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太田匡彦・AERA|更新|2015/10/12

年2万匹死ぬ流通の闇 犬猫の国内流通量が初めて判明

年間約75万匹が流通し、2万3千匹余りが死亡。ペット流通の「実数」が、朝日新聞とAERAによる全国112自治体への調査で初めてわかった。


 

 猫の保護活動をしている男性がその住宅を訪ねると、強いアンモニア臭が襲ってきた。

 30匹以上の成猫と10匹ほどの子猫が、複数の部屋に分けて飼われていた。糞尿にまみれた床には、共食いの被害にあったとみられる子猫の頭部が一つ、転がっていた――。

 関東地方の住宅地と田畑が混在する地域に立つこの住宅で、60代の女性は2007年から米国原産の猫を繁殖させていた。きっかけはペットショップで買った純血種のつがい。不妊手術をせずに飼っていたら子猫を産み始めた。飼いきれず、近所のペットショップに相談したら、生体の卸売業者を紹介された。女性はこう振り返る。

「命をお金に換えることに罪悪感はありました。でも、業者に『ぜひ出してくれ』と言われて、売るようになりました」

 すべて近親交配だったため、卸売業者には1匹あたり1万~2万円程度に買いたたかれた。それでも年に3度の繁殖シーズンに20匹以上も生まれるので、それなりの収入にはなった。ショップの店頭で自分が繁殖させた子猫を見かけ、心が痛むこともあった。値札には十数万円という金額がついていたという。


販売業者が出す届出書を集計

 2、3年前に体調を崩し、廃業せざるを得なくなった。でも猫たちは手元に残り、増え続けた。いま、ボランティアの助けを借りて里親を探すところまで追い込まれている。

「私は、猫も自分も幸せにできなかった。でも知人のブリーダーのなかには、公団住宅の一室に40匹くらい抱えていたり、6畳2間のマンションで繁殖させていたり、うちよりひどい状況のところもあった」

 いまや総市場規模1兆4千億円といわれるペットビジネス。その根幹を支えているのが犬や猫などの生体販売ビジネスだ。冒頭の女性のような繁殖業者が送り出す生体も含め、いったいどれだけの犬や猫が国内で流通しているのか――。9月29日付の朝日新聞朝刊で報じたように、14年度には犬猫合わせて約75万匹が販売されるなどして流通していたことが、朝日新聞とAERAの調査で初めて判明した。

 13年9月に施行された改正動物愛護法(動愛法)で、繁殖業者やペットショップなどに提出が義務づけられた「犬猫等販売業者定期報告届出書」を独自に集計したものだ。届出書は、各業者が年度中に販売したり死亡したりした犬猫の数を所管の自治体に報告するもの。「販売や繁殖に使われる犬猫が適正に取り扱われているかどうか把握するため」(環境省)に導入された。

 集計の結果、14年度に販売または引き渡された犬は61万7009匹、猫は13万3554匹だった。届出書の「販売」には、繁殖業者(生産業者)がペットショップ(小売業者)に出荷する行為も含まれている。つまり、同じ生体が2度以上カウントされている可能性がある。環境省の09年の推計では、小売業者経由で消費者に販売される犬は約65%、猫は約70%としていた。

 また「引き渡し」とは、小売業者の店頭で売れ残った犬猫を従業員が無料で譲り受けたり、繁殖用の犬猫で繁殖能力が衰えたものを引退させたりした場合など「販売行為以外で犬猫の所有者が変わること」(環境省)を意味している。3月24日付朝日新聞朝刊で報じた「犬の引き取り屋」へと消えていく頭数は、ここに含まれるとみられる。

 一方で、14年度に繁殖から小売りまでの流通過程で死んだ犬は1万8517匹、猫は4664匹だった。犬猫合わせて流通量の3・08%にあたる。前述のように2度以上カウントされている犬猫が分母に含まれることを考慮すれば、実際のこの比率はさらに高くなるはずだ。環境省は09年の推計で、犬の年間死亡数は約450匹、猫は約80~240匹にとどまるとみていた。

※殺処分数に傷病死した犬猫を含む自治体もある。一部自治体は速報値。比率は小数第3位で切り捨て
※殺処分数に傷病死した犬猫を含む自治体もある。一部自治体は速報値。比率は小数第3位で切り捨て

「56日齢規制に移行すべき」

 犬猫たちはどのように死んでいったのか。届出書には死因を報告する義務がないが、情報公開請求で入手した文書からは、繁殖業者のもとで生まれてすぐに死んだり、ペットショップの店頭で死亡したりと、様々な事情がうかがえた。劣悪な環境で犬猫を飼育している業者が少なからず存在することも間違いない。そんななかで、日本獣医師会の前会長で東京農工大学名誉教授の山根義久氏は、こんな問題を指摘する。

