あなたの卵の選択でニワトリたちに動き回る自由を

今年は酉年ということで、今回は卵を産むニワトリをフィーチャーします。


「物価の優等生」といわれる卵。1960年代以降価格がほとんど上がることなく、家計の味方といわれてきました。価格の上がらない理由は、円高の下で外国産飼料が安価に手に入るようになったからといわれていますが、果たしてそれだけでしょうか。

 卵を産むニワトリは、卵用鶏(らんようけい)、採卵鶏(さいらんけい)と呼ばれています。鶏肉にされる肉用鶏=ブロイラーが短期間に少量の飼料で大量の肉ができるように品種改変されてきた一方、採卵鶏は、短期間に少量の飼料で大量の卵を産むように改変されてきたものです(ふつう「品種改良」という言葉が使われますが、あえて「品種改変」という言葉を使います)。ニワトリは本来1年に20個程度の卵しか産まない動物ですが、この品種改変により、年間300個もの卵を産む体に変えられてしまいました。

 コストパフォーマンスを上げるための工夫は、ニワトリの飼い方にも表れます。「バタリーケージ」と呼ばれるワイヤーでできたケージのなかにニワトリを詰め込み、それを何段かに重ねて飼育する方式ですが、ニワトリ一羽あたりに与えられた面積はB5サイズほどしかありません。四方と床はすべて金網で、産んだ卵を採集しやすいように床は傾斜しています。人間でいうならまさに満員電車状態。この状態でニワトリたちは約2年間、卵を産み続けなければならないのです。このバタリーケージによる超過密飼育は、日本の養鶏場の92%で行われています(※畜産技術協会による)。

 また、1日に1万回以上も地面などをつついて採食や探索をする習性のあるニワトリですが、狭い檻のなかで仲間をつついて傷つけないようにと、麻酔なしでくちばしを切断する「デビーク」という処置が84%の養鶏場で行われています。さらに、ニワトリはホルモンの作用により羽が生え変わる時期に2~4か月間卵を産まなくなるのですが、卵の産めない期間を短縮するために、絶食させて強制的に換羽させる方法も広く行われています。

 身を隠すことのできる巣もなければ、止まり木もない。それどころか歩き回ることも羽を伸ばすこともできない。生産効率ばかりが追求された結果、動物の本来の習性はまったく無視され、意識も感覚もある動物を、食物を生み出す単なるマシンとしてしか扱わない方式ができあがりました。これは「工場畜産(Factory Farming)」と呼ばれ、大量生産大量消費という現代の悪しきシステムがもたらした産物です。

 20世紀に入ってからアメリカを中心に全世界に広がっていった工場畜産は、1962年レイチェル・カーソンがその著書『沈黙の春』のなかで環境保護の観点から批判。1964年に英国で工場畜産における動物たちの悲惨な実態を告発した本『アニマル・マシーン』が出版されると、同国の議会でも問題視され、翌1965年、畜産動物への虐待的行為を防ぐための飼育基準がつくられます。

 この後1970年代から「動物の福祉(アニマルウェルフェア)」という概念がヨーロッパを中心に普及していくのですが、英国での告発から約半世紀を経てようやく、2012年にEUでバタリーケージが法的に禁止されると、2015年以降、誰もがよく知るグローバル企業が次々とケージ飼い卵の取扱いの削減や廃止へと踏み出し始めました。

 例えば、世界最大のホテルチェーン・ヒルトンが2017年末までに世界19ケ国のホテルでケージ卵廃止を発表(*1)、マクドナルドは2025年までに(*2)、スターバックスは2020年までに(*3)、食品大手のハインツは2025年までに(*4)、ウォルマートは2025年までに(*5)ケージ卵を廃止していくという目標を設定しました(ただし残念ながらこれらの対象地域に日本は含まれていません)。そしてついひと月ほど前、インターコンチネンタルグループが、日本を含む全世界のホテルで2025年までにケージ卵を廃止するといううれしいニュースが流れました(*6)。

 一方、日本ではどうでしょうか?畜産動物の福祉を担保するための法規制は存在せず、スーパーに並ぶ卵のウリは、その安さか、あるいは飼料の安全性または品質の良さなどで、ニワトリの福祉に配慮したうたい文句を見かけることはほとんどありません。それは、ほかならぬ私たち消費者が追い求めた結果だといっても、言い過ぎではないと思います。

 卵の価格が何十年も変わらずに安いままなのは、その分ニワトリたちに苦しみを背負わせてきたからではないでしょうか。

 ぜひ、1パック100円の裏にあるニワトリたちの境遇を知って、少しでも動物の福祉に配慮した放牧卵や平飼い卵を選んで購入してください。少し値は張るかもしれませんが、ニワトリに自由が与えられると思えば、その気持ちはプライスレス。これを機に、卵の消費量を少し減らすのもいいかもしれません。

 ケージフリーの卵を買いたいと思っても近所のスーパーに売っていないですって?それならぜひその声をお店に届けましょう!

 現在、協力関係にあるNPO法人アニマルライツセンターが、スーパーや飲食店など卵を扱う企業に対して、ケージフリーの卵を導入するように訴える署名キャンペーンを展開中です。(https://goo.gl/btpzZE


写真提供:NPO法人アニマルライツセンター

株式会社ロゴナジャパンのオンラインストアサイトに2017年1月に掲載されたコラムを一部修正のうえ、転載しました。

JAVA
NPO法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)。1986年設立。動物実験の廃止を求める活動を中心に動物の権利擁護を訴え、世界各国の動物保護団体と連携しながら活動している市民団体。
この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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