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思春期の息子の心を開かせた犬、今では父親が“添い寝”

あどけない頃のレイニー(2009年10月)
あどけない頃のレイニー(2009年10月)

 ペットのいる暮らしは楽しい。それだけでなく、家族の関係を好転させることもある。

 今回は、医師一家に笑顔をもたらした小さな犬のお話を紹介したい。

(末尾にフォトギャラリーがあります)

「早いものですよ。レイちゃんを迎えたときに中学生だった息子が今では大学生です」

 一家の主である昭さん(55)が目を細めて、犬の鼻先を触る。

 レイちゃんの“本名”はレイニー。7歳になるメスのミニチュア・ダックスフントだ。2009年秋、昭さんは妻と長男の3人で、ペットショップで出会って迎えた。息子はおとなしいタレ目のレイニーを気にいり、妻も「とってもお行儀がいい」と歓迎した。「雨がざあざあ降る日で、息子がレイニーと命名しました」

 実は犬を迎える前、昭さん夫婦は、思春期の長男のことで悩んでいた。

「それまで明るく何でも話していた息子が、中学生になったら感情を表に出さなくなり、まったく話をしなくなってしまった。環境の変化か、心理的変化か」

 その年頃の子どもは親に対して心を閉ざしがちだ。でも、親子関係の「ゆがみ」のきっかけにもなるし、コミュニケーションがとれないままではまずい、と昭さんは思った。昭さんは都内で開業している医師(総合内科医)で、息子の変化を何より心配したのだ。

 そんな頃、長男が久しぶりに口を開き、「犬が欲しい」と言い出した。犬がいれば、息子も声を出すだろうか……。

「ただ妻が潔癖症で、『室内で犬?』と最初は渋ったんです。だから犬種に関しては妻の要望もよく聞きました。いちばん長く家にいて、犬の世話に携わるのは妻だから。中型犬でなく小型犬がいいだろうねと」

 室内で暮らせる小さな犬、あまり吠えず、足をあげないでおしっこできる女の子……。運動量の多い犬は1回の散歩だけで1時間ぐらいかかり、負担が大きい。昭さんの好みはシェルティ(シェットランド・シープドッグ)だったが、妻の希望はトイプードルか、ミニチュアダックス。「うーん、だったらダックスのほうが」と昭さんは応じた。

 こうしてレイニーを家に迎えた。長男の変化は「予想以上」だった。

「息子は最初、犬の名を呼ぶこともなく、んー、んー、とか言葉にもならない声を発していたけど、そのうちに、『レイ伏せ』とか『おかわり!』とかはっきり言うようになり、抱っこもするようになったんです」

 そして、長男は家族とも会話するようになった。

「腰のためにもお尻をちゃんと支えて抱かないとね」と、昭さんや妻に自然に話しかけてきた。学校から帰ると、「ただいまー」と家の階段を駆け上がり、その先で待つレイニーと鼻と鼻を突き合わせて、“お迎え”を受けた。

帰宅した長男を迎えるレイニー
帰宅した長男を迎えるレイニー

 昭さんは振り返る。「レイちゃんは、言葉はないけど、存在そのもので息子の心を開いた。すごいもんです。高校に進むと、息子は獣医学の勉強をしたいと言い出しました」

 自分でもどうしてよいかわからない思春期に、共に生きる仲間を欲した息子の思いを、家族が聞き流さずに受け止め、タイミングよく“心の修正”ができたのかもしれない。

 昭さんは「『しめた!』と思った」と明かす。

「しめた!」にはもうひとつの意味があった。昭さんは医師として多忙で、結婚後は我慢していたが、実は大の犬好き。幼い頃の“愛犬との大事な思い出”を心の奥底にしまっていたのだ。

「子どもの頃、両親が仕事で忙しくて、僕は家政婦さんに育てられたんです。でも家政婦さんも終日いるわけではなく、一人ぼっちになる時間があった。その時に一緒に過ごしたのが、家にいたコリーでした。太郎って名前でしたが、これがいい犬でねえ」

 

 当時はほとんどの犬が屋外で飼われていた。太郎も犬小屋で暮らしていた。

「コリーは体が大きいから、犬小屋もすごく大きくて、僕も一緒によくその小屋に入ったものです。とっても暖かかったことを今も覚えていますよ」

 太郎が犬小屋から出れば、太郎の背中に乗せてもらって散歩した。犬と一緒にどぶ川に落ち、大騒ぎになったこともあるのだとか。

「あの時、あの時代、僕には太郎が必要だった。太郎にぺろぺろ舐められて、太郎の背中に温もりを感じて……思えば僕も、犬から生命のありがたさを学んだのかもしれません」

 太郎の長い鼻、体の大きさの割に短い脚の姿、そして交流の思い出が、昭さんの糧になってきた。だから、太郎に少しでも似ている鼻の長い犬種を息子にも薦めてしまった、という。

 その後、長男は結局、獣医学でなく歯学部へ進み、一昨年に家を出て都内の大学のそばで下宿中だ。それでも家に戻ると、まずレイニーに挨拶するという。

「息子は進路に迷った末に、獣医師の仕事は諦めたようです。今はよき歯医者さんになるべく勉強中ですが、悔いなく、今の道を選択できたのも、レイがいたからこそ。実は、4年ぐらい前から、僕自身にも変化がありました」

 昭さんは現在、レイと一緒に居間で寝ている。朝におしっこをしてから鳴くレイのケアのためだ。

昭さんの腕枕で眠るレイニー
昭さんの腕枕で眠るレイニー

「明け方に吠えて近所迷惑にならないように、レイと同じ布団にくるまって休んでみた。すると、かつての太郎をも思い出しながら、レイといい時間を過ごせる、と気付いて、犬小屋の代わりに布団をかぶって寝ているわけです」

 朝4時半に起きてレイを散歩に連れ出し、6時半に診療所に行くまで膝にのせて医学書などを居間で読む。

「レイも膝でくつろいで、まんざらでもなさそう。これがもう、至福の時です」

(藤村かおり)

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出典:sippo
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