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朝日新聞・朝日新聞デジタル|更新|2017/05/19

二本脚の犬「すみれちゃん」が行政を動かした 殺処分の問題も考えるきっかけに

補助器具を使わずに2本脚で河川敷を走り回る「すみれ」=高崎市
補助器具を使わずに2本脚で河川敷を走り回る「すみれ」=高崎市

 前橋市で昨年4月、大けがをした犬が警察に保護された。一命は取り留めたが2本脚に――。この一件は、その後の動物保護をめぐる行政間の連携や制度、殺処分、飼い主の意識など、多くのことを考えるきっかけになった。あれから1年が経ち、行政の取り組みも少しずつ変わった。群馬県は今年度からふるさと納税の使い道に「動物愛護」を新たに加えた。動物愛護団体は「2本脚になったこの子(犬)から、改めて命の尊さを考えてほしい」と訴える。


 保護された犬の名前は「すみれ」。推定8、9歳のメスの柴犬(しばいぬ)だ。現在、動物愛護のNPO法人「群馬わんにゃんネットワーク」(高崎市)の星野ちづるさんが預かっている。


 すみれは2015年12月に高崎市内で「迷子」となっていたところを収容された。飼い主が見つからなかったため、ネットワークを通じて譲渡された。しかし、16年4月9日、上毛電鉄の線路脇(前橋市)でけがをしているすみれを見つけた人が110番通報し、前橋東署が保護した。


 署は保健所に対応を頼もうと市に電話したが、土曜日のため「週明けの対応になる」との答えだった。結局、土、日曜は署員が水を与えるなどして様子を見た。鑑札から飼い主がわかったのは月曜だった。


 様々な事情から同ネットワークが飼い主から所有権を譲り受けて手術をした。傷口の状態が悪く、左の前後の脚と尻尾を切断した。


 すみれをめぐる警察署や市などの対応は、制度上の問題はない。ただ、週末の行政間の連携などについては、改善の余地があることもわかった。


 市はその後、市内の2警察署に土、日曜もつながる担当職員の携帯電話の番号を伝えた。市民からの連絡にも備え、市の当直から保健所職員に連絡が届く体制にした。けがの程度によっては市の担当獣医師が判断し、県獣医師会と連携して病院を探す仕組みも整えた。


 ただ、飼い主が見つからなかったり、高額の手術費などがネックとなって飼い主が治療を選択しなかったりするケースもあるという。その場合、自治体は保護した動物すべてを手術・治療できるわけではない。保健所を置く県や前橋、高崎両市もその予算は組んでいない。すみれの治療費も手術後にインターネットを通じて集まった寄付でまかなわれた。

 

すみれの保護の経緯をまとめ、動物の命について考える本が昨年9月、「セブン&アイ出版」から出版された
すみれの保護の経緯をまとめ、動物の命について考える本が昨年9月、「セブン&アイ出版」から出版された

 県の担当者は「けがの重い1匹を助けるほどのお金があれば別の数匹を助けられる可能性がある。涙をのんで処分しなければならない時もある」と話す。


 県食品・生活衛生課によると、16年度に殺処分された犬は274頭、猫は1849匹(速報値)。この数を減らそうと、県は今年度からふるさと納税の寄付金の使い道に動物愛護を加えた。増加傾向にある猫が主な対象だが、寄付の額が増えれば、動物愛護センターに収容された犬猫に新たな飼い主を見つけるための取り組みに使うことも考えるという。


 ネットワークの飯田有紀子理事長は「飼い主一人ひとりの意識が変わらなければ『第二のすみれ』が出る。殺処分ゼロではなく、収容数ゼロの街づくりをめざすべきだ」と話す。


 すみれには、寄付金で補助器具が作られた。でも、すみれは2本足で歩くことを覚え、今では「ケンケン」するように元気に走る。


 すみれの里親は現在も募集中だ。詳細はネットワークのホームページへ。


(角詠之)


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