犬の記憶力 少しずつだが解明はすすむ

 犬ってどれくらい記憶力があるの?過去を思い出すことはあるの? 音も記憶できるの? など、犬の記憶については謎が多い。動物や犬の記憶に関する画期的な実験を成功させてきた、京都大学心理学研究室の藤田和生教授に、犬の記憶について伺ってみよう。


 研究が徐々に進んでいる犬の記憶。今回は、まだまだある記憶についてわかっていることなどを藤田教授に教えてもらおう。

 

 

嫌な記憶への対応策は他にもあるのだろうか?

 嫌な記憶への対策として、徐々に慣らしてゆく系統的脱感作という方法を先に述べた。また、他にも嫌な記憶を定着させないために、拮抗条件付けというものもある。ある刺激が起きると、よいことが起きる、と記憶させていくこと。この方法を使えば、犬にとって嫌な対象になり得るものへの印象を変えることができる。例えば、動物病院に入ると、必ず獣医師や看護士に大好きなオヤツをもらえることで、動物病院に行くといいことが起きると記憶させることが可能。

 

 

犬の記憶力を具体的に測った実験はあるのでしょうか?

 物の名前を何個覚えられるか、を研究した学者がいる。その結果、一般的な犬でも1000個覚えることができるという結果が出た。これは、「ドラえ●ん」と言えば、ドラえ●んのぬいぐるみをとってくるというような、音声での記憶。特別な訓練をした犬であれば、1500個くらいは可能だという話を聞いたことがあるが、訓練なしでも、こんなに多くの単語を覚えることができるのか!びっくりだ。一方、視覚情報をどれくらい覚えられるかはまだわかっていない。

 

 

犬の記憶力は鍛えると伸びることがあるのでしょうか?

 記憶力は基本的にのばすことはできない。人間の場合、記憶するためのテクニックを覚えるから、記憶力が高まっているように錯覚する。例えば、年表を覚える時、「鳴くようぐいす平安京」なんて意味づけをすることで、覚えやすくするのだ。記憶力は鍛えてのびるものではない。しかし、学習する意欲をのばすことはできる。コマンドを教える時、成功したらごほうびをあげるなどを繰り返し、新しいことを覚えるといいことが起きることを教えると、記憶しやすい脳を作ることができる。

 

 

子犬時代の記憶があるということを示す実験はある?

 犬は、子犬時代の記憶があるのだろうか? 藤田教授曰く覚えている可能性がある、とのこと。盲導犬で例をあげよう。盲導犬は子犬時代に一般家庭で暮らし、そのあと目の不自由な新たな飼い主と10年くらい共に過ごす。その役目を終え、以前一緒に暮らした人と会うと、ものすごく喜ぶ犬が多いのだそう。なので、このことからも長期記憶は10年は持つと言われている。よく、日本犬は一度受けた恩を律儀に覚えている、という都市伝説的願望を聞くが、それは可能だということだ。

 

 

優れた聴力を活かし、細かな音質も聞き分ける

 犬は、人の声の質や高さも結構詳細に記憶しているのかもしれない。藤田教授が行った実験に、犬が見えないところから女性の高い声を聞いた後、おじさんの顔が急に目の前に現れたら犬は驚く、というものがある。これは、人間の声から性別を判断することができるということ。高い声=女性であると、覚えているのだ。そのためには、声の音質を記憶しなければならない。優れた聴力と、記憶力が可能にする。やはり、犬の記憶力はあなどってはいけないのだ。

においや、音がきっかけで思い出すことはある?

 犬の記憶の研究は難しく、実はわかっていないことが多い。しかし、研究者の努力で、徐々にいろいろなことが解明され始めている。


 その中でも、面白いと思ったのは、刺激で記憶が蘇るということ。みなさんも経験があると思うが、ふとした時に記憶が蘇ることがある。夕飯時にどこかの家から漂ってくるカレーのにおいを嗅いだ時、母親の顔を思い出したり。においだけではなく、何か刺激があった時、こういったことが起こるが、犬にも、そういうことがあるのだろうか?


 例えば、犬のことをよく観察していると、シャンプーの香りがしたら、急に部屋の隅っこで固まることがある。これは、シャンプーのにおいをきっかけに、シャワーという嫌なことをされた思い出がよみがえっているのかも。


 実際に実験で、飼い主の声を聴いたり、においを嗅ぐと、飼い主の顔を思い浮かべる、という結果も出ているようだ。もしかしたら、昔旅行に行った時に嗅いだ花のにおいが散歩中に漂ってきたら、その時の記憶が蘇えったりもするのかも?

 

顔の表情が示す意味も記憶できる

 犬は人間の表情の意味も記憶しているのかもしれない。ある実験がある。飼い主に悲しいアニメと、ギャグアニメを交互に見せる。そうすることで、自然に悲しい表情と嬉しそうな表情を作ることができる。愛犬がどちらの表情を注視するか、を調べた。


 実験の結果、より犬が注視したのは、嬉しそうな表情をしていた時。嬉しい感情を共有したいという犬の性質からくるものだろう。これは、犬が飼い主の表情の意味を記憶しているということだ。細かい表情の違いも記憶できるのである。

監修:藤田和生教授

京都大学文学部心理学研究室教授。多様な動物の認知、知性、感情の働きを分析し、相互に比較することを通して、心の進化を明らかにすることを目指している。主な著書に『誤解だらけのイヌの気持ち』など。

★実験参加犬募集★

 藤田教授はCAMP-WANというプロジェクトを主宰している。人と犬の関係をさらに深いものにするために、犬の行動や知性について調査している。CAMPWANでは調査に協力してくれる日本犬を募集している。

https://sites.google.com/site/kyotocampwan2/home

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