TOP > 「友達が死んじゃった」老猫ホームの出会いと別れ てつとトラ、遊んで添い寝して……今はひとり

トピックス

sippo・sippo|更新|2016/03/16

「友達が死んじゃった」老猫ホームの出会いと別れ てつとトラ、遊んで添い寝して……今はひとり

てつ(右)とトラ
てつ(右)とトラ

 都内の老猫ホームで、寄り添うように生きてきた2匹の高齢の雄猫がいる。互いに飼い主の事情で施設に託され、晩年を過ごしていた〝おじいちゃん猫〟。出会って以来気が合い、片時も離れず一緒に過ごした。だがこの冬、突然の別れが……残された猫はどうしているか、訪ねてみた。

 

(文末に2匹の写真特集があります)

 

 彼の名はてつ(通称てっちゃん)。21歳の長寿猫だ。住んでいるのは東京都大田区にある老猫ホーム「東京ペットホーム」。飼い主の老いや病気など様々な事情で飼育できなくなった犬や猫を生涯預かる施設だ。てつは昨年の1月14日にここにやってきた。当時の様子を、施設スタッフの高橋あゆみさんが振り返る。

 

「成人の日に20歳の猫が来て、印象深かったですね。飼い主さんは80代の御夫妻で、2人そろって老人施設に入ることになり、泣く泣くここにお預けになりました。たくさんの猫を飼ってきて、夫婦のもとに最後に残ったのが、てっちゃんだったのです」

 

 老猫ホームにはすでに数匹の猫が住んでいた。その中でてつと年が近かったのが、19歳のトラで、てつの1カ月前に入居していた。

 

「トラちゃんの飼い主さんは70代で、ご自身の病気が重くなって飼えなくなりました。トラちゃんにもてんかんの持病があり、毎日薬を飲ませます。そのせいか少しぼーっとしてるんですが、てっちゃんとはすぐに仲良くなりました」

 

 基本的に猫はホームで1匹ずつケージの中で過ごし、運動不足にならないように、順番に10畳ほどのプレールーム(広場)で遊ばせている。相性をみるために、プレールームで猫同士で過ごさせることもある。てつとトラも、いきなり一緒にしたのではなく、様子を見ながら時折遊ばせていたのだが、どうやら2匹はもっと一緒にいたかったらしい。

 

 それぞれが寝るケージは、プレールームの奥に隣り合わせに置かれていた。寝る時は網目越しに互いの様子が見えるのだが……。

 

「ある朝、てっちゃんがトラちゃんのケージに入って寝ていたんです」

 

 ほかの猫のケージには鍵をかけるが、2匹は目の前のプレールームに出られるように鍵をあけておいたのだという。

 

「夜広場に出て、ケージに戻る時に間違えたのかなと思ったら、翌日、また朝になると2匹が一緒になっている。ほほ笑ましかったですね」

 

寝るときは一緒。トラのおなかを枕に寝ているてつ
寝るときは一緒。トラのおなかを枕に寝ているてつ

 互いの飼い主に報告すると、「それはよかった」「仲間ができて安心」などそれぞれから返事があり、寝床を一緒にすることにしたという。寝る時は、てつが頭をトラの背中にのせたり、トラがてつを後ろから抱くように〝ぴったり〟体を触れ合わせたりしていた。

 

 日中はプレールームで、19歳のトラのあとを、21歳のてつが追うように歩いた。ちなみに猫の19歳は人の約92歳、21歳は人の約100歳だ。ご長寿同士、二匹とも高い窓辺や猫柱には登れず、ただゆっくりと部屋を歩き、くつろいだ。

 

 昨年12月には、てつの飼い主夫妻から、「仲良しの2匹へ」と、てつとトラに、おそろいの枕が贈られた。

てつとトラ。プレゼントされたおそろいの枕と
てつとトラ。プレゼントされたおそろいの枕と


 だがその枕を並べて寝た3週間後、トラが体調を崩した。急に鼻水やくしゃみをして、動物病院に連れていって薬をもらったが症状がよくならず、間もなく呼吸が荒くなった。高橋さんはすぐに別の大きな病院に連れていった。肺炎にかかっていた。

 

「高齢で免疫も落ちていたのでしょうか、酸素室にいれてもらいましたが、危篤になって」

 

 翌日、病院からの連絡で高橋さんが駆けつけて看取り、飼い主の家族がその日のうちに引き取りにきたという。

 

「入院する前日まで、てっちゃんがトラちゃんに寄り添っていました。急にいなくなって、私たちもさみしいですが、実はてっちゃんもガクーっとなってしまった」

 

 トラがいなくなってから、一緒に寝ていたケージに入らなくなったのだという。

 

「今までそういうことはなかったんですが、プレールームで過ごしたらそのままぺたっと寝てしまう。排泄も必ずケージ内のトイレでしていたのに、じゅうたんとかでするようになって」

 

 食事はとれているが、体重は4キロから3キロ台に減ったという。筆者も昨年の秋にてつに会っているが、久しぶりに抱く体は、ふわっと軽かった。

 

 いつもと違う場で寝たり、おもらしをしたり。やはり、さみしいからなのだろうか--ある動物の専門家はいう。

 

「猫はもともと単独動物で、群れずに一匹でいることを好みます。相棒が死んでつらかろうと周囲が思っても、人の感情と猫のそれは違うのではないか」

 

 だがこんなことをいう獣医師もいる。

 

「猫は環境変化に弱い動物なので、仲間が目の前からいなくなった喪失のショックで、体調を崩したり行動が変わったりしてもおかしくはない」

 

 中には急に、今までと違う鳴き方をする猫もいるという。人が想像する以上の〝ロス状態〟が起きていることもありえるのだ。

 

 ホームでは、トラが旅立った後に、てつが他の猫と触れ合う時間も作ってみたが、「若くて元気すぎたりして、相性があわず」(高橋さん)結局、てつはほとんどの時間を1匹で過ごしている。

 

「年で目が悪いせいか、(距離感をつかめず)他の猫の間近に顔を寄せる。それを嫌がる猫もいるんですが、トラちゃんはぼーっとしながら受け入れていた。すべてがマッチしていたんですね」

 

 トラが〝唯一無二〟の存在であったことは、確かだ。共に過ごした時間は短いが、家から離れてもぬくもりを感じ、穏やかな時間を過ごせたのだろう。

 

「(天国の)トラちゃんが話せたら、今ごろこう言ってるんじゃないかな。いつも俺のあとを追ってたけど、おまえすぐ来るなって。来るならゆっくり来いよって」(高橋さん)

 

 そうだよ、てっちゃん、ゆっくり。

 

 一匹になったてっちゃんは、たくさんの大切なことを教えてくれている。

 

(藤村かおり)

 

前へ
てつ(左)とトラ
次へ
出典:sippo
1/11
前へ
次へ

専門の獣医師があなたの疑問にお答えします(健康医療相談)