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sippo・sippo|更新|2017/04/15

映画監督 犬童一心と猫 風水師のお告げで犬小屋! 猫は?

いつも事務所の庭にいる名無しくん
いつも事務所の庭にいる名無しくん

 私の作品を愛してくれる中国のプロデューサーに依頼されて中国映画を作ることになり、上海の制作会社に通っている。中国の映画産業はまさに隆盛。スクリーン数は年ごとにその数を増やし、今年中に4万5千になるという話を聞いた。日本は3千スクリーンぐらいだから、その規模の大きさに愕然(がくぜん)となる。


 産業としてまだ新しく、スタッフは若く熱い。事務所もお洒落(しゃれ)、ありきたりなオフィスビルではなく、フランス租界近くのパリを思わせる庭付き一軒家だ。


 事務所に到着すると、いつも迎えてくれる野良猫が庭で寛(くつろ)いでいる。制作アシスタントのエマに名前を聞くが、「ない」という。野良猫に名前はつけない、餌をあげるだけとのこと。昔飼った猫には「小宝(シャオパオ)」とつけていたそうだ。良い名前だと思うが、実はすごくありきたりでダサいぐらいだという。

 

 

風水には不向き? 自由気ままに動く猫

 名無しくんに別れを告げ、ロケハンに出発。ハンドルを握る制作担当のティムさんは猫を飼った経験が無かった。だが、続けて放った彼の一言に不意打ちを食らう。


「でも、犬ならありますよ。昔、風水師が玄関脇に犬小屋を置いた方が良いと言うので、母が貰ってきたんです」


 え? 犬と風水? その関係は全く意識したことがなくて、一瞬意味を測りかねる。


「動物と風水は関係するんだ……。さすが風水の本場」


 思わず呟(つぶや)く私を、ティムさんは訝(いぶか)しげに一瞥(いちべつ)して、


「事務所の入り口に小さい池があって金魚がいるでしょ、あれも社長が風水師に言われて作ったんですよ」


「え」


「必ず14匹にしろと言われたので、死んだらすぐに別室の水槽から補充するんです」


 さも、そういう意識こそ世の常、当然のことと話を進める。であればと、その風水の内容を聞いてみる。入り口の犬小屋や14匹の金魚に一体どんな意味があるのか? 一瞬の間の後、ティムさんは言った。


「わかんないです」


「え」


「母が何か言ってましたが……金魚は社長が知ってると思いますよ」


 無責任な返答に腰が砕ける。でも、大晦日(おおみそか)に神社仏閣に並ぶ日本人と外国人もこんなずれた会話をしそうだなとも思う。


「ちなみに、猫と風水はどうなの?」


 どこか、もうあまり期待せずに質問する。聞いていたエマが言う。


「猫は、関係ないですよ。だって、いつも、家の中でどこにいるか分かんないし、気に入ってる場所もしょっちゅう変わっちゃうし」


 確かに、全くそうだ。うちのチャッピーやグーグーもお気に入りの場所がいくつもある。ある意味猫好きにとっては期待以上の答えに嬉(うれ)しくなる。


 ロケハンが終わり会社に戻ると、急ぎ社長室に向かった。金魚14匹の意味、本場中国風水の神髄を期待して――。



(朝日新聞タブロイド「sippo」/2017年春号掲載)

 


犬童一心(いぬどう・いっしん)

1960年東京生まれ。映画監督。主な監督作品に「金魚の一生」「二人が喋ってる。」「金髪の草原」「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「のぼうの城」など


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