犬ビジネスの「闇」 流通システムが犬を殺す③

各自治体の動物愛護センターなど呼ばれる施設には、こうした慰霊碑が必ずある。職員が清掃し、元の飼い主が花やペットフードを供えていくこともあるという。
各自治体の動物愛護センターなど呼ばれる施設には、こうした慰霊碑が必ずある。職員が清掃し、元の飼い主が花やペットフードを供えていくこともあるという。

「抱っこさせたら勝ち」

チャート1
チャート1

 業者の間ではそんな格言もある。子犬のぬくもりを直に感じさせ、売ってしまおうという販売手法だ。動物愛護法では、購入者への説明責任を業者に課しているが、現場では軽視される傾向が強いのだ。こうした販売手法が業者による大量生産を支え、無責任な飼い主を生み出す。
 チャート1を見てほしい。純血種がいかに多く捨てられているかがわかる。雑種なら捨てていいわけではない。だが、業者が飼い方などの説明を徹底していれば、何匹かは捨てられ、殺される運命をたどらなくてよかったかもしれないのだ。
 埼玉で2003年からペットショップを経営していた男性(41)は昨年末、店を閉めた。途中から始めたブリーダー事業も行き詰まり、最後は100匹ほどの犬を抱えたまま破綻した。
 以前は熱帯魚を売っていたこの男性は、犬好きに加え、犬のほうが利益が上がると考え、ブームが去った熱帯魚から乗り換えたという。

 

商品にしか見えない犬

 利幅を厚くしたいと考え、ブリーディングも始めた。最初は母体の健康を思い、年に1回しか繁殖させなかった。だが次第に、生理のたびに交配させるようになった。同じ頃、犬の価格が下がり始めた。競合店が増えたのと、小型犬ブームが去ったためだった。数を売らなければと、必死になった。
「いつのまにか感覚が麻痺し、犬が商品にしか見えなくなった。お客さんの求めに応じて生後40日の子犬だって売ってしまう。たくさんいたほうが儲けは大きいから、飼育に目が行き届かなくなり、管理はずさんになる。私のもとにいる犬は不幸だった。いまはやめて良かったと思う」
 新たな動きも出始めている。01年には「全国ペット小売業協会」が設立された。安易な販売と虐待の温床とされる移動販売を自粛させたり、購入者への説明責任を周知したり、見過ごされてきた問題に取り組み始めた。
 全国で約40店舗を展開するペット販売チェーン「ペッツファースト」。店内に入ると2、3匹の子犬が一緒のケージに入れられて販売されているのに気付く。問題行動を起こさないように、社会化をさせているのだ。また価格などの情報と一緒に、どんなブリーダーが生産した子犬なのかも、掲示している。食品のトレーサビリティーを参考にした。正宗伸麻社長はいう。
「この業界には不透明さを利用して儲けてきたところがある。でもこれだけ殺処分される犬が多いなか、商売のやり方を変えなければ、私たちに生き残る道はないと思っています」

 

(AERA 2008年12月8日号掲載)

 

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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