真に動物のための法律づくり 言葉話せぬ動物の立場になって

(写真は本文とは関係ありません)
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 ペットショップなどの業者は、午後8時以降に犬猫を展示することが禁止されています。それまで都心には24時間営業のショップもあったところ、2012年、動物愛護法の施行規則改正により規制が導入されました。

 これに対し、猫カフェでは1歳以上の成猫に限り、午後10時まで展示できるとする特例が認められることになりました。2016年4月27日に開催された、環境省の中央審議会動物愛護部会の審議結果を受けて、施行規則が改正されることになったのです。

 このような例外措置の議論が起こった経緯や、賛成反対それぞれの立場の主張については、他の詳しい方々が説明されていますので、こちらに譲ることとします。少なくとも私にとっては、法律家としての知識や経験に基づく感覚から、理解しがたいことでした。非常に残念なことです。

 裁判は、請求の根拠となる事実と証拠がきちんとそろっていれば、始める前から、かなりの精度で「結果」を見通すことが可能です(裁判が進めば進むほどその精度は高まります)。しかしながら、立法や政治の判断というものは、論理的な正しさ、理屈だけでは通用しない世界であるという印象を度々受けます。

 猫カフェが午後10時まで営業できることによって、仕事帰りに癒やしを求める人が通いやすくなる、外国人旅行客などを受け入れることができる、という意見があるのかもしれません。ただ、仮にそのような理由で、法改正の直前に急に規制緩和の議論が入り込み、これが認められたとするならば――わが国の動物愛護意識も以前に比べて高まったとはいえ、まだまだ足りない面があるといわざるを得ません。

 犬猫やペットが好きな人であれば、カワイイと思うのは当たり前です。そのことは全力で共感できるし、誰も否定しません。カワイイと思うと、ついつい頭が空っぽになってしまうかもしれませんが、それでもカワイイだけで終わってはいけないのです。

 猫カフェの展示時間の問題だけでもこのような状況ですから、一部の悪質なペット業者、啓発の言葉が決して届かない一部の飼い主、しばしば事なかれ主義に陥りがちな自治体行政など利害関係者のために、酷い取り扱いを受ける動物はどうしても出てきてしまうでしょう。これらの激しい利害関係が渦巻く中で「真に動物のための法律」をつくる作業は、容易に一足飛びにいくはずがなく、むしろ、険しく長い道のりがあるように感じられます。

 しかしながら、必要なことは、ペット業界でも、獣医師でも、動物愛護団体の立場でもなく、言葉を話せない動物の立場を想像しながら(そして、常にこれでいいのか? 独善に陥っていないか?と自問しながら)人と対話をし、共感してくれる多くの人を得て、世論をよりよい方向に変えていく、という動きを続けるしかないのではと思います。

 それが、もっとも近い道であると、私は確信しています。


【あとがき】

 さて、昨年5月にスタートしてから1年間、21回にわたり連載してきたこのコラムですが、諸事情により今回をもって終了とさせていただくこととなりました。これまでおつき合いいただきました読者の皆様、そしてこのような機会を与えてくださったsippo編集部に深く御礼を申し上げます。

 21回の連載で紹介した動物愛護法令やペット関連の裁判例については、タイムリーな話題を取りあげつつも、普遍的な内容を説明しているものがほとんどです。今後の法改正や時代の変化によって次第に変わっていく部分はあるかもしれませんが、基本的な部分は変わらないものと考えています。ですので、時間が経っても、繰り返しあたっていただけると幸いです。

 またいつか、sippoまたは別の媒体で読者の皆様に会いできる日がくることを楽しみにしております。

細川敦史
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。動物に対する虐待をなくすためのNPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。

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