病気の人を支えるペット、その関係性を支える社会

ボブさんにとって、ゾーイはいつもそばにいてくれるパートナー(c)大塚敦子
ボブさんにとって、ゾーイはいつもそばにいてくれるパートナー(c)大塚敦子

 私が最初に「人と動物の絆」というテーマに目を開かれたのは、アメリカでHIV/AIDSとともに生きる人々のドキュメンタリーに取り組んでいた1990年代のこと。そのとき強く印象に残ったのは、私が取材したほとんどの人が犬や猫などの動物と暮らし、その存在を大きな支えと感じていたことである。免疫力の低下している人たちがごくあたりまえにペットとの生活を続け、彼らの主治医もそれを支持していたことに、驚き、感心したものだ。


(末尾にフォトギャラリーがあります) 


 あれから20年近くが過ぎ、ペットの存在が血圧の降下、ストレスの軽減などで人間の健康に寄与することは日本でも認知されるようになってきた。だが、重い病気を患う人たちが動物と暮らし続けられるよう支援する仕組みは、まだほとんどないのではないだろうか。


 アメリカには、エイズやガンに伴って生じた膨大な医療費や、失業のため、ペットと暮らし続けることが経済的に困難になった人たちを支援する団体がいくつもある。それらの多くは、ペットフードや獣医療費のサポート、動物病院への搬送、飼い主が入院中の給餌(きゅうじ)、犬の散歩や猫砂の掃除などのサービスを提供している。


 Pets Are Loving Support(PALS)もその一つ。ボランティアだけで運営する地元密着型の団体だ。クライアントの一人で、アニマル・シェルターから引き取ったゾーイという犬と暮らしているエイズ患者のボブ(66歳)は、こう話す。


「犬がいなかったら、おそらく私は今日まで生きていなかっただろう。ゾーイがいるから、毎朝ちゃんと起きる。1日に3回ゾーイと散歩をするおかげで、体力も維持できている」

 

ゾーイはアニマル・シェルターから来た保護犬(c)大塚敦子
ゾーイはアニマル・シェルターから来た保護犬(c)大塚敦子

 健康上のメリット以上に、精神的なメリットが大きいとも言う。


「友人たちはもうみんな死んでしまって、私だけが残った。こういう病気になると引きこもりがちになるけれど、動物は外に向かって心を開いてくれるんだ」


 実際、私たちがカフェで話をしている間も、見知らぬ人が「まあ、かわいい犬! 撫でていいですか?」と近づいてきて、会話が始まった。


 一人暮らしのボブにとって、何かあったときに頼れるPALSのような団体はとてもありがたい存在だ。病を抱え、ペットの存在をもっとも必要とするときにこそ、ペットとの暮らしをあきらめなくていいように支える。エイズやガンなどの患者のQOL(生活の質)にとってそれがどれほど大切か、動物好きならみんなよく理解できるだろう。


 エイズ患者の支援から始まったアメリカの団体の多くは、いまでは家族のいない高齢者や低所得の高齢者にもサービスを広げつつある。高齢化の進む日本でも、こんなサービスがあったら多くの人に喜ばれるにちがいない。動物たちにとっても、最後まで自分の飼い主とともに暮らせたらどんなにいいだろう。Sippoでも紹介されていた「ピースワンコ」の互助会の取り組み(※)などに、ぜひ期待したいと思う。


※ピースワンコの取り組みは第19回 高齢の里親の「もしも」支える仕組み 互助会方式で設立へ


◇関連書籍、大塚さんのHPはこちら

 

大塚敦子
フォトジャーナリスト、写真絵本・ノンフィクション作家。 上智大学文学部英文学学科卒業。紛争地取材を経て、死と向きあう人びとの生き方、人がよりよく生きることを助ける動物たちについて執筆。近著に「〈刑務所〉で盲導犬を育てる」「犬が来る病院 命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと」「いつか帰りたい ぼくのふるさと 福島第一原発20キロ圏内から来たねこ」「ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発」など。

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この連載について
人と生きる動物たち
セラピーアニマルや動物介在教育の現場などを取材するフォトジャーナリスト・大塚敦子さんが、人と生きる犬や猫の姿を描きます。
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