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いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう

太田匡彦・sippo|更新|2015/10/26

第10回 環境省が「繁殖制限」「飼養施設規制」導入へ 問題山積の生体販売「適正化」に大きな一手

ペットショップ(生体小売業者)を頂点に据えたビジネスモデルはいびつな発展を遂げている。パピーミル(子犬繁殖工場)やペットオークション(子犬・子猫の競り市、上の写真)を生み出し、大量生産・大量消費・大量遺棄の構図を作り上げた。こうした一連のビジネスにメスを入れ、不幸な犬猫を救うために、「繁殖制限」と「飼養施設規制」は「8週齢規制」とともに大きな一手になる。
ペットショップ(生体小売業者)を頂点に据えたビジネスモデルはいびつな発展を遂げている。パピーミル(子犬繁殖工場)やペットオークション(子犬・子猫の競り市、上の写真)を生み出し、大量生産・大量消費・大量遺棄の構図を作り上げた。こうした一連のビジネスにメスを入れ、不幸な犬猫を救うために、「繁殖制限」と「飼養施設規制」は「8週齢規制」とともに大きな一手になる。

 環境省が悪質業者の排除に向けて「繁殖制限」と「飼養施設規制」に乗り出すと、時事通信が10月24日に報じた。

 さっそく環境省動物愛護管理室に確認してみると「(2012年の動物愛護法改正にあたって立ち上げた)『動物愛護管理のあり方検討小委員会』があげた課題のなかで、この二つが取り残しになっていた。そろそろ検討を始めないと、次の法改正も迫ってくる。どういう示し方がいいのかについても含めて、検討したい」とのことだった。

 

 繁殖業者やペットショップ(生体小売業者)に繁殖制限や飼養施設規制をかけようというこの話、実は相当に大きな意義がある。これまでの経緯も含めて、記しておきたい。

 そもそも12年法改正にあたって環境省は、内閣提出法案(閣法)での改正を目指していた。そのため10年8月には「動物愛護管理のあり方検討小委員会」(以下、小委員会)を立ち上げ、具体的な見直し作業に入った。東日本大震災が発生したためにスケジュールは後ろ倒しになったが、最終的には25回もの会議の末に11年12月、「動物愛護管理のあり方検討報告書」(以下、報告書)をまとめた。

 その後、「政治的決断が必要になった」(環境省)として議員立法による改正に切り替わり、一部の国会議員の反対によって実験動物にかかわる項目がすべて削除され、さらには「8週(56日)齢規制」が附則によって骨抜きにされたことは、繰り返し書いてきた通りだ。

 

報告書に「規制導入すべき」 イギリスでは出産は6回まで

 さて、実はこの報告書のなかに、次のような文言があった。

「繁殖を業とする事業者に対して、繁殖回数及び繁殖間隔について規制を導入すべきである。なお、猫の繁殖制限についても、同様に検討すべきである」

「各種の飼養施設における適正飼養の観点から、動物種や品種に合わせた飼養施設や飼養ケージ、檻等の選択は重要であるが、現状では適正な施設のサイズや温湿度設定等の数値基準が示されていない。数値基準は可能な限り科学的根拠に基づく、現状より細かい規制の導入が必要」

 

 今回、時事通信の報道で触れられたのがまさにこの二つの規制だった。報告書では前者を「犬猫の繁殖制限措置」、後者を「飼養施設の適正化」とそれぞれ呼び、規制の必要性を訴えていたのだ。議員立法となった12年法改正では両規制とも実施が見送られていたが、改正法施行から2年あまりがたってようやく実現のメドがたった、というわけだ。

 

 そもそも繁殖制限や飼養施設規制は、動物福祉の面で先進的な欧米諸国では一般的なものとされている。環境省の資料などをもとに事例の一部を以下にあげてみる。

 

【繁殖制限】
イギリス(犬の飼養および販売に関する1999年法):雌犬は1歳に達しない場合繁殖させてはならない。6回を超えて出産させてはならない。最後に子犬を出産した日から1年以内に出産させてはならない。
アメリカ(バージニア州法):18カ月以上8歳以下の雌犬のみを繁殖に用いなければならない。
【飼養施設規制】
アメリカ(動物福祉法施行規則):猫では、スペースは、高さは少なくとも24インチ。8・8ポンド以下の猫では少なくとも3平方フィート、8・8ポンドを超える猫では4平方フィート。犬のスペースは「(犬の長さ+6インチ)×(犬の長さ+6インチ)=必要な床面積」。
ドイツ(犬の保護に関する規則):犬舎(檻)の大きさは少なくとも犬の体長の2倍の長さに相当し、どの1辺も2メートルより短くてはいけない。体高50センチまでの犬の場合、犬舎(檻)の最低面積は1匹あたり6平方メートルなければいけない。


 日本にはこうした規制がなかったために、これまで繁殖業者やペットショップで飼育される犬猫の一部が、虐待的な環境に置かれていた。

 身動きのほとんど取れない狭いケージに入れられたまま、犬は年2回の、猫は最大年3回の繁殖期ごとに出産をさせられ、心身ともにボロボロになってしまう繁殖用の犬猫たち。ペットショップの店頭で、狭いガラス張りのケースなかで、売れるまでの日々を1匹で孤独に過ごす子犬、子猫たち……。生体小売業者を頂点に据えた大量生産、大量販売、大量遺棄のビジネスモデルは、日本の規制がゆるいために容易に、「悪質業者」や「闇に消えていく命」の存在を許してきたといえるのだ。

 

行政による監視・指導もやりやすく 今年度末にも検討会立ち上げ

 二つとも「数値規制」である点にも意義がある。行政による監視、指導が格段に行いやすくなるためだ。

 東京都昭島市の「パピオン熱帯魚」の問題についてはこちらでも書いたが、東京都はこの業者に対して適切な指導、処分ができなかった背景について「飼養施設などの数値規制がなく、指導内容が(業者にとって)わかりにくかったところはある。数値規制があれば、線引きがしやすく、明確な数字で指導や処分が出せたと思う」(東京都)としていたのだ。こうした事情は、東京都以外の自治体にも当てはまるだろう。

 

 ようやく動きだした繁殖制限と飼養施設規制。環境省によると「年度末か来年度の初めにも検討会を立ち上げる」(動物愛護管理室)としている。

 来年9月には「49日齢規制」が始まることから、繁殖制限も飼養施設規制もその重要さをいよいよ増してくる。そして忘れてはならないのは、虐待的な環境で飼われている犬や猫はいまこの時も存在し、その中から闇へと消えていく命は現在進行形で増えているということ。

 

 動物取扱業適正化の切り札とされている「8週(56日)齢規制」は、一部の「業者寄り」国会議員の反対によって骨抜きとなり、その実現について予断を許さない状況に置かれている。今回、ようやく実施に向けて動き出した繁殖制限と飼養施設規制について、同じことが繰り返される事態は絶対に避けなければいけない。
 行政による監視、指導をより行いやすくし、ひいては悪質業者を排除していくために、一日も早い二つの規制の実現が待たれる。

太田匡彦

太田匡彦(おおた・まさひこ)

1976年生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当。AERA編集部記者を経て14年からメディアラボ主査。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日新聞出版)などがある。


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