最高齢は24歳「みー」 ペットホームで愛される高齢猫たち

あどけない顔をしている、24歳の「みー」
あどけない顔をしている、24歳の「みー」

「最近、寝不足です。猫たちが愛おしくて、つい遅くまで寄り添ってしまうんです」


 そう話すのは、老犬や老猫の預かり施設「東京ペットホーム」(東京都大田区)の渡部まいこさん(42)だ。まいこさんが、工務店を営む夫の渡部帝さんと“行き場をなくした”ペットのための第二の家・ペットホームを立ち上げたのは2014年6月。今年、3周年を迎える。

 

(末尾に写真特集があります)


 本館のキャットホーム、2号館のドッグホームに続き、昨年の夏、自宅の一階を改造して、新たにキャットホーム別館を作った。「猫を預けたい」という依頼が増えたためだ。現在、本館で11匹、別館で6匹の猫が暮らす。


 別館にいる最高齢は24歳のメス猫「みー」。人間の年齢に換算すると、実に110歳を超えている。


「今年4月に入居しました。ここまで高齢の猫を預かるのは、初めてです。もともと80代の高齢女性がお一人で飼育されていたのですが、認知症で高齢者施設に入居されることになり、『みー』が残されてしまったのです」


「みー」をホームに預けたのは、女性の親戚だった。姪や従妹など数人で連れてきたそうだ。親戚はそれぞれ事情(ペット不可の住居やアレルギーなど)で飼うことができず、キャットホームへの入居費をみなで出し合ったという。


 実は、猫の「みー」も認知症だった。

 

昼間は寝ていることも多い。でも毛はふわふわ
昼間は寝ていることも多い。でも毛はふわふわ

「高齢猫によくある症状ですが、大声で鳴き叫ぶ、部屋をうろうろ歩き回く。そのせいもあったのか、飼い主の女性は、施設に入る前、『みー』をなじったり、蹴ったりしたようなのです。それで親戚が見るに見かねて、『みー』を動物病院にしばらく預けたと聞いています」


 ところが、動物病院で狭い1段ケージに入れられると、「みー」は元気がなくなった。それまで元気に歩けていたのに、足腰の筋力が弱って動けなくなってしまったのだ。親戚たちは「おばちゃんが大事にしていた『みー』をこのまま死なせたくないね」と話し合い、介護付きのホームを調べて、動物病院から移したのだという。


 まいこさんは言う。


「人間の高齢者も一緒ですね。長らく動かずにいると、足腰の筋肉が落ちてしまう。でもリハビリすることでよくなっていく。だから、『みー』もここで、少しづつ歩く練習をしたら、また歩けるようになったんですよ」


 運動の様子をみせてもらった。

 

壁沿いにゆっくり歩く
壁沿いにゆっくり歩く

 ケージから出した「みー」をフリースペースに静かに立たせ、「ほら、ママのところにおいで! みーちゃん、こっち」。まいこさんが呼ぶと、「みー」は、少し後ろ足をひきずるようにしながらも、一歩、一歩、前に進んだ。数メートルの距離を歩いた「みー」を、まいこさんはそっと抱きしめた。


「がんばったねー。前よりもしっかり、速く歩けるようになったね」


 視力も弱まり、歯も少し悪くなっているが、「みー」は自力で皿からえさを食べ、水を飲む。トイレも自分でできる。


 猫たちのケージは3段で、奥行きが1m、高さは天井まである手作りだ。そのため、まいこさんは、すっぽりと自分がケージ内に入りこみ、猫と時間を過ごすこともあるそうだ。


「猫は認知症状が出てからも長く生きることが多いのだと、この仕事を始めて分かりました。飼い主さんが高齢者でなくても、老いた猫の対応に戸惑い、時には“共倒れ”になってしまうような例もあるんですよ」


 本館にいる「チビ」という19歳のメス猫は、昨年7月に入居した。

 

大好き。一日でも長く生きよう
大好き。一日でも長く生きよう


 飼い主は、50代の両親と20代の息子の3人家族。「チビ」の面倒は主に母親がみてきたが、離れて住む祖父母の介護のために母が留守がちになり、息子が代わって世話をするようになった。だが、「チビ」の認知症状(大鳴き)が始まり、息子はノイローゼ気味になってしまったのだという。


「夜中にマンションで鳴くと周囲が気になるし、息子さんが寝不足で翌日の仕事にも差し障るというので、家族で相談して、猫を連れてこられました。でも、それで息子さんも眠れるようになり、気持ちも立ち直って、面会の時には、チビちゃんに優しい笑顔を向けておられてます」


 時には、ペットよりも先に、飼い主が亡くなってしまうこともある。「ゆうちゃん」というメス猫の場合は、飼い主の70代の女性が突然死してしまった。3日後、家を訪れた息子が、母の亡骸と、その傍にぴったり寄りそう猫を見つけた。


「『ゆうちゃん』は3日間、飲まず食わずでしたが、無事でした。息子さんのお子さんがアレルギーで飼育できないということで、こちらに連れてこられました。最初のころは心配だったのか、会社の休み時間などに、毎日、自転車で面会に来ていましたね」


「ゆうちゃん」は入居してから3年が経つ。今、17歳だ。


「夫婦とスタッフの少人数で運営しているので、面倒をみられる猫や犬の数は限られますが、どの子も家族のように思っています。高齢のペットが多いため、つらいお別れもありますが、しっかり最期まで看ることも私たちの役目。動物たちの具合が悪い時は、自宅の居間で添い寝するもあります」


 人生半ばで、覚悟を決めてペットホームを始めたまいこさんは、中学生の親でもある。


「夜中まで猫たちと過ごし、朝6時には自分の子どものお弁当を作るためにもう起きる(笑)。でも、やりがいを感じていますよ、たくさんの子たちの“もう一人のママ”として」

 

(藤村かおり)

sippo
sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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