互いに心地よい柴犬との距離のはかり方②

「犬は家族の一員」という考えが浸透して、人と犬の距離が縮まった。
しかし、日本犬は心を許した飼い主に対しても一定の距離をとることが多い。
互いに適切な距離をはかるために、犬種の特性や暮らしを見直そう。
Text:Shio Kaneko Photos:Minako Okuyama
監修:山下國廣先生


お辞儀の距離がパーソナル・スペース

飼い主の近くにいてもわずかに距離を空ける

 心地よいと感じる他者との距離は、「パーソナル・スペース(他者の接近を許容できる空間)」も関係している。人の場合、日本人は欧米人よりもパーソナル・スペースが広いといわれる。挨拶を例に挙げると、欧米人は密着してハグ、日本人は一定の距離でお辞儀である。パーソナル・スペースは犬にもあるのだろうか。

「日本犬は飼い主さんの近くで寝そべっている時でも、わずかに距離が空いていることが多いようです。飼い主さんが近づいたり犬に触ったりすると、立ち上がって少し離れてまたドサッと腰を落ち着ける、という光景はよく見られます。これが『日本犬が心地よいと感じるパーソナル・スペース』なのだと思います」

 日本犬に対してお辞儀の距離をとらずハグのように密着する行為は、パーソナル・スペースを侵害している。

「日本犬は呼ばれて喜んで来ても、30~ 40cm距離を空けて座る、ツイテを覚えても20cmくらい横に離れてしまう、といったことがあります。これらは心地よい距離感の問題だと思われます。訓練で距離をゼロにすることも可能ですが、相当の練習が必要。日常生活に困らなければ、無理に距離を縮めなくても構わないと思います」

 犬を幼児のように扱うことは愛情表現のひとつかもしれないが、犬の距離感を尊重してあげることも必要だ。

犬のライフステージによる違い

警戒心と距離感の関係を考える

 犬は成長するに従って警戒心が芽生える。警戒心は距離感にも影響を与えるので、大まかなライフステージごとの違いを知っておこう。

子犬

保護者に守られているので警戒せず接触を受け入れる

 日本犬は警戒心が強い傾向があるが、子犬の時期には他者からの接触を受け入れる。保護者に育ててもらうコドモの時期は、他者からの接触を受け入れる必要があるからだ。また、危険な相手は保護者が排除してくれるため、警戒心を持つ必要がない。野生動物でも離乳前に保護して人が世話をすれば、人の手を受け入れて懐く。


成犬

自立した後は身を守るため他者を無条件に受け入れない

 むやみに近づかれたり接触されたりすることを嫌うようになる。野生動物の場合、オトナになって自立した後も他者を無条件に受け入れていては、敵やライバルに負けてしまう。日本犬は野生動物と同じ性質を持っているため、同じような成長過程をたどる。子犬と成犬では心地よい距離感が異なるのだ。


老犬

警戒心は成犬時と変わらないが心身の衰えで反応が変わることも

 身体的な衰えにより、依存性が増して受け入れる距離が近くなったり、逆に気難しくなって接近を嫌うようになったり、心地よい距離感が変わることが。山下先生への相談では、目や耳の衰えにより他者の接近に気づかず、至近距離になって気づいて驚いて噛む、というケースも。様子を見て適切な距離で世話をしてあげたい。

監修:山下國廣先生

日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)卒、獣医師。犬のトレーニング、問題行動治療を行う「軽井沢ドッグビヘイビア」主宰。家庭犬のしつけ指導から作業犬の訓練まで、幅広く活動している。災害救助犬としても活躍した甲斐犬のすぐり(オス)と、15年7ヶ月を共に過ごした。

軽井沢ドッグビヘイビア https://www.karuizawa-dogbehavior.com/

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