浜島直子&ピピ 殺処分寸前だった保護犬 今は心の支え

子どものころから大の犬好き。
結婚してからずっと、犬を飼いたいと思っていた。
ようやく環境が整い、奇跡のような縁でピピ(オス、6歳)を迎えた。
長男も加わり、3人と1匹の「家族の形」ができあがった。

文/太田匡彦 撮影/岸本絢


浜島直子&ピピ
浜島直子&ピピ

 2010年6月、ピピは東京都武蔵村山市内を母犬にぴったりと寄り添いながら、もう1匹の兄妹犬と一緒に歩いていた。

 保健所に保護されたとき、母犬の体には繰り返し出産させられた痕跡が色濃く残っていた。生後6カ月くらいと見られるピピたち2匹の子犬は、イタズラされたのか、首から下の被毛がバリカンのようなもので刈られていた。

 殺処分が翌日に迫ったある日、3匹は動物愛護団体に救い出された。浜島直子さんは偶然、その団体の譲渡会場を訪れ、ピピに出会った。浜島さんは当時、クリサジークという犬種を飼いたくて2年前からブリーダーに予約をしており、もう間もなく子犬が家にやってくるというタイミングだった。


予約していた別の犬 断って得た深い縁

 それでも、動物愛護団体のボランティアからピピの境遇を聞き、そのぬくもりに接してみて、ピピを引き取る決断をした。クリサジークのブリーダーにキャンセルの連絡をすると「ありがとう。あなたのその縁をすごくうれしく思います」という言葉が返ってきた。そのブリーダーも、保護犬に関する活動をしていたのだ。浜島さんはこう振り返る。

「私がクリサジークにこだわっていなければ、2年も待つことなく、すぐにほかの犬種を飼っていたと思う。もしそうしていたら、うちのマンションは1匹までしか飼えない決まりだから、ピピちゃんと出会っても引き取ることができなかった。ピピちゃんとは、深い縁で結ばれているんです」

 引き取った直後のピピはとにかく人間を恐れる犬だった。浜島さんがフードを入れた器に触ろうとすると、食べ終わっていてもうなり、かみつこうとした。浜島さんは人間の手は「敵」ではないことを伝えようと、ピピの頭をなでながら、一口ずつ手のひらからフードをあげるようになった。

 仕事の時も、犬を同行できる現場であればなるべく一緒に連れて行った。さまざまな人と触れ合わせて、人間は優しい存在であることを教えてあげたかった。すると次第に、人間への恐怖心が払拭(ふっしょく)されていった。フードを食べるときも、うならなくなった。

いまも一口ずつ、手のひらからフードをあげている
いまも一口ずつ、手のひらからフードをあげている

 ピピはトイレシートの意味も知らなかった。トイレシートで排泄(はいせつ)をすることは知っているが、なぜかその上で寝てしまうのだ。しかも時に、自分の糞を食べてしまうこともあった。

 浜島さんは、軟らかい犬用ベッドを購入し、そこでピピを優しくなでてあげるということを、1カ月ほど続けた。そうしてようやく、トイレシートの上で寝ることがなくなった。

「純血種であるシー・ズーが、繰り返し出産させられた母犬と一緒に放浪していた状況を見ても、繁殖業者が遺棄した子たちであることは明らかでした。最初は人間が何をしても無反応だったり、そうかと思うと突然うなったり……。人間に優しくされた経験がなかったのだと思います。トイレシートの上で寝ようとするのも、おそらくそういう環境でずっと飼われていたんでしょうね」

 ピピと暮らし始めて5年目、14年10月に浜島さんは長男を出産した。2人と1匹の生活に、赤ん坊が加わった。浜島さんは妊娠中から「ピピちゃんが一番上の子どもだよ」と毎日何度も伝え続けた。

