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太田匡彦・sippo|更新|2017/12/26

幼い子犬・子猫の販売を認める時期 利益優先か、安全性か

イラストレーション/石川ともこ
イラストレーション/石川ともこ

 幼い子犬・子猫を、販売目的で生まれた環境から引き離す時期はいつが適当なのか。欧米先進国ではとっくに「8週齢(生後56〜62日)」以降という結論が出ているこの問題を巡り、環境省が5年で約1億1千万円を投じて「検討」を進めている。


 その一部として12月15日には、2回目の「幼齢犬猫の販売等の制限に係る調査評価検討会」を開き、麻布大獣医学部の菊水健史教授が「犬猫幼齢個体を親等から引き離す理想的な時期に関する調査」について最終報告を行った。犬について、分離時期が7週齢だったものと8週齢だったものとを比較すると、問題行動が発生する度合いは「7週齢のほうが高い」という重要な調査結果が提示されたが、もう一つ注目すべきポイントがあった。


 それは日本で、犬猫がペットショップに仕入れられた「店舗導入」のタイミングが具体的にわかったことだ。調査によると、犬猫ともに店舗導入される日齢は2016年度半ばまでは「46日」、それ以降は「50日」に極端に集中していた。背景には、16年8月までは「生後45日を経過しない」犬猫、それ以降は「生後49日を経過しない」犬猫について、販売目的で親元からの分離を禁じる動物愛護法の付則がある。「法規制をかけた翌日には流通に乗せている。(繁殖業者は)できるだけ早く出したいと思っていることが、これでわかる」と菊水教授は1回目の検討会で指摘した。


 振り返ってみれば、12年の動愛法改正時にペット業界は、欧米先進国では常識となっている「8週齢規制」の導入に強固に反対した。その際には、ペット店や繁殖業者など動物取扱業者を対象に行ったアンケート結果を持ち出し、8週齢規制が実現すると繁殖業者の74.2%は「生産コストが増加する」、ペット店の79.6%は「売り上げが減少する」などと訴えた。


 要するに、効率よく収益をあげるために1日でも早く、法律で規制されているギリギリの日齢で、子犬や子猫を出荷・販売したいと、ペット業界は考えているのだ。さらには、法規制があっても「49日齢を超えたとは思えないほど小さな生体が出荷されてくることもある」(大手ペット店チェーン関係者)という現実も存在する。


 本コラムでも以前に紹介したが、動物行動学に詳しい米ペンシルベニア大のジェームス・サーペル教授は「(子犬の)分離時期は7〜9週齢の間が最適で、6週齢では悪影響がある。10〜12週齢は9週齢と比べてそれほど悪くない。(法律で)8週齢と決めるなら素晴らしいことで、それはある種の安全な妥協点になる」と指摘している。子猫については今年、ヘルシンキ大などの研究チームが「問題行動を起こす確率は、8週齢より前に分離された猫のほうが12〜13週齢で分離された猫よりもかなり高い」などとする論文を発表した。


 つまりいま行われている、「49日齢規制」のまま固定するか、動愛法の本則どおり「56日齢規制」を実現するかという議論は、


▷ペット業界の収益を優先して、ギリギリ安全と言える下限値で、たった1日違えば犬猫の心身の健康を危険にさらす49日齢規制


▷動物には当然ある個体差を考慮に入れ、犬猫の心身の健康リスクを極力排除できる、明らかに安全な中間点である56日齢規制


 いずれを選ぶか、という命題が課されたものなのだ。環境省の検討状況を注視していきたい。


(太田匡彦)

 


(朝日新聞タブロイド「sippo」(2017年12月発行)掲載)



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太田匡彦

太田匡彦(おおた・まさひこ)

1976年生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当。AERA編集部記者やメディアラボ主査を経て、文化くらし報道部記者。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日新聞出版)などがある。


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