約1000匹のうさぎが暮らす島 見守る「うさぎ写真家」

 第15回目の今回より2回にわたり、広島県の大久野島で暮らすうさぎたちを写真家として撮りつつ、生態の暮らしに変化がないよう見守る活動も行っているutaさんにお話を伺います。大久野島のうさぎたちの今をご紹介します。
(うさぎと暮らす編集部)


大久野島のうさぎ(撮影・uta)
大久野島のうさぎ(撮影・uta)

大久野島とは?

 瀬戸内海に浮かぶ小さな島・大久野島。広島県中南部にある、芸予諸島の島の一つです。ここには野生のうさぎが多数生息しているため、「うさぎの楽園」「うさぎ島」として知られています。面積0.7km²、周囲約4㎞と1時間もあれば徒歩で全周できるほどの小さな島です。


 現在はうさぎたちがのんびりとくつろぐ姿が印象的な癒しスポットとなっていますが、昭和4年から終戦までは毒ガス兵器の製造工場があったため、別名「毒ガス島」と呼ばれ、地図から消されていた島でした。


 この島になぜうさぎが増えたのか―。これには諸説ありますが、昭和46年に島外の小学校から持ち込まれた8匹のうさぎが700匹に増えた、毒ガスの実験にされたうさぎが終戦後、施設とともに放置され、繁殖したなどと言われています。


 また、ほ乳類としてうさぎばかりが増えた理由としては、島内にうさぎを狙う獣類=天敵が少なかったことがあげられます。ただし空からカラスやトンビには狙われることがあるそうです。


 近年では動画投稿などで、この島でうさぎにご飯を与える姿が投稿されることが増え、「うさぎとふれあいたい」という目的で、この島にあらゆる国から観光客が訪れるようになりました。


 大久野島で暮らすうさぎは、野うさぎではなく、アナウサギが改良されたイエウサギです。イエウサギは野うさぎよりも手足が短い、巣穴を掘って集団で暮らす、縄張りの範囲で暮らす、換毛はするが毛色は変わらないなどの特徴があります。


 実際のところ、大久野島のうさぎの毛色はさまざま、時に長毛種などがいることがあり、最近まで島外からうさぎが持ち込まれた事実を物語っています。


(島内にうさぎを置いていくこと、島内のうさぎを連れ帰ることは厳しく禁じられています。島内に盲導犬・介助犬以外の犬、猫などのペットを連れていくことも禁止されています)

 

utaさん(中村隆之さん、麿矢さん夫妻)
utaさん(中村隆之さん、麿矢さん夫妻)

utaさんの活動のはじまり

 utaさんは大久野島のうさぎをはじめ、たくさんのうさぎを撮影する「うさぎ写真家」として活動する中村隆之さん、麿矢さんご夫妻です。


 大久野島を訪れるようになったのは、17年前。広島県出身の隆之さんが、麿矢さんを「うさぎさんのいる島に行こう」と軽い気持ちで誘ったことがきっかけなのだそうです。


「初めて行ったときは、お弁当を持ってピクニックに行く気分でした。けれども、かわいいうさぎの仕草などに一目ぼれをして、いつしか写真を撮り始めました。我が家にも『しろくま』といううさぎがいるのですが、一緒に暮らしているうさぎと違って、大久野島のうさぎは過酷な環境があったりもする中で、イキイキと暮らしている姿に心を打たれました」と隆之さん。

 

大久野島のうさぎ(撮影・uta)
大久野島のうさぎ(撮影・uta)

何度も足を運ぶうちに・・・

 こうして本業の合間を縫って島に通い、多い時は1ヶ月に7回くらい訪れているutaさん。うさぎたちの様子をカメラに記録したり、話しかけたりしていく中で、それぞれの顔の見分けがつくようになったそうです。忙しくて行けない時は、彼らの様子が気になって仕方がないそうです。


 大久野島は基本的に無人ですが、忠海港から島へ渡るためのフェリーの船員、島内のビジターセンター・休暇村のスタッフたちと連携しながら、うさぎたちがストレスを極力受けずに暮らしていけるよう活動しています。


「うさぎたちの見た目の特長などから、簡単に名前をつけて親しんでいました。また、そうやって区別して観察することによって、その子が何年島で生活して、どんな子だったかが記憶に残るんです。またブログなどで、その呼び方で呼んでいたら、ブログを見てくださる方も同じように呼ばれるようになったり・・・。現在、島には1000匹ほどのうさぎさんが住んでいますので、全員ではありませんが、名前をつけることによって、その子の行動がまたさらに面白く思えてくるんですよね」と麿矢さん。

 

大久野島のうさぎ(撮影・uta)
大久野島のうさぎ(撮影・uta)

うさぎの変化

 17年間見つめてきた大久野島のうさぎ。これまでutaさんはいつでもうさぎたちの目線に沿って住環境の改善のために尽力されてきました。観光客の中にはうさぎを抱っこしたいと試みる方も少なくありません。


 ただ、うさぎと暮らしている方はよくご存知ですが、おうちで暮らしているうさぎもほとんどの子が抱っこは嫌がります(ナデナデは好きです)。ましてや野生下で暮らしているうさぎを無理やり追いかけて抱っこして落下してしまったら…。


 こうした観光客のマナーに関しても注意事項を明記した看板を島内に立ててもらうように活動してきたそうです。


 最近ではうさぎたちの食生活も気がかりなことがあるそうです。


「私たちが通い始めた頃は、うさぎの数が今よりずっと少なかったので、山側の子たちは、人に寄り付かない子がほとんどでした。ただ、休暇村がある側、うさぎの多いエリアの子たちは、その頃からビニールの音がすると(ごはんがもらえると学習している)走り寄ってきていました。それが、今では、山側の子たちでも人を見るとご飯をもらえると思い、走り寄ってきます。私たちは山側の子たちは、臆病なくらいがちょうどよいと思っています。観光客が増えて、ごはんをもらえる機会が増えたことで、うさぎたちがごはんは人からもらうものと覚えてしまったのです。つまりうさぎたちが自発的に食事をとる機会を奪ってしまっていることに対して危惧しています」。


 次回は、大久野島のうさぎに今起きている問題点を具体的に紹介していきます。

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