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ネコをすみかにする原虫トキソプラズマ 妊婦は感染予防を

トキソプラズマ・ゴンディに感染し、ネコに近づくマウス=弘前大学提供
トキソプラズマ・ゴンディに感染し、ネコに近づくマウス=弘前大学提供

 私たちは、自分の行動は自分で決めていると思っています。しかし、脳の中に巣くった何者かに操られているかもしれないと言ったら、信じる人はどれくらいいるでしょうか。自分が操縦されているなんていうのは、SF映画の中だけにしてもらいたいものです。


 しかし、SF顔負けの面白い研究が発表されたことがあります。トキソプラズマ・ゴンディ(T・G)という原虫に関する研究ですので、まず、T・Gについて少し説明します。


 T・Gは哺乳類や鳥類に感染しますが、感染の拡散にはネコが重要な役割を担っています。ネコ科の動物はT・Gにとって居心地が良く、ネコをすみかにして子孫を作ります。ネコのふんに含まれたT・Gの卵が土などを介して他の動物に摂取されると、その動物に感染します。



 汚染された土や、感染動物の火の通っていない肉を食べることで人間にも感染する危険があります。通常は感染しても無症状か、ちょっとリンパ節が腫れる程度のことがほとんどです。ただし、妊娠中に感染すると赤ちゃんに影響が出る場合があり、妊婦さんは特に生肉や加熱不十分な肉の摂取は控え、調理時も、生肉用のまな板と、野菜など生で口に入れる食品用のまな板を分けるなどの注意が必要です。もちろん、手指の衛生には気をつけましょう。


 国立感染症研究所のホームページは、T・Gの卵が土の中で1年以上感染性を保つことを紹介し、妊婦さんに対し、素手で砂場遊びやガーデニングをしないように注意喚起しています。日本では、妊婦の10%にしか抗体がありません。つまり、90%の妊婦はT・Gに免疫がないことになります。


 さて、話題になった研究の話です。マウスにT・Gを感染させ、どのように行動が変化するのかを観察した研究です。


 T・Gに感染していないマウスは、ネコのオシッコのにおいを嫌って、ネコの生活エリアにはあまり入り込まないのですが、感染させたマウスはネコの前にノコノコ出て行ってしまうというのです。マウスはネコに食べられてしまいますから、T・Gはまんまと居心地の良いネコにたどり着けるというわけです。


 これは、T・Gがマウスに「左に行け」「右に行け」と命令しているわけではなく、マウスが恐怖に対して鈍感になるような物質を脳内に分泌するためではないかと考えられています。結局、T・Gは自分が得をするようにマウスを操っていることになります。

 

(写真は本文と関係ありません)
(写真は本文と関係ありません)

「では、人間ではどうなのか」と誰しも考えることですが、人に感染させて調べることは倫理上許されません。そこで、いくつかの研究グループが、T・Gに対する血液中の抗体を調べて、過去に感染した人と、まだ感染していないと思われる人に分けて、行動や社会性などについて比較しました。


 ある研究の結果では、感染すると女性は社交的になるとされ、話題になりました。しかし、「差がない」という研究もありました。人間の行動や社会性に影響する因子は多数かつ複雑でしょうから、T・Gの影響のみを抽出して論じるのは難しいようです。人間に対する研究結果の解釈には慎重であるべきでしょう。


 いずれにしろ、食品衛生、手指衛生にはご注意ください。


(弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座教授 萱場広之)



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