麻布大回答 「サイエンス」誌論文は不正ではないが間違い訂正へ

 以前、当会ブログでオオカミを合法的に飼育している個人は確認できないことをご報告したのですが、その際、犬のように育てられたオオカミを行動実験に使ったとされる麻布大学の論文の疑問点についてもご紹介しました。


 この件に関し、当会では、2月11日づけで麻布大学教務部学術支援課に疑義照会文書を送りました。


 論文は、具体的には「サイエンス」2015年4月17日号掲載の” Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds. “(Science. 2015 Apr 17;348(6232):333-6. doi: 10.1126/science.1261022)です。「ヒトとイヌの絆形成に視線とオキシトシンが関与 共生の進化の過程で獲得した異種間の生物学的絆の形成を実証」としてプレスリリースも出ている論文です。責任著者は菊水健史教授、第一著者は永澤美保講師でした。


 いわゆる文科省の不正ガイドラインが定める不正と考えていたわけではないのですが、論文の行動実験に協力したと書かれている千葉県のブリーダーが飼育していた個体がオオカミであれば違法飼育であり、論文の倫理性に問題がありますし、オオカミ犬であれば論文の記述の正確性や科学性に疑問が出てくるという状況がありました。


 さらに論文にはオオカミの数だけで飼い主の数は書かれていませんから、当会としては、オオカミを合法に飼育している人が日本にたくさんいるという誤解が有名雑誌の論文を通じて広まることは、安易なオオカミ(ないしはオオカミ犬、特にいわゆるHighパーセントの個体)の飼育を誘発しかねず、結局は狭い檻に閉じ込め飼育となるこれらの動物の福祉にとって好ましくないと考え、疑義照会を行いました。


 もう一つ、責任著者である菊水教授が、56日未満犬猫の販売規制に関連する環境省の調査を担っていることも気がかりになる点ではありました。


 疑義照会文書は公益通報窓口である学術支援課に送りましたので、大学からの回答文書によると、2月15日には予備調査委員会を設置し調査を行うことが決定されていたとのことです。


 予備調査期間は1回目が2月16日から3月8日、2回目が3月9日から3月14日でした。この間に、予備調査委員会で検討したが、もう少し調査を行うとの連絡が一度当会あてに来ていました。


 結論から言うと、千葉県のブリーダーが飼育していた個体についてはオオカミ犬と判定されており、論文のオオカミの匹数の記載を事実誤認として、被告発者である責任著者が自ら「サイエンス」誌にエラータム(間違いの訂正)を申請する方針が確認されたとのことでした。


 論文には、北海道の展示業者(動物園ではなく小規模な事業者)も協力したことが書かれていますので、そこで飼育されている4頭のデータをオオカミのものとして最終的に残して申請されるのではないかと思います。


 訂正申請に伴う科学的な判断については、「サイエンス」誌にゆだねると書かれており、大学としては、研究活動上の不正行為には該当しないため本調査は行わないことになったとのことでした。


 論文にはオオカミは11匹と書かれていたので、大学からの回答に6匹と書かれていることで若干疑問が残りましたが、最終的に「オオカミは4匹、飼い主は1人」であることは明確になりました。論文が訂正される際には、飼い主が1人であることもぜひ記載してほしいと願っています。


 現時点でまだ論文に訂正はなく、しばらく時間がかかるようですが、丁寧な対応をくださった麻布大学に対し、心より感謝申し上げます。

この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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