犬オークションの現場 ペット流通のブラックボックス①

日本独特の流通システム。犬ビジネスの隆盛とともに巨大化し、複雑化してきた。だがそれが、様々な問題の温床にもなっている。捨て犬を生み出す、「ブラックボックス」に迫る。(編集部 太田匡彦)



ペットオークションでは途絶えることなく子犬が競りにかけられていく(写真は本文とは別のペットオークション)
ペットオークションでは途絶えることなく子犬が競りにかけられていく(写真は本文とは別のペットオークション)

 競り人の声がマイクを通じて大音量で聞こえてくる。その合間を縫うように、子犬や子猫のか細い鳴き声が耳に届く。

 中央に小さな檻が据えられ、周囲を折りたたみ机が取り巻く。約80人の男女が、普段着で折りたたみイスに座る。備えつけられたボタンを手にするのが、子犬を競り落としに来たペットショップのバイヤーたち。それ以外は、出品しているブリーダーだ。

 ある地方の、幹線道路沿いに立つペットオークション(競り市)会場。プレハブ造りのこの会場で毎週、子犬や子猫の競りが行われている。

「プードル、メスでぇす」

「柴犬、オスでぇす」

 競り人が独特の調子で一匹ずつ犬種名、性別などを読み上げる。するとビニール製の手袋をはめた男性が子犬を片手で高く持ち上げ、中央の檻まで運んでくる。途中、骨格や関節を確認するためか素手で子犬をさわるバイヤーもいる。

 バイヤーたちは、檻の中の子犬とその上に据えられたモニターに映る伝票を凝視しながら、ボタンを握りしめる。2人以上がボタンを押し続ける限り、落札価格は1000円ずつ上昇する。すぐに5万円、6万円という値がつき、子犬が競り落とされていく。一匹につき数十秒、長くても数分で買い手が決まる。

 競り落とされた子犬は、すぐに小さなカゴや箱に詰め込まれ、バイヤーの前に積まれていく。目の前に小山のようにカゴを積んでいくのは、誰もが知っている大手ペットショップチェーンのバイヤーたちだ。

 こうして、毎週300~500匹の子犬がこのオークションから各地のペットショップへと流通していく。

年間35万頭

 2008年度、全国の地方自治体に引き取られた犬は11万3488匹に上り、うち8万2464匹が殺された。本誌ではこれまで、大量の捨て犬を生み出す犬の流通システムの「闇」を暴いてきた。

チャート1:2008年に流通した犬の流通・販売パターンと流通総数について、環境省が推計したデータをもとに、独自の取材を加えて作成。%は推計流通総数に対する各ルートの流通数の割合を示す
チャート1:2008年に流通した犬の流通・販売パターンと流通総数について、環境省が推計したデータをもとに、独自の取材を加えて作成。%は推計流通総数に対する各ルートの流通数の割合を示す
 流通システムの根幹を成しているのが、ペットオークションだ。チャート1を見てほしい。ペットショップ(小売業者)は、その仕入れ先のほとんどをオークションに依存している。ブリーダー(生産業者)にしても、出荷の5割以上がオークション頼り。推計だが年間約35万匹の子犬が、オークションを介して市場に流通している。つまり現在の犬の流通は、オークションなしには成り立たなくなっているのだ。

 オークションは日本独特の流通形態。現在全国で17ないし18の業者が営業している。売り上げは、ブリーダー(出品者)とペットショップ(落札者)の双方から集める2万~5万円程度の入会金、2万~5万円程度の年会費、一匹あたりの落札金額の5~8%に相当する仲介手数料から成り立っている。

(AERA 2010年5月31日号掲載)

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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