学校での動物飼育における問題点

■学校飼育動物と災害・環境

 

 大震災発生当時、小学校だけで1084校が休校に

 

 3.11東日本大震災当時、小学校だけで1084校が休校になっています(文部科学省発表資料より)。

 災害発生時には広域にわたり休校になることがあり、学校動物達は放置されてしまう可能性があります。そのようなリスクがある環境で、数日の給餌給水が断たれると命を落としかねないウサギや鶏を飼育することも疑問ですが、飼育校、頭数が把握できなければ救護や物資支援が行えないばかりか、犠牲数も把握することができません(人的被害が生じている場合、飼育動物の安否を問い合わせることは難しい)。

 

被災地の小学校で死亡していた学校飼育動物たち

 福島原発の被災地で長期休校になっていた小学校を関係者が回ったところ、動物が飼育されていた数校では既に息絶えていたとの報告がありました。以下は死亡動物と飼育小屋の状態を撮影した写真です。(※許可を受けて被災地に入っています)


① A小学校:ウサギ3
② B小学校:ウサギ5
③ C小学校:ウサギ1、鶏2
④ D小学校:ウサギ3、鶏1

台風の影響で、15県の5000校が休校に

 2011年の台風15号の影響で、文部科学省は全国で5000校が休校、4200校は授業短縮したと発表していました。

 当時報道されていた情報によると、休校になった学校は宮城や奈良、高知など広い範囲に及び、最も多かったのは愛知県の1268校で、静岡県でも1148校が休校。千葉や埼玉など10県の4218校は、授業を短縮し児童や生徒を帰宅させたとしています。

 

気温について

 猛暑が続いた2010年夏、東京都内の小学校で飼われていたうさぎが死亡してしまいました。

 暑さが苦手なうさぎを空調管理のない場所で飼育している限り、季節ごとに死なせるようなことになりかねず、動物愛護の観点だけでなく、児童に間違った認識を与えるなど、普及啓発上も問題です。

 ヒートアイランド現象などで都市部を中心に教室内の高温化が進んでおり、飼育環境は適切とはいえません。ちなみに、公立校の冷房設備普及率は現在わずか2%にすぎません。

 

 

■飼育困難な学校側の事情

 

予算の問題

 

 多くの学校では学校飼育をおこなうための十分な予算が取られていません。都内の公立小学校に勤務する教員(40代・女性)はこのように述べています。

 

「過去に勤務していた小学校ではうさぎや鶏などが酷い状態で飼われていたため、どの学校でも飼育担当を引き受けて世話していましたが、飼育予算は「その他の備品費」から年間わずかな金額が充てられていましたが、年度半ばに予算がなくなってしまうこともありました。

 > 飼育費用は餌代や医療費だけではなく、細かいことをいえば通院交通費もかかります。電車やバス、時にはタクシーを利用しなければうさぎの歯削り、感染症治療ができる病院に行けない場合もあります。飼育動物の体調が悪くてもすぐに通院できず、学校に動物の状態と通院の必要性を説明し、連れて行く教員の予定を調整してから予約を取りますが、エキゾチック系の専門病院は混んでいて予約を取りにくいこともあり、予算面だけでなく物理的にも哺乳類は学校飼育に向いていないと思います。

 植物栽培、身近にいる昆虫や野鳥の観察、野良猫でも「命の教育」は充分できるのに、鶏やうさぎの飼育をして「ふれあい」しなければ児童の生死概念が形成されないかのような誤った論調が広められているため、不適切な飼育環境を自覚しながらもやめにくい学校が多いのではないでしょうか。」

 

教職員の異動・業務過多

 法律上の飼育管理者である学校長をはじめ、教頭、教職員などの公立小学校職員は定期的に異動がある労働環境にあり、飼育動物の頭数、年齢、死亡理由を把握していない状況がしばしば見受けられます。教育目的で飼育開始した教員本人、(以前から飼われていた場合は飼育担当教師など)が転勤するとその後一転して悲惨な状態に陥るケースが多いのです。