「現行の動愛法で、生後45日を経過すれば生まれた環境から犬猫を引き離せるようになっていることが、死亡数がこれほどの数にのぼる要因の一つになっているのではないか。45日齢というのはちょうど離乳前後で、免疫力が低下する不安定な時期。このタイミングで流通させることに大きな問題がある。早く56日齢規制に移行すべきだ」

 ペットショップ店頭での生体管理の問題については、その一端がうかがえる裁判が現在行われてもいる。愛知県内に本社を置き、全国で約60店舗を展開するペットショップチェーンを相手取り、購入した猫に先天性疾患があったとして治療費や慰謝料の支払いを求めて飼い主が14年12月に起こした民事訴訟だ。

 病気は呼吸が明らかに速くなったり、喘息のような症状が出たりし、外見にも変化が表れるものだった。猫を自宅に迎えた当日に連れていった動物病院の獣医師は、すぐにその異常に気付いた。対してペットショップ側の弁護士は、準備書面で次のように主張してきた。

「ペットショップではペットをゲージ内で飼育保管しており、ゲージ内での運動量に限りがあるため、被告従業員らが本件猫の呼吸促迫や喘鳴に気付かなかったとしても不思議ではない」(原文ママ)

「(特にペットショップで販売される犬猫種)は、人間の好み(都合)に合わせて小型化したり新種をつくるために交配合を繰り返し[中略]人の手によって血統が維持・左右されていることから[中略]雑種よりも、先天性疾患をもつ個体が必然的に発生しやすい」

 ペットショップとして、呼吸などの異常を見逃すことは一般的であり、そもそも先天性疾患を持つ犬猫が流通する可能性は高いとしているのだ。主張の真意を被告側の弁護士に尋ねたが、「係争中の案件にかかわる事項なので、お答えは控えさせていただきます」との回答だった。


自治体の殺処分、激減したが…

 今回の調査結果を都道府県別に見ていくと、流通量に対する死亡数の比率にかなりの差があることもわかる。繁殖業者数と小売業者数の内訳や、それぞれの自治体がどれだけ熱心に正確な数字を求めたのかによって、変わってくる可能性がある。業界の事情に詳しい獣医師は言う。

「今回わかった数字以上の数が闇で葬られていると考えたほうがいいだろう。そもそも店頭での展示販売は世界の趨勢としてなくなりつつある。ペットショップが自ら業態を変化させる必要があるのは間違いなく、同時に、安易な近親交配を繰り返したり、劣悪な環境で飼育させたりしているブリーダーをきっちり指導しないといけない」

 そもそもは各自治体が、業者に対して監視、指導を行う必要がある。だが現状では、年1回程度、予告をしたうえでの立ち入り検査が行われればいいほうだ(グラフ右)。苦情がなければ動かない自治体もある。また、改正動愛法で業者からの犬猫の引き取りを自治体は拒否できるようになったのだが、引き取りを求めて来た人の身元確認すら行っていない自治体が17%もあった(グラフ左上)。行政による殺処分数は劇的に減りつつあるが、生体販売ビジネスの裏側で命を失っていく犬や猫への対策は手つかずのままだ。
(朝日新聞社メディアラボ・太田匡彦)


※45都道府県、18政令指定都市、第1種動物取扱業に関する事務を所管する30中核市は各自治体が集計。青森県、栃木県、札幌市、福岡市は情報公開請求で入手した文書から朝日新聞とAERAが集計した。対象事業所数は1万4809件。一部自治体に未回収分がある。政令指定都市と中核市の数字は、それぞれが位置する都道府県の数字と合算している。「死亡した犬猫の比率」は小数第3位で切り捨て
※45都道府県、18政令指定都市、第1種動物取扱業に関する事務を所管する30中核市は各自治体が集計。青森県、栃木県、札幌市、福岡市は情報公開請求で入手した文書から朝日新聞とAERAが集計した。対象事業所数は1万4809件。一部自治体に未回収分がある。政令指定都市と中核市の数字は、それぞれが位置する都道府県の数字と合算している。「死亡した犬猫の比率」は小数第3位で切り捨て

(AERA 2015年10月12日号掲載)

太田匡彦

太田匡彦(おおた・まさひこ)

1976年生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当。AERA編集部記者やメディアラボ主査を経て、文化くらし報道部記者。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日新聞出版)などがある。


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