互いに心地よい柴犬との距離のはかり方①

「犬は家族の一員」という考えが浸透して、人と犬の距離が縮まった。
しかし、日本犬は心を許した飼い主に対しても一定の距離をとることが多い。
互いに適切な距離をはかるために、犬種の特性や暮らしを見直そう。
Text:Shio Kaneko Photos:Minako Okuyama
監修:山下國廣先生


人と犬の関係の変化が距離感に影響

家族の一員という考えが浸透して距離が縮まった

 日本犬は素っ気ない、と言われる。飼い主に対しても一定の距離をとり、スキンシップを喜ばないこともある。

 しかし、数十年前まで日本の家庭犬は番犬の役割を求められ、現在に比べて密接な関係ではなかった。そもそも番犬に対して「素っ気ない」とは思わないだろう。日本犬の距離感には、日本人と犬の関係が影響しているのかもしれない。獣医師の山下國廣先生にうかがった。

「日本も欧米のように室内で犬を飼うご家庭が多くなり、『犬は家族の一員』という考え方が浸透してきたのでしょう。愛情が強まったのは良いことですが、『犬は生涯成熟しないコドモ』という、極端なイメージで接する方も増えてきました。このようなご家庭は、年齢や性格に関係なく、犬に対して幼児のように密に接することが増えます。犬が過剰なスキンシップの対象にされることが多くなってきた状況には、このような理由が考えられます」

 飼い主にぴったりと寄り添い、スキンシップを喜ぶ愛玩犬は、幼児のように扱われることを喜ぶかもしれない。しかし、愛玩犬ではない日本犬には受け入れがたいこともある。愛犬のことを「素っ気ない」と思う機会が多い方は、犬を幼児扱いして密着した関係を強要してはいないだろうか。互いに心地よい距離をはかるために、日本犬の特性から考えてみよう。

番犬から家族の一員へ

人と犬、今昔の関係と距離感の違い

 日本人と犬は長く共に暮らしてきたが、その関係と距離感は時代によって異なる。まずはそれぞれの違いを知っておこう。

番犬として庭で飼育が一般的

 近代まで、犬の多くは番犬として飼われていた。昭和時代の中頃まで、一部の小型犬を除いて、犬は庭に繋いで飼うものという考えが一般的。また、現在の屋外飼育の犬とは異なり、共に過ごす時間は多くなかった。日本の伝統的な家屋では、間仕切りは障子や襖などでできており、畳に座って座卓やお膳に向かう低い生活。このような事情から、現在のような室内飼育はごく少数だった。

住環境の変化で室内飼育へ

 昭和時代後半、高度経済成長によって都市部を中心に住環境が大きく変化し始めた。地価の上昇により部屋や庭が狭くなり、近隣の住居の距離が近くなった。日本の伝統家屋は少なくなり、大規模な集合住宅が増えた。犬を飼育できる集合住宅も徐々に増え、室内で飼える小型の愛玩犬が人気を博す。日本犬はそれほど多くなかったが、人との距離は徐々に近づいていく。

ペット共生型の住宅が増えた

 現在、犬を家族の一員と考える人が増え、ペットと暮らすことを想定したペット共生型の住宅も登場。犬を室内で飼うことが浸透し、室内で暮らす日本犬も増加。特に都市部では屋外飼育より室内飼育の方が目立つ。日本犬を幼児のように扱う飼い主が増え、「素っ気ない」という声が聞かれるように。郊外では屋外飼育も多く見られるが、近代の頃よりも共に過ごす時間は伸びている。

監修:山下國廣先生

日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)卒、獣医師。犬のトレーニング、問題行動治療を行う「軽井沢ドッグビヘイビア」主宰。家庭犬のしつけ指導から作業犬の訓練まで、幅広く活動している。災害救助犬としても活躍した甲斐犬のすぐり(オス)と、15年7ヶ月を共に過ごした。

軽井沢ドッグビヘイビア https://www.karuizawa-dogbehavior.com/ 

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