犬ビジネスの「闇」 流通システムが犬を殺す①

毎日一部屋分の犬が殺され、消えていく。そして空っぽになった部屋は、すぐに次の犬たちで満たされる
毎日一部屋分の犬が殺され、消えていく。そして空っぽになった部屋は、すぐに次の犬たちで満たされる

毎日、全国の地方自治体で犬が殺されている。

その数、1年間で約11万匹。

「少しでも殺処分を減らしたい」。自治体職員たちのそんな願いは届かない。

誰がなぜ犬を捨て、犬を殺すのか。(編集部 太田匡彦)


 

 最寄り駅からでも車で15分はかかる、墓地に隣接した土地に、その施設はあった。

 中に入ると底冷えがするコンクリートの床。五つに区切られた部屋に、それぞれ十数匹の犬がいた。飼い主に捨てられたり、迷子になったりした犬が収容され、殺処分される施設。自治体によって「動物愛護センター」「動物指導センター」などと呼ばれている。

 部屋の壁は可動式になっている。一番手前の部屋は前日に収容された犬。その一つ奥が前々日に収容された犬。一営業日ごとに壁が動き、犬たちは徐々に奥へと追いやられていく。

 どの犬も愛想がいい。人影が見えると、尻尾を振って寄ってくる。お座りをしてジッと見つめてくる柴犬や、後ろ脚ですくっと立ち上がり、ちんちんのポーズをする垂れ耳の雑種もいた。ほとんどが首輪をしている。職員はこう説明する。

「飼い主が迎えに来てくれたと思うんでしょう。喜んで寄ってくるんです」

 一番奥、5番目の部屋にはこの日、13匹の犬がいた。午前8時半ごろ、この部屋の壁も動き始める。犬たちはガタガタ震え、キャンキャンと悲鳴のような鳴き声があがる。

 追い込まれた先に、もう部屋はない。鈍く銀色に光る箱。蓋が閉まり、数分間、二酸化炭素が注入される。約30分後、蓋が開き、箱が傾くと、窒息死した13匹の犬が滑り落ちてきた。そして、ゴトリと音をたて、焼却炉に放り込まれていった。

 

業者が持ちこむ殺処分

チャート1 ※注1
チャート1 ※注1

 こうした作業が毎日、全国で繰り返されている。環境省によると2006年度、全国の地方自治体に収容された犬は14万2110匹。うち11万2690匹が、新たな飼い主が見つからず、殺処分された。なぜこれほど多くの犬たちが捨てられ、殺されなければいけないのか。

 本誌では、実態をつかむため、飼い主が行政機関に犬を捨てる際に提出する「犬の引取申請書」の情報開示請求を主な自治体に行った(チャート1参照)。そこから浮かび上がったのは、流通システムにひそむ闇の深さだ。

 動物保護団体「地球生物会議」の野上ふさ子代表らの協力で分析したところ、ペットショップやブリーダーなど流通業者によると思われる捨て犬は、少なくとも1105匹にのぼった。

 例えば07年10月、群馬での事例。7~9歳の柴犬の雌ばかり5匹が一度に持ち込まれた。犬は8歳前後で繁殖能力が衰えるため、ブリーダーが「用済み」として捨てたようだ。

 また07年8月、マルチーズの成犬11匹がまとめて、北九州市に持ち込まれた。いずれも畜犬登録がされておらず、こうしたケースは業者による遺棄の典型だという。

 07年11月、兵庫。ポメラニアン4匹、ダックスフント3匹、チワワ3匹、シーズー2匹、……純血種ばかり14種27匹が一緒に捨てられた。ペットショップの在庫処分か、ブリーダーによる数減らしのようだ。同じ兵庫では08年1月、ミニチュアピンシャーの雄4匹、雌6匹も同時に持ち込まれ、捨てる理由の記入欄には「数をへらす」とあった。

 野上代表は指摘する。

「同じ犬種を数頭まとめて捨てるなど、明らかに業者が持ち込んだとわかる事例が多数ありました。分散して持ち込めば判断は難しいので、今回把握できたのは氷山の一角でしょう」

 

(AERA 2008年12月8日号掲載)

 

注1

政令指定都市(札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、川崎市、横浜市、新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、広島市、北九州市、福岡市)、関東地方の各都県(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、愛知県、近畿地方の2府2県(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)の各自治体が07年4月1日から08年3月31日までに受理した「犬の引取申請書」(自治体によって名称は異なる)を情報公開請求し、その内容をもとに集計した。

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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