三軒茶屋に猫本の専門書店 猫見てビール飲んでも保護猫支援に!

店員猫の「鈴」ちゃん
店員猫の「鈴」ちゃん

 東京・三軒茶屋の閑静な住宅街の中、今年8月8日“世界猫の日”に、猫本の専門書店「Cat’s Meow Books(キャッツミャウブックス)」がオープンした。コンセプトは「猫と助け合う本屋」。店の“顔”は、元保護猫の“店員”たち。売り上げの10%は猫の保護活動のために寄付しているという。会社勤めの傍ら、店を開業した安村正也さん(49)に会いに行った。

 

(末尾に写真特集があります)

 

「猫のおかげで人生が変わった人は、いっぱいいると思うんですよね。自分もそのうちの一人です」


 店主の安村さんは、穏やかな笑顔でそう振り返る。

 

「Cat’s Meow Books(キャッツミャウブックス)」店主の安村正也さんと抱っこされる「鈴」ちゃん
「Cat’s Meow Books(キャッツミャウブックス)」店主の安村正也さんと抱っこされる「鈴」ちゃん

 店内には、何らかの形で猫が登場する“猫本”の新刊、古書がずらりと並ぶ。ジャンルは幅広く、写真集や絵本、小説、洋書、人文書など様々。本の購入はもちろん、生ビールやコーヒーなどのドリンクを楽しむことで、寄付に貢献することもできる。

 

 

◆5匹の猫店員が、本屋の“顔”に

 猫店員たちがいる古本エリアは本棚の上部には本がなく空いている。猫たちが歩き回るキャットウォークになっているためだ。2階の居住スペースと自由に行き来できる猫専用通路もあり、猫仕様の住居兼店舗になっている。

 

「Cat's Meow Books」で
「Cat's Meow Books」で

 猫店員は5匹。先住猫の「三郎」(15)は高齢のため2階から降りてくることはほぼないが、4匹の若いメス猫たちは、たいてい1階で気ままに過ごしている。


 開業前に「人見知りをしない、色々な人に撫でられたい猫を迎えたい」と、保護猫カフェを運営する「ネコリパブリック」に相談し、この4匹を受け入れた。


 キジトラの「鈴」(すず)と「読太」(よんた)は、それぞれ1歳半ほどで人懐っこい。見た目がそっくりだが、きょうだいではない。キジ白の「チョボ六」(推定2~3歳)は、みんなのお姉さん役。黒猫の「さつき」(推定2~3歳)は、甘えん坊で、撫でてもらうのが大好きだ。


 4匹の相性は良好で、来客にも物おじせず、店員向き。一方、ずっと一匹でかわいがられてきた「三郎」は4匹とあまり通じ合えず、住み分けているという。「江戸時代のおじいさんのところに、平成のギャルたちが来た感じ」と安村さんは表現する。

 

「Cat's Meow Books」で
「Cat's Meow Books」で

◆猫を迎える覚悟は、店を始める覚悟以上

 安村さんは、もともと猫が大好きだったが、死別するのがつらく、飼うことはためらっていた。それでも同店を始めたきっかけのひとつは、先住猫「三郎」との出会いだった。


 安村さんが当時暮らしていたマンション1階のベランダ前で、3匹の子猫が産み落とされた。母猫が姿を消し、ほかの2匹は間もなく死んでしまった。なんとか救うことができたのが、「三郎」だった。それを機に、猫が飼える家に引っ越した。


 命が消えそうになっていた「三郎」を保護したことから、猫と暮らす決心がついた。だが、その後も、きょうだいを救えなかったことが心に残っていた。「もっと猫のために何かできたかもしれない……。いつか恩返しをしよう」


「店を始める覚悟もありますが、この子たちを看取る覚悟も相当な覚悟なんです。人に言うことでもないですけれどね。この子たちが死ぬまで、自分は死んじゃいかんと思っています」

 

 

◆計画から1年で開店

「Cat's Meow Books」で
「Cat's Meow Books」で

「大好きな猫と本とビールに囲まれて余生を過ごしたい」と漠然と思っていたとき、下北沢の本屋「B&B」の内沼晋太郎さんが主宰する本屋講座に通った。それが縁で急に現実的になり、内沼さんに背中を押されて奮起し、ほんの1年で本屋をオープンさせた。


 事前告知の意味で、クラウドファンディングで資金集めをすると、予想以上に共感してくれる人が集まった。だが、開店前は苦労の連続だったという。


「想定以上にリノベーションにお金がかかりすぎて、最終的にはDIYで仕上げました。夏場、仕事帰りにクーラーもないところで作業して、引っ越しや本屋の準備もして、店員の猫も探して……大変でした。だから今、猫たちの平和な姿が見られて良かったです」


 安村さんは本屋が軌道に乗り始めた今も、店主と会社員の兼業を続けている。平日は奥さんが店に立って支えてくれているが、両立は大変ではないのだろうか。


「本屋だけで食べて行こうと思ったら、売り上げの10%寄付なんてできないし、心に余裕がないのが猫に伝わってしまうんじゃないかと思うんです。体力的にはしんどい時もありますが、むしろ会社員だから猫たちと幸せに暮らせて、お客さんを迎えられるんだと思っています。だから、大変とは思いません」


 そんな安村さんにとって、猫とはどういう存在なのだろう?


 しばらく考えた後、こんな答えが返ってきた。


「猫は家族ですけど、自分の人生を変えた生き物でもあります。猫がいたからこそ、49歳の今から始めた店があり、その後の人生が変わるんだと思うと、“猫すげえなあ”と思います。猫のためにと思って店をやっていますが、まわりまわって、自分のことになっているんですね」


(安田有希子)

 

「Cat's Meow Books」
東京都世田谷区若林1-6-15
営業時間 14-22時
火曜定休
03-6326-3633
Facebook https://www.facebook.com/CatsMeowBooks/
Twitter  https://twitter.com/catsmeowbooks
sippo
sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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