしながら、一つ一つ実行に移していくことが望まれます。

 そのような観点からの注目すべき取り組みとして、2014年1月、兵庫県は全国に先駆けて「アニマルポリス・ホットライン」の運用を始めました。これは、県警本部内に電話窓口を設置し、県内で発生した事件の対応を一括で受けつけ、警察が関与すべき事案であるのか、あるいは動物行政による指導が相当な事案であるのか、それ以外の情報なのかを振り分けるものです。

 スタートから1年程度であり、まだまだ改善すべき点も多々あるかと思います。この制度を市民が有効に活用し、うまく機能させて、成功事例として他の自治体にもどんどん波及させていくことが、将来の「日本版アニマルポリス」に向けた大きな足がかりになることでしょう。

 弱い者、声を上げられないものを標的にする動物虐待は、エスカレートして、乳幼児、老人、女性など相対的な弱者に向かう可能性があることについては、誰も否定できないでしょう。近所で猫の不審死が続けば、誰しも不安な気持ちを抱きます。

 その意味で、動物虐待事件は、動物好きの人たちだけに関係がある事柄というものではなく、地域全体・社会全体で、継続的に取り組む必要のある問題といえるでしょう。

細川敦史
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。動物に対する虐待をなくすためのNPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。

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