秋川リサさんを“ひきこもり”から立ち直らせた保護犬「モモ」

大きな立ち耳がトレードマークのモモ
大きな立ち耳がトレードマークのモモ

 女優、タレント、ビーズ作家として活躍する秋川リサさん(65)が東京都渋谷区の自宅に“ひきこもり”状態になったのは、今から5年前のこと。かろうじて仕事には行くものの、それ以外は家からほとんど出られなくなった。


 きっかけは、飼っていた犬の死だった。

 

(末尾に写真特集があります)

 

「チェリーという犬で、17歳まで生きました。家族だけでなく近所の人や友人にも可愛がられ、亡くなった日は家に20数人も集まったんです。でもその後、自分の心にぽっかり穴が開いてしまい……。チェリーは早死にではなかったけれど、晩年は病気で寝たきりで、もう少し早く気づけてあげればよかったとか、もう少し何かしてあげられたのではとか、考えてしまって」


 チェリーが病気になる前は、どんな時も日に2度散歩に出かけた。その散歩がなくなり、気力も失せてしまった。一日が長く感じられ、部屋の模様替えばかりしていた。


「周囲にペットロスだよ、また犬を飼えば、なんて言われましたが、自信が持てませんでした」


 リサさんは昨年6月には母親を89歳で亡くした。その母が晩年、認知症になり、施設に入るまでの2年半は、在宅で世話をしていた。母は散歩に行くといって、チェリーを連れたまま徘徊したこともあった。そんな体験から、60歳を過ぎた自分が犬と暮らす決断ができなかったのだ。

 

秋川リサさんとモモ(今年7月 渋谷のカフェで)
秋川リサさんとモモ(今年7月 渋谷のカフェで)

 だが、元気を失っていくリサさんの様子をみて、友人たちは“やはり犬のパートナーがいた方がいいのでは”と心配し、家族も背中を押した。


「独立した娘が『何かあれば、私やお兄ちゃんが犬の面倒をみる。ママ、最後のチャンスよ!』と言ってくれたんです。うちにいた犬は代々雑種だし、次も行き場のない犬を引き取りたいと思いました。でも自分で保健所にいって大勢の中から1匹だけ選ぶということがどうしてもできなくて……。そんな中で、1匹の子犬と巡り合ったんです」


 それは、リサさんの友人がネットで見つけた犬で、個人ボランティア宅で保護されている“野犬の生んだ子犬”だった。


「『この犬はどう?』と写真を見せられた時、『あれ?』と思いました。チェリーには似てない犬がいいと思っていたのに、似ていたから。でも、引き取らないと、この子の命がわからないって、みんなが言うのよ。しかも保護されているのは香川県で、遠いなーと(笑)」


 それでもリサさんは、現地のボランティアとやりとりをし、犬を迎えることにした。

  

家族に迎えるきっかけとなった1枚
家族に迎えるきっかけとなった1枚

 子犬を迎えに新幹線で向かったのは、2014年12月。岡山駅でボランティアと落ち合って、ケージに入った子犬を受け取った。


「その時、生後約2か月。媚びることもなく、“ふて寝”していました(笑)。ボランティアさんによれば、今の時代も平然と犬を山に捨てる人がいて、その犬が大きくなって、処分されることが多いようでした。親犬は撃ち殺されましたが、残った子犬たちは救出されたそうです」


 リサさんは子犬を「モモ」と名付けた。事前にドッグトレーナーに聞いていた通り、徐々に慣れさせるため、暗めの部屋に二つのケージをつないで、奥に寝かせて、手前でトイレをするように教えた。水とフードを置いて「じっとそっと」見守ったのだ。


「モモにとって、私はご飯をくれる人だという認識がだんだん生まれたようでした」


 引き取ってから2週間後、モモを暗がりの部屋から出し、リサさんは抱っこ紐で抱きながら家事をした。さらに2週間後、初めて表に出て散歩した。だが最初は、アスファルトの道路に腰が引けていたという。


「“ほふく前進”するので、『病気の犬?』なんて通りすがりの人に言われたほど。『ただのビビりです』って愛想よく答えたわ(笑)。最初の散歩の後、かむ癖が出たので、家庭教師(トレーナー)を呼びました。大型犬だし、幼い子どもに反応すると困るのでしつけないと。散歩で引っ張らないような訓練も受けました」

 

「ほらモモいいお顔して」 秋川リサさんにべったりなモモ
「ほらモモいいお顔して」 秋川リサさんにべったりなモモ

 あれから2年半……。今年6月、取材のため、渋谷区のオープンカフェでリサさんと待ち合わせると、モモは颯爽と現れた。大きな耳をピンと立て、ぴったりとリサさんに寄り添っている。


「うちに来た時に3キロだった体重が、今は19キロ。顔はホワイトシェパードに似ているけど、尾の感じは日本犬。成長して、かみも引っ張りもしないけど、ビビりは変わらないわね」


 確かにモモは音に敏感で、車が通るたびにビクッと耳を動かす。それでも昨夏には、リサさんと一緒にテレビ番組「徹子の部屋」に出演した。大勢のスタッフにもモモは動じず、カメラ前で“女優然”としていて、司会の黒柳徹子さんにほめられたそうだ。


「モモはある意味マイペースなのね。過去の犬と比較することが心配だったけど、今は個性の違いが面白くもある。どちらも人に捨てられた犬だけど、その命は尊く、愛しいわ」


取材協力 ティアラス(東京都渋谷区)

 

秋川リサ 1952年・東京生まれ。女優、ビーズ刺繍作家。
認知症の母の介護の体験をまとめた著書『母の日記』(NOVA出版)には
愛犬チェリーの話も多く登場する。
藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
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