動物園生まれのコツメカワウソ、動物商経由でペットショップへ…

※今回は実際のレポートの短縮版での掲載です。


 あるエキゾチックアニマル系のペットショップのサイトに、下記のような表示が出ていました。「CB」というのは“Captive Bred”の略で、飼育下で繁殖された個体という意味です。つまり動物園で生まれた個体だと書いてあるのです。

 

2016/04/26


4月16日の新入荷です。
コツメカワウソ オス 2015年3月2日生 国内動物園CB 別血統
コツメカワウソ メス 2014年1月3日生 国内動物園CB 別血統

 動物園で生まれてペットショップに売られるとはかわいそうに……と思い、生年月日で検索したところ、平川動物公園のサイトにずばり2015年(平成27年)3月2日生まれのオスが2頭いることが書かれていました。


 また、記載とは1年違いですが、2013年(平成25年)1月3日生まれのメスもいます。このメスは、後日、2014年生まれが正しいことが判明しますが、まず平川動物公園にブログに載っているこれらのコツメカワウソはすべて園にいるか、最近園を出た個体がいるか、質問しました。


 すると4月29日に以下のような回答が来ました。

 

コツメカワウソについてのお問合せの件ですが、
平成27年3月2日生まれのうちの1頭
平成25年1月3日生まれのうちの1頭
合計2頭を株式会社 有竹鳥獣店さんへ今月(今年4月)搬出しております。

 やはりコツメカワウソたちはいなくなっていました。しかも有竹鳥獣店というのは、動物園に動物を卸していることで知られる動物商です。


 以前、カンボジアからのゾウ輸入の問題が起きたときに、平川動物公園は、交換する動物を自園と同じくらいかもっとよいところにしか出さないと言っていたのですが、やはりあれはあのときだけの話だったのでしょうか?


 そこで、上記の回答に対し、「ペットショップで売られていると思います」と指摘し、このペットショップは東京の移動展示即売会でも見かけること、非常に小さいケージに小型の哺乳類を入れて売っていること、その際、激しく常同行動をしている動物がいるなど、かわいそうに思える状態であることを伝えました。


 そして、このコツメたちを取り戻すか、有竹鳥獣店に他の動物園を探させるか、何とかならないか聞きましたが、驚くべきことに、今度は以下のような回答がきました。

 

 コツメカワウソの交換契約に関しましてお問合せの件ですが、有竹鳥獣店さんからは、「きちんと飼育できる所にしか譲っていない。」と聞いております。


 動物園で多様な動物種を継続的に飼育展示していく上では、計画的に繁殖させ、血統を更新していく必要があり、出来れば動物園同士で交換をすることが望ましいのですが、相手方と当方で移動を希望する動物種が一致しないことも多く、どうしても間に調整役として動物取扱業者が入ってくることがあります。


 動物園としましては、これまで通り、違法でないペット飼育に関しましては、生態に関する正しい知識や飼育方法、飼育に必要な設備、もし飼育するのであれば責任を持って終生飼育することなどを、一般の方々に対して普及指導していく方針でおります。

「きちんと飼育できる所」……。ペットショップの小さな檻が「きちんと飼育できる所」に思えないのはもちろんですが、ペットショップ経由で売られてしまうのであれば、動物商には、動物が誰にどのような環境で飼われるかなど、全くわからないはずではないでしょうか。


 しかも、この2匹と思われるコツメカワウソが、東京で5月に開催されたエキゾチックアニマルの展示即売会に連れてこられていましたが、写真のような状態でした。

 

 ちなみに、店員はどこの動物園生まれかは「わからない」と言っていました。法制度上、動物取扱業者は展示販売時に「生産地」の表示をしなければいけませんし(細目第6条二)、購入者に対しては繁殖を行った者の氏名を提供しなければいけませんが(動愛法第二十一条の四)、そのようなことがありうるのでしょうか。

 

 

■東京都から有竹鳥獣店に対し指導!

 コツメカワウソを売っているショップが情報を持っていないのは本当のように感じられましたが、動物取扱業の規制上、登録業者が同じく登録業者に対して動物を販売する場合、動物愛護法施行規則第八条第五項に挙げられている説明事項18項目を伝えなければならないことになっています。ではなぜ、ショップは情報を持っていないのか?


