保護猫タビオの真菌バトル、部屋の「除菌」ノウハウ

 真菌(リングワーム=皮膚糸状菌)とのバトルについての番外編。真菌をやっつけるには、猫本人の治療だけでなく、部屋の「除菌」も欠かせない。後編では、除菌の実際と、先住猫マルオに引き合わせるまでの過程について報告する。


 番外編(上)で書いたとおり、沖縄の愛護センターから来たタビオは真菌に感染しており、着いた早々、治療と併行してひたすら除菌の日々が始まった。なにしろ真菌はそのままでは死なず、ほうっておくと18〜24か月も生きるしぶとい菌。先住猫のマルオにうつるかもしれないし、高齢の母がうちに来るときも心配だ。真菌症が発症しやすいのは、高齢・幼少・病気などで免疫力が弱い人や動物だからだ。


 真菌経験者の友人たちに聞くと、感染猫を隔離しなかったにもかかわらず他の猫にうつらなかったというラッキーな人もいたが、まず猫から人にうつり、他の猫たちにも広がって大変なことになったという人もいた。心配性の私はこういうとき、できるかぎりの情報を集めないと気が済まない。そこで、アメリカの大学の獣医学部や猫専門の動物病院、保護団体などの真菌情報サイトを調べまくり、おおむね皆が推奨している以下のような除菌方法にたどり着いた。

 

 

<感染がわかったら、まずすること>

1 感染猫を隔離(カーペットなどを敷いていない、できるだけ掃除しやすい部屋へ)。
*隔離期間の目安は、内服薬の服用開始から2週間、最低4回は薬用シャンプーをした後。


2 感染猫が使っていた猫ベッド、毛布、敷物、タオル、ブラシ、爪とぎ、首輪、布製のおもちゃなどを廃棄
*布類は塩素系漂白剤に浸けて洗濯すればOKという説もあるので、うちはそうした。


3 カーテンはすべて取り外し、洗濯


4 カーペットはクリーニングに出す


5 モップで家具の表面のほこりを取る
*うちはほこりが舞い上がらないようダスキンのモップをレンタル


6 すみずみまで床に掃除機をかける


7 床、壁、家具などの表面を1:10に希釈した塩素系漂白剤で拭き、10分間放置したのち、水で絞った雑巾で拭き取る

 

 

<治療中の除菌>

1 モップで家具の表面のほこりを取る(毎日)


2 掃除機をかける(毎日)


3 猫が使う毛布、タオル、椅子のカバーなど布類を洗濯(毎日)


4 1:10に希釈した塩素系漂白剤で、床や家具を拭く(隔日)


5 バイオウィルという猫にも安全な除菌スプレーを空中散布(隔日)

 

毎日の掃除に欠かせない4点セット:後列左から、ダスキンのハンディモップ、1:10に希釈した塩素系漂白剤のスプレー、バイオウィル。手前は希釈した塩素系漂白剤で床を拭くための雑巾とモップ
毎日の掃除に欠かせない4点セット:後列左から、ダスキンのハンディモップ、1:10に希釈した塩素系漂白剤のスプレー、バイオウィル。手前は希釈した塩素系漂白剤で床を拭くための雑巾とモップ

 以上、いまも書いているだけで頭がくらくらしてくる。アメリカのあるサイトなどは、「読む前にまずワインを一杯飲んでください」と前置きがあった。幸い私たちの場合は、タビオがうちに来てすぐ私の仕事部屋に隔離したおかげで、最初の大掃除が一部屋だけで済んだが、これが家中だったらどんなに大変だっただろう。


 書類や本など廃棄できないものが積み上がっている仕事部屋を完全に除菌するのは、はなから無理な話。だが、少しでも菌量を減らし、先住猫のいる他の部屋に真菌を持ち込まないようにしなければならない。最初の数日間は手探りだったが、そのうちコツがつかめてきて、効率が上がってきた。コツはこうだ。


 タビオを隔離してある部屋に出入りするときは、


1 表面がツルツルの雨具の上下を着て、ビニール製のスリッパをはく。


2 部屋から出たら、まず玄関の外に出て、服の表面に付着した真菌の胞子を払い落としてから脱ぐ。


3 お湯と石鹸で手を洗う

 

