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犬や猫と最期まで暮らせる老人ホーム、日本動物愛護協会が表彰

佑介を抱く澤田さん
佑介を抱く澤田さん

 長期入院したり、施設に入居したりすると、ペットと離れ離れにならざるをえない。高齢の飼い主にとって、それはとてもつらいことだ。新たな飼い主や、預かってもらえる施設を探すなどの選択もあるが、本音ではずっと一緒に暮らしたい……。こんな思いに応えるような高齢者施設がある。犬や猫はどんなふうに過ごしているのか、訪ねてみた。

(末尾に「さくらの里 山科」の写真特集)

 

 神奈川県横須賀市。緑に囲まれた静かな住宅地の中に、特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」がある。設立は2012年4月。4階建てで、定員は100人。2階に犬や猫と暮らせるユニット(区画)がある。犬と猫のユニットは別で、それぞれ20部屋あり、現在は猫が10匹、犬が6匹いる。

 

 施設長の若山三千彦さんに案内されて、まずは猫のユニットを見せてもらった。

 

 ユニットは、扉をはさんで左右二つに分かれている。「猫の飛び出しに注意」というドアを開けると、のんびりと廊下を歩いている猫がいた。居間のソファでお年寄りとテレビを見ている猫もいる。猫は自由に”住居“であるユニット内を歩けるのだ。各個室も行き来できる。

 

「入居時に飼っているペットがいなくても、動物好きで、希望があれば、このユニットに入ることができます。昔飼っていたのでまた触れ合えて嬉しい、という方もおられます」(若山さん)

 

 入居前には細かなアンケートをとる。動物が苦手な人は階が違うため、犬や猫と一切会うことはない。アレルギーがあっても、一般のユニットで問題なく過ごせる。

 

 2年前に愛猫の佑介(10)と入居した澤田富與子さん(72)の部屋にお邪魔してみた。

 

 約8畳の洋間。澤田さんは部屋の真ん中に置いた机の前に座り、趣味の石鹸アートに取り組んでいるところだった。

 

「猫ちゃんは?」

 

 姿がないので聞くと、「ここですよー」と、澤田さんは膝の上にかけた毛布の中を指差した。

 

「もう甘えん坊で、甘えん坊で。ばっちゃん(私)がいないと、だめなのよね」

 

 膝の毛布をめくると、白と茶の模様の佑介くんが、眠そうな顔を上げた。膝で昼寝中だったのだ。佑介くんが赤ちゃんの時から粉ミルクで育て、まさに子どもそのもの。夜は同じベッドで一緒に眠るという。

 

 部屋にはトイレを置いたケージがあり、棚にはキャッフード。壁には佑介くん以外の猫の写真もたくさん貼ってあり、猫好きな方のマンションの一室という感じだ。澤田さんがいう。

 

「数年前に体調を崩して、民生委員の方から施設入居を勧められたのですが、佑介と離れるの? という不安から10㌔も痩せてしまって」

 

 澤田さんは1人暮らしで子どもはいない。少し離れて住む姪が、神奈川県内のペットホテルでこの特養のことを聞き、入居の相談をして、離れ離れの危機を乗り越えることができた。

 

 室料は13万円(家賃+食費)+介護保険負担料。

 

 佑介くんは尿路結石の管理が必要なため、フードは姪が療法食を買って送ってくれるという。

 

「佑介は、私がトイレに行く時は廊下まで出てきて、トイレ前で見守るように待ってるの。それでまた部屋まで戻ってくる(笑い)。でも時々居間にふらっと行って、仲間の猫ちゃんと挨拶することも。今はここが我が家で、佑介も安心しているのね」

 

 動物と暮らしてきた人にとっては、まさに嬉しい環境だ。

 

子猫の時から澤田さんと一緒に暮らす佑介
子猫の時から澤田さんと一緒に暮らす佑介

 若山施設長に設立の動機を聞いた。

 

「以前は在宅中心の介護サービスをしていて、犬や猫を家で飼うお年寄りを大勢見てきました。でも皆さん一様に、施設入居時にお困りになるのです」

 

 若山さんはある時、こんな場面を目の当たりにしたという。ミニチュアダックスフントと暮らす80代の男性が、体の衰弱と認知症のため老人ホームに入ることになった。犬も高齢だったが引き取り手が見つからず、男性は泣く泣く、犬を保健所に渡した。

 

「犬と離れた時の男性の落胆ぶりがひどく、老人ホームに入って半年も経たずに亡くなってしまったのです。犬と離れてから、生きる気力を失ったように見えました」

 

 人生の最後に大事な存在と別れて、どんなに寂しかったことか―。その思いが胸に迫った若山さんは一大決心をした。

 

「高齢者とペットの問題を、福祉の問題として解決できないかと考え、試行錯誤して動物と一緒に入れる特養ホームに取り組んだのです」

 

 一般ユニットと階を完全に分け、犬と猫のユニットで働くスタッフは「動物好き」限定で募集。動物愛護団体「ちばわん」や、近隣の動物好きのボランティアなどの協力も仰いだ。犬のしつけは訓練士の手も借り、動物病院での定期健診やワクチンも欠かさない。

 

「愛護団体が保護した犬や猫も引き取るケースもありますし、施設内で譲渡会も開いています」

 

 高齢でペットをもう飼えないという近隣の人が、「ここに来るとカワイイ子に会えるから」と犬の散歩や猫のケアなどを手伝ってくれるそうだ。

 

 でももし、入居者(飼い主)が先に亡くなったら、ペットはどうなるのか?

 

「ここで生涯お世話をします。この施設には、家で飼い主さんが倒れて残されて、民生委員などからの連絡で引き取った犬や猫もいるんですよ」

 

 アマとクロ(推定5~6歳)は、2年前に飼い主が孤独死して「家に残された」きょうだい猫。近所の人が施設に連れてきたという。今は猫ユニットの居間のアイドルだ。

 

 車椅子のおばあちゃんの側にいた茶トラ猫のとらのすけは、保護施設から来た。

 

「とらのすけは人に寄り添うんです。先日施設内で、あるお年寄りが亡くなったのですが、その数日前からとらちゃんがベッドで見守るように、その方と一緒に寝ていました」(若山さん)

 

居間で猫と一緒にくつろぐ入居者
居間で猫と一緒にくつろぐ入居者

 人が動物を愛し、動物が人を支える。日本ではまだ珍しいこうした取り組みをしている「さくらの里 山科」は1月、公益財団法人日本動物愛護協会から第8回日本動物大賞の「社会貢献賞」に選ばれた。審査委員長の湯川れい子さんは、「3.11で被災した人たちが、愛するペットを連れて逃げられなかったことで、沢山の悲劇が生まれました。 養護老人ホームをセラピー犬が訪問したり、ホームに飼われているペットがいたりといったことは話題になりました。しかし、ホームに入る老人がペットを連れて入所できるなんて夢のようです。ぜひ、継続を!」と選考理由を説明した。

 

 一方、動物大賞には岐阜県本巣市立小学校動物ランドが、功労動物賞には山口県下関市しものせき水族館のスナメリ、多摩動物公園のアジアゾウが選ばれた。表彰式は3月13日、島根イン青山(東京都港区)で行われる。

 

 次回は犬のユニットの様子も紹介したい。

 

(藤村かおり)

 

日本動物愛護協会HP https://jspca.or.jp/

さくらの里山科HP  http://sakura2000.jp/smarts/index/8/

日本動物大賞表彰式の記事はこちら



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出典:sippo
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