 保護者や地域住民の要望の多様化、複雑化する生徒指導などにより長時間労働となったり、精神疾患で休職する教員も増加する中、家庭でも体調管理に苦慮することが多いうさぎ、モルモット等の世話や通院等を日常的に行うのは並大抵のことではありません。休祭日、長期休暇も電車で給餌に通う教員は、「児童が保護者と一緒に餌やりに来てくれていた時期もありましたが、各家庭の都合があるのでそう長くは続かない。平日は忙しくて掃除がきちんとできないので自分が行くしかない。」と述べています。

 

動物愛護管理法が周知されていない教育現場

 学校飼育を推奨する側は、学校が動物飼育をやめてしまうことをおそれて動愛法による適正飼育の基準を周知徹底させないという傾向が見られます。例えば、鳩貝太郎氏(全国学校飼育動物研究会役員/元国立教育政策研究所総括研究官)はこう述べています。


「動物愛護法に関してきちんとやっているところはほとんど無いです。動物愛護法は環境省の法律なんです。動物愛護法の飼養及び保管に関する規準では学校飼育動物はきちんと規定はしてあるんですけれども、其れを意図的に学校教育の中で指導しているということはまず無いです」(全国学校飼育動物研究会「動物飼育と教育・第11号 飼育担当あつまれ~(2009)」より一部抜粋)


 上記の事情から、現在も学校飼育の抜本的な改善や廃止を求めて愛護団体等に相談する教員や保護者が後を絶たず、ウェブ相談掲示板(発言小町、OKウェブ等)にも多数の相談が投稿されています。

 

■社会的に見る学校飼育の問題

 

増えた学校飼育動物とその処分の実態

  意図的・非意図的にかかわらず、うさぎの繁殖が常態化している学校も散見します。全国学校飼育動物研究会の冊子には、「負担の少ない、楽しい継続飼育と教育的効果」の課題例として、「ウサギを育てて、来年の春に子を産ませ、新一年生のために生後2ヶ月の子ウサギを抱かせる」等の記載があり、繁殖を是認しています。増えたうさぎ達は児童の家庭、地域住民などに引き取られることがありますが、

 とある自治体では、「動物死体処理受付票」の情報開示請求により、過去5年間で300匹ものうさぎが公立幼稚園や小学校から引き取られ、死体処理されていたことが明らかになっています。

 

学校飼育動物の医療支援の限界

 全国各地で獣医師が学校での動物飼育に係わり、「学校飼育に関する無料相談、診察および治療を廉価で行なう」支援を10年以上前から開始したとされています。医療支援の広がりはありがたいことではありますが、獣医師会加入がない市町村もあり、うさぎ等エキゾチックアニマルの歯牙、胃腸疾患、膿瘍、感染症に対応可能な獣医師が少ないため飼育動物の福祉が守られず、改善の決め手になっていないのが実情です。

 

地域支援者の精神的・経済的負担

 病気や老齢で介護が必要となったうさぎを父兄に引き取らせるよう指導したり、飼育動物の世話を地域住民に依存する全国学校飼育動物研究会の方針は、支援者を疲労困憊させ、精神的・経済的負担を強いる状況を生じさせています。同会の発行誌には「飼えなくなったら父兄に引き取らせればよい」と記載がありますが、「地域の連携・支援」などと安易に打ち出すことにも問題があります。


 事例①S市内小学校の母親は歯牙疾患のうさぎを引き取り、30万円以上の高額治療費を支払った。
 事例②S県内小学校の母親は2年間ほぼ毎日給餌給水に通っていた。
 事例③都内在住のうさぎ飼養者は市内の小学校4校を一人で給餌給水し、夏休みは毎日通っていた。

 

動物虐待等による被害

 全国の教育現場で、学校飼育動物が多数、虐待等の事件によって死亡しています。2002年~2009年までにニュース・新聞掲載にて公表され、収集可能な事件を集計したところ、その数は、212匹(31件)にも上りました。(寒暑・災害・疾病放置などによる死亡頭数は実態把握が行われていません。)

 

(NPO法人地球生物会議 会報『ALIVE』No.101 2012年冬号より)

 

この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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