不十分な業者規制 動かない行政

イラストレーション/石川ともこ
イラストレーション/石川ともこ

 栃木県矢板市内の「犬の引き取り屋」が、一部テレビでも報道されたことで大きな話題になっている。繁殖能力が衰えたために繁殖業者から「不要」の烙印(らくいん)を押された犬猫たち、ペットショップで売れ残り「不良在庫」となった子犬や子猫たち──。こうした犬猫を引き取り、劣悪な環境で飼育していたとして動物愛護法違反(虐待)の容疑で刑事告発された業者だ。10月17日には同容疑などで栃木県警が書類送検したが、この業者を巡っては様々な問題が浮き彫りになった。今回のコラムでは、二つのポイントを指摘しておきたい。


 そもそもまず、引き取り屋という業態を必要とする日本の生体販売ビジネスそのものに問題がある。国内には年間数万匹単位で犬猫を販売する大手ペットショップチェーンが複数存在する。朝日新聞とAERAの調査では犬猫の年間流通数はのべ約75万匹にのぼる(2014年度)。


 生き物である犬や猫を流通・小売業というビジネスモデルで大量に販売する。必然的に売れ残りが生じる。そして、大量販売というニーズに見合うよう生産現場は工場化する。工場化した生産現場では不要犬、不要猫が発生する……。つまり引き取り屋の問題は、日本の生体販売ビジネスそのものの問題であることを忘れてはならないのだ。


 2点目は、業者を監視・指導すべき地方自治体の問題だ。今回、引き取り屋を営む男性(61)は、動物愛護団体から刑事告発され、栃木県警が書類送検した。告発した団体の獣医師らは「飼養されている犬猫は排泄物(はいせつぶつ)の堆積(たいせき)など劣悪な環境下で過密に拘束され、適切な給餌(きゅうじ)・給水の不足や病気・外傷があっても放置されるなど、犬猫に不必要な苦痛が与えられている状況が確認された」と指摘した。


 だが、引き取り屋の施設内に立ち入り検査をしてきた栃木県動物愛護指導センターの岡村好則・所長補佐兼普及指導課長(当時)は取材に、「すべての動物を確認したが治療が必要な犬猫の存在には気付かなかった。清掃もされていた。この業者の飼養環境が著しく悪いとは見ていない」などと繰り返すのみだった。


 本来、事態がここに至る前に、動愛法に基づく事務を所管する栃木県による監視、指導が適切に行われるべきだったのではないか。栃木県の一連の対応状況について環境省幹部も「(報道を見る限り)あの状況での飼育は明らかに動愛法違反。アウトだ」と疑義を呈している。栃木県には、動愛法に基づく事務の適切な執行を怠ってきたと指摘されても仕方がない側面があるのだ。


 1973年の制定以来、3度の改正を経てきた動愛法だが、こと動物取扱業者への規制という側面からは不十分な内容になっている。動愛法の次回の改正作業は来夏にも始まる。次回改正では確実に、動物取扱業のあり方そのものに踏み込んだ規制強化を図らなければいけない。同時に、業者を監視・指導する自治体がその業務を遂行しやすいよう、数値規制を積極的に盛り込んでいく必要がある。


 動愛法第2条には動物は「命あるもの」とある。いま現在も不幸な境遇で生きている動物たちのためにも、今度こそ、十分な改正が行われるよう願ってやまない。



(朝日新聞タブロイド「sippo」(2016年10月発行)掲載)

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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