鼎談 動物病院との付き合い方① 飼い主の疑問、獣医師の本音

飼い主にとって、身近であるべき動物病院。
だが、どのように付き合っていけばいいのか、誰も教えてくれない。
飼い主、街の動物病院、大学病院それぞれの立場から、動物病院と飼い主の理想の関係を考える。
構成=太田匡彦 写真=高井正彦


(写真は本文と関係ありません)
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藤田道郎×新妻聖子×山根義久

山根 私は1970年に鳥取県倉吉市で動物病院を設立しました。50歳を過ぎてから東京農工大学に招かれまして、大学の教員をすることになりました。ですから、街の動物病院と大学の両方を、半分ずつくらい経験してきたわけです。個人的にも倉吉の自宅で犬を飼っていまして、ダックスフントとプードル、それに60キロ以上もあるセントバーナードがいます。

藤田 僕は中学生のころから獣医師を目指していました。「人を治す医者はたくさんいるのに、動物を治す医者は少ないんじゃないか」と子ども心に思っていたので。大学で獣医師になるための6年制教育を終えた後に博士課程に進み、そのまま大学に残ることにしました。猫好きなので、猫を飼っています。野良猫だったのを拾ってきた子です。

新妻 山根先生と同じく犬派です。タイのバンコクに家族で住んでいた頃にチベタンスパニエルの子犬に出会いました。バンコクの青空市場のようなところで、ゴミ箱みたいなケージに入れられて大量に子犬が売られていて、そのなかで一番ガタガタと震えていた子でした。「天馬」という名前をつけて、最後は日本で一緒に暮らしていました。2012年に17歳で亡くなりましたが、天寿を全うした大往生だったと思っています。

山根 海外で飼い始めたそうですが、日本ではかかりつけの動物病院があったのですか?

新妻 日本で一緒に暮らし始めてからは「家の近く」という判断基準だけで、動物病院を選んでいました。10歳を過ぎてからは、そこで定期的に健康診断もしてもらっていました。さらに高齢になってからは、東京大学附属動物医療センターで受診したり、友人に紹介してもらった動物病院に通ったりしていました。そういう、いわゆる専門的な動物病院を転々とし始めたのは、天馬が本当に晩年になってからです。それまでは、どうしても「近さ」を重視しちゃっていました。そういう選び方でよかったのでしょうか?

山根 私は、飼い主さんと同じ目線でものを見よう、しっかり説明しようとしてくれるところが、いい動物病院だと考えています。上から目線だったり、治してやろうというような姿勢だったり、というのはやはりよくないですね。それと、私自身は循環器を専門としていますが、それ以外の分野については専門的な勉強はそれほどしていない。街の動物病院では、「ホームドクター」として様々な動物について、すべての診療科目を診なければいけないのですが、一方でオールマイティーな獣医師というのはいないんです。

 ですから、自分の能力を超える症例などに出合った場合には、なるべく早く見極めて、専門の先生に紹介するということが必要になってきます。こうした付き合いのなかで、飼い主さんとの信頼関係が生まれてきます。こういう動物病院を見つけられると、動物にとっても飼い主さんにとっても最高です。

新妻 動物病院は、人の病院に比べると選択肢が圧倒的に少ない気がしています。ですから「家の近く」ということで訪ねてみても、すぐに自分たちに合った動物病院を見つけるのは難しいですよね。何度か通いながら、またはいくつかの動物病院を回ってみながら、信頼関係が構築できそうかどうか判断していく必要がありそうです。

 あとは飼い主として、どんどん質問をしていくことが大事かもしれませんね。愛犬のために、病気について知りたい、理解したいと思うのは当然の気持ちです。天馬の時にも、先生たちにとことん質問をして、私自身はある程度納得しながら見守ることができましたから。

「獣医師にどんどん質問してください。そこから信頼関係が生まれます」
「獣医師にどんどん質問してください。そこから信頼関係が生まれます」

「これまで飼った猫はすべて元野良猫。今いる子は鼻にがんができて治療中です」
日本獣医生命科学大学付属動物医療センター長 藤田道郎(ふじた・みちお)

1963年大阪府生まれ。日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)大学院博士課程修了。小動物の放射線腫瘍学などが専門。第1種放射線取扱主任者の国家資格も持つ


「17歳で大往生した天馬はわが子のような存在。無償の愛を注いでくれました」
女優・歌手 新妻聖子(にいづま・せいこ)

1980年愛知県生まれ。2002年、「王様のブランチ」(TBS系)でデビュー。03年、5千倍のオーディションを突破し、ミュージカル「レ・ミゼラブル」エポニーヌ役にて初舞台。以降、「ミス・サイゴン」キム役を務めるなど、ミュージカル界屈指の歌姫として活躍。第31回菊田一夫演劇賞、第61回文化庁芸術祭演劇部門新人賞、第7回岩谷時子賞奨励賞を受賞。その豊かな表現力と、力強くかつ美しい歌声は唯一無二と評される。また現在は、JDL IBEXのCMに出演、ANA機内オーディオ「Hot Hits Selection」ナビゲーターも務めている。NHK大河ドラマ「真田丸」にも出演。16年9月28日にはニューシングル「この祈り~The Prayer~」をリリース。10月1日からは、自身初の全国でのコンサートツアーを控えており、好評のうちに終えたばかりのミュージカル「王家の紋章」の再演も発表された。ドラマやバラエティー番組でもその存在感を発揮するなど活動は多岐にわたり、今後の活躍がますます期待される実力派として、注目を集めている。
ヘアメイク/SHIZUE



「40年以上前に開業しました。動物と接する仕事に長く携われていて幸せです」
動物臨床医学研究所理事長 倉吉動物医療センター会長 山根義久(やまね・よしひさ)

1943年鳥取県生まれ。前日本獣医師会会長。動物の循環器系疾患が専門。2013年、地元・倉吉市に動物保護施設「人と動物の未来センターアミティエ」を開設した

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この連載について
from AERA Mook「動物病院 上手な選び方」
AERAムック「動物病院上手な選び方」(朝日新聞出版)に掲載された、ペットの飼い主に役立つ記事を集めた連載です。
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