 平川動物公園は、出生証明書ではないがそれに準じるような情報が記載された書類を添付して動物商に動物を渡したとのことですから、施行規則第八条第五項の 「カ 繁殖を行った者の氏名又は名称及び登録番号又は所在地」を含め、詳細な情報を教えずに取引先に卸したのは、有竹鳥獣店の疑いが濃厚です。


 この違反の可能性を東京都に伝えたところ、早速、東京都動物愛護相談センター城南島出張所が立入をし、台帳の確認まで行ってくれました。結果判明したのは、2013年1月3日生まれとあった個体は、やはり2014年生まれであり、有竹鳥獣店が間違えて卸し先に伝えていたということ。また、平川動物公園は病歴やマイクロチップ情報などまできちんと伝えていたのにも関わらず、有竹鳥獣店は、性別や誕生日など基本的な情報しか卸し先に伝えていませんでした。


 そして、一番驚いたのは、有竹鳥獣店から直接上記のショップに販売されたわけではなく、間に2~3業者が入っているらしいこと……。まさに「動物転がし」の世界です。


 説明事項18項目の伝達については、都から有竹鳥獣店に対して指導がなされました。動物の飼育に必要な情報を十分伝えないような業者が、手広く動物園にも動物を卸してきたことに疑問を感じます。

 

 

■日本動物園水族館協会(JAZA)の見解は?

 これらのコツメカワウソが売られているペットショップには、頻繁に動物園由来の動物が入荷しています(例えばアメリカビーバー、アカハナグマ、ミー アキャット、キンカジュー、プレーリードッグなど)。また、インターネット検索をすれば、常時幾つかのショップで動物園由来の動物は見つかります。


 さらに、例えば輸入禁止となったプレーリードッグは動物園がペット流通におけるブリーダーのような役割を当初果たしていましたし、爬虫類に広げればもっと事例はあるのではないかと思います。


 一方、今回コツメカワウソの流出元となった平川動物公園は、日本動物園水族館協会(JAZA)加盟の動物園です。JAZAでは、カワウソを1990年頃から種別調整対象種にしているとのことで、今は海遊館が担当館になっています。


 動物園は種の保存に取り組んでいるとしきりに宣伝される中、種別調整対象種の繁殖をして余らせて、ペットショップに流出させているというのは、問題ではないのでしょうか。いくら繁殖で動物が余るからといって、どのような人に飼われるかわからないペットショップへの流出をよしとするのでは疑問です。また、動物園・水族館のイメージも壊すのではないかと思われます。


 動物愛護法の話になると、JAZAや動物園関係者たちは「自分たちはペットショップとは別格なのだから動物取扱業の規制から外してほしい」等、主張してきましたが、実態としては動物商を通して動物の「始末」をペットショップ業界に頼っており、また動物の入手もペットショップに流すような動物商に頼らざるを得ない状況です。どう考えても業界としてこの3者は一体であると思わざるを得ません。


 そこで、この余剰動物の問題について、JAZAとしては何かポリシーは持っていないのか、聞いてみました。しかし残念なことに、JAZAからの回答は、以下のようなものでした。

 

 JAZAは、会員が余剰動物を会員以外に販売することを基本的に禁止してはいません。


 動物商を通じたペットショップへの流通が適法である限り、会員に対し販売を規制する権限はJAZAにはありません。従って、ごく稀ではありますが ペットショップで販売される動物に動物園の出生証明書が添付されている可能性はあります。JAZAとしては、そうした動物がすべての流通段階において、適正に取り扱われることを期待しています。


 ペットショップにおける動物の取扱いの適否については、動愛法所管部局において法令に基づき適正に指導されるべきものであると考えます。また、 メールに記載のあった事例の詳細が分からない状況では調査を行うことは困難であり、「動物園はペット業界と一体と言え、JAZAの従来の主張と矛盾」との ご指摘は当たらないものと考えています。


 JAZA生物多様性委員会が所掌する調整種、登録種の移動については、関係省庁への確認・申請が必要であるために、当該個体が外部に出ることはありません。


 日本産動物で国内保護動物の繁殖個体については、環境省のルールに則って移動は許可されていないため、外部に出ることはありません。

(出生証明書と書かれているのは、当会が質問でコツメカワウソがワシントン条約附属書II掲載種であることに言及したためと思われますが、今回問題にしたコツメカワウソには添付されていません。)


 JAZAとしては、こういったことを避けるため、繁殖計画をしっかり立てるよう加盟園館にお願いはしているそうですが、もっと強い対策が必要ではないでしょうか。「動物園の実態がブリーダー」では存在意義がますます怪しくなります。自分たちはペットショップとは違うと主張するのであれば、まずペットショップへの動物の流出を食い止めるべきでしょう。


 また、繁殖するにまかせ、数を増やしてショップに流出させるような動物園は、環境省が現在検討中の認定動植物園等(仮称)について、対象から除外されるべきだと思います。平川動物公園は、今後も繁殖を継続すると述べており、余剰になれば動物商を頼ることも否定していません。


 展示する動物をキープするために、不幸な動物を生みだしているのが動物園なのです。

この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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