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いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう

太田匡彦・sippo|更新|2017/04/15

第18回 子犬、子猫の販売規制 速やかに「8週」導入を

イラストレーション/石川ともこ
イラストレーション/石川ともこ

 第2次世界大戦の終結に一役買った、日本人の運命を左右した「誤訳」がある。


 日本がポツダム宣言を受諾するにあたり米国は「天皇及び日本国政府の国家統治の権限は(中略)連合国軍最高司令官に“subject to”する」と伝えてきた。subject toを普通に訳せば「従属・服従する」となる。だが当時の外務省は「制限の下に置かれる」と訳した。前者の通り訳せば、「国体護持」をポツダム宣言受諾の絶対条件とする軍部がおさまらないと考えたためだった、とされている。


 相当に大きな話から入ってしまったが、日本で暮らす犬猫の運命を決めかねない「不可解な翻訳」が最近あった。2月26日に東京都内で行われた環境省主催のシンポジウム「動物の愛護と管理と科学の関わり」でのできごとだ。


 シンポジウムの目玉は、動物行動学の世界的権威である米ペンシルベニア大学のジェームス・サーペル教授が「8週(56日)齢規制」について何を話すのか──だった。シンポジウムの終盤、サーペル教授はこんな発言をした。「The decision to say were the puppy should be at least 8 weeks old is fine, that is kind of a safe middle ground(ママ)」


 訳すとおおむね「子犬は最低でも8週齢でなければいけないと決めるなら、素晴らしいことで、それはある種の安全な妥協点です」となるだろう。ところが当日の通訳者は「少なくとも8週齢でなければいけないと言うのであれば、それが安全圏であろうとは思います」と会場に伝えた。


 サーペル教授はこの前後で、幼齢犬を生まれた環境から引き離すタイミングについて、
▽7~9週齢(生後49~69日)の間が最適であり、7週齢でも9週齢でもOK
▽6週齢では悪影響がある
▽10~12週齢は9週齢と比べてそれほど悪くない
という趣旨の話をしている。

 

 

大きな意味があったサーペル教授の発言

 子犬の心の健康や問題行動の発生頻度についてのリスクを考えると「7週齢規制」と「9週齢規制」ならどちらでも問題が生じないが、その前後のリスクのどちらが大きいかを勘案すると9週齢規制のほうが安全であると受け止められる。だが日本国内ではペット業界が、繁殖・飼育のコストや販売促進の観点からなるべく幼い時期に子犬を売りたがっている。そのために現行の動物愛護法では、下限ギリギリの「49日齢規制」と決められているのだ。


 これらの事実を踏まえれば、サーペル教授が8週齢規制の導入について、「素晴らしいこと」「安全な妥協点」と言ったことは大きな意味を持つはずだった。環境省は「正確に訳せたかわからないので、近く英文を公表する」とする。


 3月に参院議員会館で行われた超党派の国会議員によるヒアリングの場で、ペット関連の業界団体トップは8週齢規制導入について「こだわりはございません」と発言。動物取扱業への規制全般についても「法律でばしっと決めた方がいい」と言った。


 動愛法の付則第7条には、8週(56日)齢規制を導入する日について「速やかに定めるものとする」と記されている。8週齢規制導入の環境は整っている。環境省の一日も早い決断を期待したい。


(太田匡彦)


(朝日新聞タブロイド「sippo」/2017年春号掲載)

太田匡彦

太田匡彦(おおた・まさひこ)

1976年生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当。AERA編集部記者やメディアラボ主査を経て、文化くらし報道部記者。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日新聞出版)などがある。


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