隔週木曜は「捨て犬の日」 行政と流通が身勝手を生む②

 犬たちはなぜ捨てられ、殺されなければいけないのか。「AERA」2008年12月8日号「犬ビジネスの『闇』」ではペットショップやブリーダーによる遺棄の実態を明らかにしたが、今回は一般の飼い主たちによる遺棄の背景に迫る。

 各地方自治体への情報公開請求によって入手した、飼い主が犬を捨てる際に行政機関に提出する「犬の引取申請書」には、捨てる理由が書かれている。

 07年、横浜市であった事例をいくつか挙げてみる。

 5月に捨てられた13歳のオスのプードル。捨てる理由を書く欄にはこうあった。
「仕事がなく収入もない」
 またオスのゴールデンレトリバーは、
「老犬で尿を排出しっぱなしのため」
 という理由で8月に捨てられた。12歳だった。
「前からいる犬との相性がとても悪く、無駄ぼえがあるため」
 として、10月に捨てられたジャックラッセルテリアはまだ6カ月だった。

チャート1
チャート1

自覚があれば救える命

 チャート1は、このような「捨てる理由」を犬種ごとに集計したものだ。その身勝手な実態が浮かび上がってきた。

 例えば柴犬。捨てられた理由を見ると「犬の病気・けが・高齢」というものが目立つ。犬が病気やけがをすれば当然、動物病院に連れて行かなければいけない。治療費は人間以上にかさむことがある。また日本犬は、年を取ると痴呆になる可能性が相対的に高いといわれ、介護が必要になるケースも出てくる。そうした出費や手間ひまが惜しくて、捨ててしまうのだ。

 ミニチュアダックスフントやシュナウザーなどでは「鳴き声がうるさい」という理由も目立つ。これらの犬種はそもそも警戒心が強く、無駄ぼえが多いのが特徴とされる。飼い始める段階で知っておくべきだし、飼い主が適切にしつけていれば避けられた問題だ。

「収集」減で捨て犬減る

 そして共通して目立つのが、飼い主の病気や転居を理由に捨てている実態だ。生まれた子どもが犬アレルギーだったり、転勤のために犬が飼えないマンションに引っ越すことになったり。それなら、新たな飼い主を探す努力をすればいいし、ペットが飼育可能な物件を探せばいいだけ。ちょっとした努力で、失われなくて済んだ命なのだ。

 一部の飼い主がいかに安易な気持ちで犬を飼い、そして捨てているか、冒頭の定時定点収集という制度の存在が、一つの証拠になる。

 定時定点収集を行っている自治体は、茨城県のほかに愛知県や長崎県など全国に24(07年度、地球生物会議調べ)ある。これは捨て犬の引き取り業務を行っている都道府県、政令指定都市、中核市などのうち約2割。制度がない自治体では、犬を捨てたい飼い主は保健所や動物愛護センターに自ら出向く必要がある。定時定点収集とはつまり、犬を捨てやすくする行政サービスといえるのだ。

 実はこのサービスが低下するだけで、犬を捨てる飼い主は減る。茨城県を例に見てみたい。

 03年度、茨城県では111カ所で定時定点収集を行っていた。この年、捨て犬の引き取り数は5642匹だった。
 04年度は70カ所で4371匹。
 05年度は63カ所で3305匹。
 06年度は50カ所で3064匹。
 07年度は42カ所で2314匹。

 収集個所が減り、飼い主にとって利便性が落ちるのに比例して、捨て犬の数が減っていることがわかる。一部の飼い主は、捨てやすいから捨てていた、というわけだ。県動物指導センターの庄司昭センター長はいう。

「引き取り頭数を一刻も早くゼロに近づけるためには、安易に引き取るということを減らさなければいけない。そのために、引き取り個所もぎりぎりまで減らしました」

 こうしたなか、定時定点収集を廃止する自治体も増えている。

 宮城県では、07年度まで70カ所で定時定点収集をしていた。それを08年度、すべて廃止した。

「あまりに簡単に捨てられている現状を何とかしたいと考えました。ある意味、県民から利便性を奪うことになります。しかし、動物の命が殺処分される、そのために利便性を求めるのはおかしい」(宮城県環境生活部)

 いまは、県内9カ所の保健所に、引き取り場所を限っている。しかも随時引き取るのではなく、必ず獣医師がいて、その場で飼い主を指導できる体制が整う日だけ受け入れている。

 一部の市町村や県民からは、「住民サービスの低下だ」として批判や反発もあったという。だが、宮城県は17年度までに、引き取り数を半減させる目標を掲げ、廃止に踏み切った。08年度、12月までの集計では前年度に比べて約2割、引き取り数が減っているという。

(太田匡彦 AERA 2009年4月13日号掲載)

 

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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