トリミング中にペットがけが 慰謝料は請求できる?

 ペットにまつわる商売や事業といえば、ペットショップなどでの動物の販売をすぐに思いつくでしょう。

 昔ながらのペットの生体販売自体は、法規制の強化などの影響もあり広がっていないように感じられます。一方で、ペットフードをはじめとする用品の販売やペット保険、ペット葬儀など周辺サービスが多様化していることにより、ペット市場全体としては拡大しているのが現状です。

 このような周辺サービスのうち、古くからある代表的な仕事として、トリミング(トリマー)があります。

 プードルなど一定の犬種については、定期的なカットが健康管理上必要であることや、シャンプーなどとあわせて清潔を保つことができます。また、獣医師資格はないものの、日頃から動物に接していることから、預かった動物を触ったときに異変にいち早く気づくことができる立場にあり、飼い主の身近な相談相手としての役割も期待されるでしょう。

 それと、これはあまり知られていないかもしれませんが、保健所など犬猫の保護施設に出向き、譲渡対象となった犬猫をボランティアでトリミングする「ボラトリ」をしている方たちもいます。プロの手でかわいくきれいにカットしてもらった犬猫は、もらい手が見つかりやすいでしょうから、有志のトリマーによるこうした活動は大変貴重です。

 このようなトリマーですが、生き物を預かることから、トリミング中にケガをさせてしまうこともあります。こうしたときの法律関係はどうなるのでしょうか?

 わざと傷をつけたような例外的な場合は、刑事責任も問題となりうるのですが、通常は考えられないので、誤ってケガをさせたケースを前提として説明します。

 この場合、民事責任・損害賠償責任の問題となります。

 まず、飼い主とトリマーとの間には、特に契約書を交わしていなくても、人間の床屋あるいは美容室と同様に、請負契約または準委任契約が存在していると考えられます。

 そして、例えばトリマーの不注意によって動物を落下させてケガをさせた場合、トリマーは預かった動物の安全に配慮してトリミングを行う注意義務を負っていますので、これを怠ったことについて債務不履行責任を負うことになります。

 一方、標準的な技術を有するプロとして十分な注意を払っていたにもかかわらず、事故がおきてしまった場合。言い換えれば、事故を避けることができなかったといえる場合には、損害賠償責任を負うことはありません。ただし、どのような場合に過失がなかったといえるかは、個々の事案に基づく判断となります。実際問題としては、なかなか難しい判断になるかもしれません。

 責任があるとした場合に、損害として通常考えられるものとしては、動物病院での診療費やそのための通院交通費など、実際にかかった費用があります。

 また、通院が複数回に及び大きな負担となったときは、通院を余儀なくされたことによる慰謝料的な項目を請求することが考えられます。もっとも、人がケガをさせられた場合は通院慰謝料が損害として認められますが、ペットの場合は飼い主自身はケガをしていないため、同様の項目による請求を裁判所が認めるかは定かではありません。

 もっとも、事故の精神的ショックで寝込んでしまい会社に行けなかった期間の休業損害を請求する、という話になってくると、事故によって通常生じる損害とは認められない可能性が高いです。

 参考になる裁判例として、トリマーが9歳のペルシャ猫の尻尾約5㎝を誤ってハサミで切断してしまった事案について、治療費や通院交通費などの実費以外に、飼い主家族4人分の慰謝料10万円を認めたケースがあります(2012年7月6日東京地裁判決)。

 ただこの種の事案は、裁判所や弁護士を介して解決するよりも、それまでの飼い主とトリマーとの間の信頼関係をもとに、トリマー側に落ち度がある場合はすみやかに適切なおわびをし、穏当に解決を図ることがふさわしいケースが多いのではないかと思います。

細川敦史
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。動物に対する虐待をなくすためのNPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。

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