 長男が初めて家に来た日、さっそくピピと対面させてみた。長男をリビングに寝かせると、ピピは全身のにおいをくまなく嗅ぎ、しばらくすると50センチくらいの距離を置いて長男の横で寝始めた。

「それまではピピちゃんを子どものように思って、ベタベタとかわいがっていたんです。でも長男が生まれて家にやってきたときから、ピピちゃんは私の心のつっかえ棒みたいな存在になりました。育児や仕事でどんなに忙しくしていても、ピピちゃんは私をほっとさせてくれるんです。ピピちゃんにしてみれば、『我が家のアイドル』という地位を失って寂しさはあるのかもしれないけど、これが新しい私たち家族の形なんだなって思っています」

 ピピは長男の面倒を見るのが得意だ。たとえば浜島さんが洗濯をしているとき、長男がぐずったりウンチをしたりすると、ピピがトコトコとやってくる。じっと浜島さんを見つめ、ときおり寝室のほうに目をやる。その動作で長男の異常を知らせてくれるのだ。

 また、浜島さんが長男を叱ると、ピピは素早くやってきて、長男と浜島さんの間にお座りをする。

「ピピちゃんが息子をかばうみたいにするんです。それで私もばからしくなって、叱るのをやめる(笑)。出産前は、赤ちゃんにかみついたりしたらどうしようという恐怖心がありましたが、全く心配いりませんでした」


ピピは偶然助かった 繁殖の規制強化を

 ピピを通じて、浜島さんの眼差(まなざ)しは日本のペットを取り巻く環境にも向くようになった。

 ピピたちはたまたま動物愛護団体に助けられたけれど、救いの手をさしのべられないまま殺処分されていく犬猫たちは少なくない。ピピやその母犬たちのように、繁殖業者やペットショップに捨てられるなどして不幸な運命をたどる犬猫はいまも毎日生み出され続けている。

 浜島さんは、繁殖業者など動物取扱業への規制を強化すべきだと考える。

「命を扱うビジネスなのだから、徹底的に、重箱の隅をつつくくらいの厳しいルールを決めなければいけないと思います。ピピちゃんやそのお母さんのような子が繰り返し繰り返し生まれてくるような状況は、変えないといけません」

 ピピの母犬はポポと名付けられ、里親が見つからないまま、動物愛護団体のもとで生涯を終えた。

 その生前、団体のボランティアからポポの様子を伝える動画が送られてきたことがある。保護されたときにはほとんど歩けなかったポポが、公園で明るい日差しのもと、数メートル歩いている姿が収められていた。最期は、ボランティアに抱っこされ、その腕の中で息を引き取ったという。


浜島さんの絵本『しろ』

「色」とめぐりあう旅に出た「しろ」。ある日、くろい犬と出会った──。
「色」とめぐりあう旅に出た「しろ」。ある日、くろい犬と出会った──。

モデル・浜島直子と夫で映像ディレクター・アベカズヒロの創作ユニット「阿部はまじ」と、イラストレーター「平澤まりこ」による絵本。すべてひらがなで書かれた、わかりやすく小さな子どもが楽しめる内容ながら、「自分とは何なのか」を考えるきっかけをくれる深い物語で、大人にこそ響きます。

作・阿部はまじ 絵・平澤まりこ
ミルブックス 好評発売中

(朝日新聞タブロイド「sippo」(2016年12月発行)掲載)


浜島直子(はまじま・なおこ)

1976年、北海道生まれ。明るく前向きなキャラクターと、自然体でセンスの良いライフスタイルも常に注目の的。集英社「LEE」専属モデルを務めるほか、NHK総合「あさイチ」、TBS「暮らしのレシピ」ナビゲーター、ラジオ「Curious HAMAJI」(bayfm78)パーソナリティーなど幅広く活躍中。インスタグラム(hamaji_0912)も大好評。

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sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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犬や猫と暮らす著名人に、愛犬・愛猫との生活ぶりや思い、広く動物福祉などについて聞くインタビュー集です。
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