薬用シャンプーのあとのタオルドライ。タビオの部屋では雨具の上下を着ていた。
薬用シャンプーのあとのタオルドライ。タビオの部屋では雨具の上下を着ていた。

 タビオは遊び盛りの子猫なので、ストレスがたまらないよう、部屋の中では思いきり遊んであげる。使い捨てにできる1本100円ちょっとのおもちゃと紙袋で、十分満足してくれた。

 

使い捨てできるおもちゃで遊ぶタビオ
使い捨てできるおもちゃで遊ぶタビオ

 また、真菌バトルもさることながら、先住猫のマルオにタビオを受け入れてもらう準備もしなければならない。タビオはシェルターで他の猫たちと仲よくできていたそうなので、猫見知りはなさそうだったが、問題はこれまで約一年間、一匹猫として暮らしてきたマルオ。かつて外猫たちの求愛の季節にストレスで背中が波打ったことがあり、それ以来ずっと「マルチケア コンフォート」という療法食を食べている。人間にはフレンドリーだが、じつは猫に対しては警戒心が強いのかもしれない。慎重を期して、アメリカで一般的におこなわれている新入り猫導入プロトコルに従った。


 最初のステップは、まず匂いで知り合うようにすること(村田香織先生の連載第45回「こねこ塾」で伝えたいこと⑥参照)。猫たちが使っている毛布などを交換するといいのだが、真菌がうつっては困るので、タビオ、マルオそれぞれの頬の部分をソックスでこすって匂いをつけ、それを相手にかがせるようにした。マルオはソックスに向かって唸ったり、毛を逆立てたりすることもなく、興味津々で匂いをかいでいる。タビオはまったく気にもしていない。


 タビオが来てから5日目、隔離部屋のドア越しにマルオにおやつをあげたところ、喜んで平らげた。そろそろ次のステップに移っても大丈夫そうなので、7日目には、ドアを3センチほど開け、5秒ほど対面させたが、双方とも攻撃的な素振りはまったく見せない。そこで、ドアのちょい開け&おやつを徐々に時間を長くして毎日続け、17日目にはついにパーティション越しに対面。警戒するどころか、お互いにちょいちょい前脚でつつき合い、早くいっしょに遊びたそうだ。

 

初めてパーティション越しに対面。
初めてパーティション越しに対面。

 21日目、動物病院でついに「寛解」との嬉しい診断が出た。抗真菌クリームのケトコナゾールとマラセブシャンプーを始めてから3週間後、内服薬のイトラコナゾールを始めてから2週間後のことである。念のため、さらに2週間は薬とシャンプーを続行することになったが、もう隔離は解除していいとのこと。これでやっと二人を引き合わせることができる。


 マルオのいるリビングにタビオを連れていくと、二匹はさっそくいっしょに遊び始めた。追いかけっこしたり、とっくみあいをしたり、まるでずっと前から知り合いだったかのようだ。なんと3日後には、同じ猫ベッドで寝るようになった。

 

タビオをグルーミングするマルオ
タビオをグルーミングするマルオ

 いまでは二匹はすっかり仲よし。たとえべストフレンドにはならなくても、平和的に共存できればそれでいいと思っていたが、期待を上回る結果だ。二匹の気だてのよさもあるが、やはりじっくり時間をかけ、慎重な手順を踏んで引き合わせたのが功を奏したと思う。そういう意味では、真菌症で長期間の隔離を余儀なくされたこともプラスだったのだ。人生であんなに掃除をしたことはないし、できればもう二度としたくないが、終わりよければすべてよし。私たちの経験がいつか読者の皆さんの役に立つことがあれば、望外の喜びです。


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大塚敦子
フォトジャーナリスト、写真絵本・ノンフィクション作家。 上智大学文学部英文学学科卒業。紛争地取材を経て、死と向きあう人びとの生き方、人がよりよく生きることを助ける動物たちについて執筆。近著に「〈刑務所〉で盲導犬を育てる」「犬が来る病院 命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと」「いつか帰りたい ぼくのふるさと 福島第一原発20キロ圏内から来たねこ」「ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発」など。

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この連載について
人と生きる動物たち
セラピーアニマルや動物介在教育の現場などを取材するフォトジャーナリスト・大塚敦子さんが、人と生きる犬や猫の姿を描きます。
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