猫から学ぶ“脱力系人生論” 新しい猫本「捨て猫に拾われた男」

平積みされた「捨て猫に拾われた男」
平積みされた「捨て猫に拾われた男」

 いま、猫界で話題になっている本がある。「捨て猫に拾われた男」。電通のコピーライター・梅田悟司さんの著書だ。


 “猫から学ぶ脱力系人生論” というポップを見た時、右ページに格言、左ページに解説文という構図を思い浮かべた。猫が説く人生哲学、猫が説く禅の教え……的な。しかし、この本のベースは、犬派の僕(著者)の猫暮らしエッセイで、とてもリアルに、面白おかしく猫との日常が綴られていた。


 時雨(しぐれ)と名付けられた黒猫が、里親会で著者夫婦と出会い、大吉という新しい名前をもらい、新しい家での生活を始め、夫婦に猫的教育していく……いや、大吉はただただ猫的な日常を送っているだけなのだが、著者は大吉との生活の中であることに気付く。


「捨て猫を拾ったはずの僕が、大吉(保護猫)によって救われ、拾われていたのだった」と。

 

猫本ばかり並ぶ「神保町にゃんこ堂」
猫本ばかり並ぶ「神保町にゃんこ堂」

◆猫に生き方のヒントが

 猫暮らし経験者にとっては「あるある」なのだが、猫という生き物はとても愛され上手で、『飼い主>猫』という力関係をあっさりと逆転させてしまう。著者は、妻様の一言「猫の里親になりたい」を聞いて、猫の里親会に足を運ぶことになるのだが、大吉と出会ったばかりの時点で、


――「一緒に暮らしてやっても、いいぞ」


 その時、僕はそう言われた気がして、心の中で返事をした。


「ありがたきしあわせ」


 この一瞬でその後の上下関係が成立してしまったのかもしれない――


 と、見事にハマってしまう。


 そして、大吉と一緒に暮らし始めて確信する。


――誰に媚びることなく我が道をゆく。それにもかかわらず、なお愛される猫の生き様に、相手の顔色ばかりを伺いがちな現代人への生き方のヒントがある――

 

「捨て猫に拾われた男」から
「捨て猫に拾われた男」から

 この大テーマを、本業のコピーライターの文章力をフル稼働させ、エッセイにうまく融合させたのが、この本である。


 そもそも、猫という存在は、私たちにとって出来て当たり前、やって当たり前のことをことごとく裏切る。


 むしろ、出来なくて当たり前、やらなくて当たり前の状況を見せつけてくる。では、その状況を目の当たりにした人間(飼い主)は、というと、多少のストレスはあれど、そんな相手(猫)を愛すべき存在と思ってしまう。


 この、猫好きが必ず陥るカラクリ……猫的“愛される生き方”、“出来ない、やらない自分を認めさせてしまう生き方”を、著者は猫からの教えとして気付き、「なるほど!」と思わず納得してしまう言葉でまとめている。

 

「捨て猫に拾われた男」から
「捨て猫に拾われた男」から

 現代人を生きづらくさせている「固定観念」……“できる自分像”、“空気は読まなければならない”など、手放したくても手放せない、自分を窮屈にさせていることを、著者は大吉を通して発見し、そこから自分を解放していくための策を練る。


 社会人としての最低限のマナーを守りつつ、どうスマートにスイッチを切り替えられるか。エッセイの内容から逸脱することなく、シンプルな心の切り替え方、実践方法を提案。もちろん、押し付けがましくない。


 なるほど、“猫から学ぶ脱力系人生論”である。

 

 

◆「猫の里親って、なんかいいかも」

 そして、この本の裏テーマは、「猫の里親って、なんかいいかも」ということを一人でも多くの人に伝えることだ。


 ここ数年、猫ブーム、ネコノミクスという言葉をよく聞くが、それによって野良猫の殺処分が激減しているかというと実際はそうではない。猫好きがどんなに頑張って、どんなに保護しても、猫にとっての現状を大きく変えることは難しい。


 そういった現実を踏まえると、この本はとても貢献度が高いと思う。著者も出版元も、猫本の世界ではビギナーだが、ビジネス書の世界では大きな発信力を持っている。今まで猫と関わりのなかった人達にも、広く発信される可能性があるということだ。実際、本書は大型書店のビジネス書売り場に平積みされていた。著者、梅田さんの思惑通りの展開である。

 

「捨て猫に拾われた男」から
「捨て猫に拾われた男」から

 すでに猫暮らしをされている人でも、里親会とはどういうもので、里親になるにはどういう条件があるのかなど、実際のところを知らない人は意外に多い。猫暮らし経験者も、猫の世界は未体験ゾーンという方も、この本を開いて、保護猫との出会いから始まる“リアル猫暮らし”を体感してみてはいかがだろう。猫に興味がなかった人も、「猫の里親って、なんかいいかも。自分専用の猫師匠を迎え入れちゃおうかな」なんて頬をゆるめるかもしれない。


 最後に私がこの本の中で一番好きな一文を紹介する。


――猫はこう考える。「人間は餌をくれて、撫でて愛してくれる。私は神に違いない」――


 そうか、私が一緒に暮らしているのは、神だったのか!


(アネカワユウコ・猫本専門「神保町にゃんこ堂」猫本担当)

 

「捨て猫に拾われた男―猫背の背中に教えられた生き方のヒント―」
著者:梅田悟司
発行:日本経済新聞出版社
定価:1,200円 +税
「猫本専門 神保町にゃんこ堂」
東京都千代田区神田神保町2-2 姉川書店内
03-3263-5755
平日10:00-21:00、土曜・祝日11:00-18:00
日曜定休
https://nyankodo.tokyo/
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