「五つの自由」から考える 室内飼いの猫に必要なもの

 動物福祉の基準である5原則(Five freedoms)をご存じでしょうか? もともとは1960年代に英国で家畜福祉向上のために定められたものですが、今やアニマルウェルフェア(動物福祉)の国際的な基準として広く浸透しています。

 ペットはもちろん我々の食料となる産業動物をはじめ、動物園などの展示動物や実験動物などを含め、人間がかかわるすべての動物に対して配慮すべき項目として以下の五つがあるのです。

 ①飢え、乾き、栄養失調、(つまり不適切な栄養管理)からの自由

 ②不快な環境(汚れた場所など)からの自由

 ③痛み、怪我、病気(身体的な苦痛)からの自由

 ④恐怖、不安(精神的な苦痛)からの自由

 ⑤動物本来の行動様式を発現できる自由

 我々が飼育する猫にもすべて当てはまることですが、このうち室内飼いの猫で最も問題になるのが5番目の自由です。

 動物はその種によってそれぞれ正常な行動レパートリーがあります。サルが木に登り、鳥が空を飛び、魚が泳ぐのもそれぞれの種の正常行動です。その種の動物が本来持っている行動レパートリーに含まれる行動をすることがその動物にとって最も自然であり、幸せを感じることができます。

 猫は人間とは異なる動物でありながら、人間社会で暮らす生き物です。彼らは生涯、子どものように飼い主から食べ物を与えられ、世話をしてもらうことで生活をしますが、野生動物のように自分の意思で自由に行動することは許されていません。しかし、獲物を探したり、捕らえたりする必要がない彼らにも野生動物と同じような本能があり、この本能を満たすことが必要です。

 猫が安全な室内で、しかも猫らしく生き生きと生活するためには、猫の習性をよく理解して彼らが室内で快適に生活できるように環境を整える必要があります。もちろんしたいことを何でもさせるわけにはいきませんが、飼い主にとって不都合でなく、他人に迷惑をかけない形で、できるだけ自然に近い行動をとれるように工夫してあげてください。

 猫が問題行動を起こしたとき飼い主さんは猫に原因があると考えがちですが、実はニーズが満たされていないために起こっていることの方が多いのです。特に本能的な行動には適切なはけ口を作っておいてあげることが大切です。室内で十分にニーズが満たされた猫は飼い主や同居動物とも仲良く、そして幸せに暮らせるのです。

 猫のニーズとはバランスのとれた食事、適度な運動、安心して眠る場所などに加えて、本能を満足させる遊び、社会的刺激を含む豊かな環境、そして適切なメディカルケアなどです。

 次回は猫のニーズについてより具体的に説明します。

村田香織
獣医師、もみの木動物病院(神戸市)副院長。イン・クローバー代表取締役。日本動物病院協会(JAHA)の「こいぬこねこの教育アドバイザー養成講座」メイン講師でもある。「パピークラス」や「こねこ塾」などを主催、獣医学と動物行動学に基づいて人とペットが幸せに暮らすための知識を広めている。

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この連載について
ペットのこころクリニック
犬や猫の問題行動に詳しい獣医師の村田香織先生が、ペットと幸せに暮すためのしつけや飼い方のコツをていねいに解説します。
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