保護犬を「里守り犬」に育成 獣害対策に過疎地のプロジェクト

犬と人が助け合い、活力あふれる地域社会をつくるのがピースワンコの目標 (写真は本文と関係ありません)
犬と人が助け合い、活力あふれる地域社会をつくるのがピースワンコの目標 (写真は本文と関係ありません)

 ピースワンコ・ジャパンの拠点がある広島県神石高原町は、中国山地の山あいに位置する。山林を縫う細道を車で走っていると、夜はイノシシやウサギやタヌキ、昼はサルなど、さまざまな動物に出くわす。野生動物の存在は、自然の豊かさを象徴してほほえましくもあるが、農家にとっては農作物を食い荒らす「獣害」が頭の痛い問題になっている。

 

 山ぎわの田畑の管理が行き届いていたころは、イノシシやサルはあまり人里に近寄らなかった。しかし、この10年で町の人口は2割以上減り、高齢化も進んだ。それにつれて耕作放棄地が増えると、山と人里の間にあった「緩衝地帯」が消え、農作物の被害が目立つようになった。昔はどこにでもいた野良犬や放し飼いの犬が減ったことも、野生動物を人里に近づけた原因の一つと考えられる。

 

 町が約200の集落を対象に最近行ったアンケートで、農業被害が「深刻」または「大きい」と答えた集落は、イノシシについては計67%、サルでも43%にのぼった。動物除けの電気柵やネットが張り巡らされているが、それだけでは効果に限界がある。

 

 そこで注目され始めたのが、かつての野良犬のように人里から野生動物を遠ざける「里守り(さともり)犬」だ。追い払いの訓練を施した犬を、獣害に悩む地域の人に飼ってもらい、サルなどが出没すれば飼い主と一緒に里守り犬が「出動」する。神石高原町は、4月からの新年度予算に420万円余を計上し、育成に本格的に乗り出すことになった。

 

 ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)が町の委託を受け、動物愛護センターなどから保護した犬のうち、初年度は5、6頭程度を訓練する予定だ。飼い主となる農家にも勉強会に参加してもらい、犬を適切に扱うための技能や知識を身につけてもらう。段階的に講習を重ね、3年間かけて犬と飼い主のペアが「自立」することをめざす。

 

 このプロジェクトでは、訓練した犬をただ貸し出すのではなく、飼い犬として農家に譲渡する。殺処分をなくす取り組みでも連携している町の担当者は、「農作物の被害を減らすだけでなく、保護犬の譲渡率を上げることにもつながる」と議会で事業の意義を説明してくれた。

 

 ピースワンコ事業は、犬と人が助け合い、活力あふれる地域社会をつくることを目標としている。災害救助犬の夢之丞が注目されたように、殺処分ゼロの実現に向けても、犬が人の役に立つ大切なパートナーだという認識を広めることが力になる。保護犬から育成された里守り犬が、獣害対策の一翼を担い、過疎地のヒーロー、ヒロインになるよう力を尽くしたい。

大西健丞
1967年生まれ。NPO法人「ピースウインズ・ジャパン」代表理事。広島県神石高原町にシェルターを設け、捨て犬の保護・譲渡活動に取り組むプロジェクトを運営している。

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この連載について
大西健丞のピースワンコ日記
NPO「ピースウインズ・ジャパン」代表の大西健丞さんが、殺処分ゼロをめざして犬の保護活動に取り組む日々を語ります。
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