津波で愛犬は行方不明、仮設生活 同種の犬に癒やされ前向きに

荷物を出し終えた佐藤さん夫妻=岩手県釜石市中妻町3丁目
荷物を出し終えた佐藤さん夫妻=岩手県釜石市中妻町3丁目

 佐藤美佐江さん(56)、太一さん(59)夫妻は4月下旬、岩手県釜石市の昭和園仮設団地から荷物を出し終えると笑顔で話した。「5年は長かった」


 美佐江さんはあの日、愛犬ゼロと自宅そばの鵜住居地区防災センター2階に避難した。津波に襲われ、カーテンレールにつかまり水面に顔を出して助かった。泳いで逃げられるようにゼロのリードを放した。ゼロの行方は今も分からない。


 本来は津波の避難場所ではなかった。だが、訓練で使われたために誤認した住民らが逃げ込み、推計で200人を超える犠牲を出した。美佐江さんは知人が津波にのまれるのを目にした。生存者は34人だった。


 生きるか死ぬかは紙一重だった。「一緒にいた人たちを1人でも助けたかったのに……」。生き残ったことに負い目すら感じた。壮絶な場からの生存者は精神的なショックを引きずっていた。一緒に逃げ込んだ夫を失った高齢女性は仮設住宅で自ら命を絶った。


 太一さんは地元のケーブルテレビ局に勤めている。ビデオカメラを回して復興を伝える。かさ上げ工事の進む地元に戻ろうと2月、住宅メーカーと契約した。防災センターは解体されてもうない。それでも妻の気持ちを考え、区画整理の換地で、同じ鵜住居でもセンター跡からやや離れた場所を選んだ。


 住まいの再建に道筋が見えてきた夫妻は少し気持ちが前向きになれた。2カ所目の仮設住宅も、宅地が引き渡されて自宅を建てるまで1年ちょっとの辛抱だ。


 震災後に自衛隊に入隊した次男は今春、市内に進出した運送会社に就職した。長男や三男も独立した。


 だが、夫婦2人きりではない。約1年前、ゼロと同じ種類の犬とペットショップで出会った。ラグビー好きの太一さんが付けた名前は「ロック」。ゼロとよく似たしぐさが夫婦を癒やしてくれる。


(山浦正敬)

朝日新聞
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