高度な獣医療を提供 首都圏・中部・近畿にある大学付属動物病院

 動物にも大学付属病院がある。そこでは、街の動物病院では難しい精密検査や、高度な獣医療が提供されている。首都圏・中部・近畿にある七つの病院を紹介する。
(各大学の公表情報をもとに作成)
文=臼井京音 イラスト=ハラアツシ


 獣医学の教育・研究をする大学やその学部などに付属する動物病院は、全国に15施設。そのうち約半数が、本誌で取り上げている地域にある。

 最大の特色は、最先端の獣医療を行う設備と技術がそろうこと。人の病院のように専門診療科が細分化され、必要に応じて各診療科が相互に協力をしながら動物の診断や診療にあたっている。一般の動物病院では導入が困難な高度な検査機器を完備し、検査結果を迅速に得られるのも利点だ。

 ただし受診するには、かかりつけの動物病院からの紹介が欠かせない。動物の大学病院は、原則的には高度医療を提供する二次診療施設なのだ。かかりつけ医が、CTやMRIといった高度な検査、専門的な診断や治療が必要だと判断した場合に、大学病院を紹介することになる。

 ちなみに、検査の結果や診断によって、大学病院側でかかりつけ医が引き続き治療に携わるべきだと判断すれば、一時的な受診になるケースも少なくない。そのため、飼い主にとってのアクセスの良さは、紹介時の大きな要素になる。

 ふだんの健康管理や予防接種、基本的な獣医療などを担当するかかりつけ病院と、高度な検査や二次診療を行う大学病院。動物の医療におけるその密接な連携は、人の医療より進んでいるともいわれている。


高精度な診断を重視する教育病院
東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センター

 前身の「家畜病院」時代からの歴史は約130年におよび、動物の診療行為を通して、その病気の原因、診断、治療、予防などに関する教育と研究を行う「教育病院」としての存在意義も大きい。

 高精度な診断を重視して、画像診断部や病理診断部を新設し独立させているのが特徴的だ。2014年に導入された80列マルチスライスCTは、今まで以上に短時間で広範囲の撮影が可能になり、麻酔をかけずに撮影する症例も増えた。CTとMRIそれぞれで、年約700~800件の検査実績を持つ。

 細分化された内科のうち神経科では壊死(えし)性髄膜脳炎、消化器内科ではたんぱく漏出性腸症や犬種特異的肝疾患、先天性門脈体循環シャント、血液腫瘍(しゅよう)内科ではリンパ腫に関する症例が多い。腫瘍に対しては軟部組織外科で化学療法や放射線療法などを組み合わせた集学的な治療を行っている。行動診療科もあり、犬や猫の問題行動について相談できる。この科については紹介が不要。直接予約を受け付けている。

 リス、フェレット、ウサギなどの小動物哺乳類、鳥類、爬虫類などの診療はエキゾチック動物診療科で担当している。

診療科

第1内科(神経・内分泌科)、第2内科(消化器内科)、第3内科(血液・腫瘍・循環器内科)、軟部組織外科、整形・神経外科、眼科、行動診療科、エキゾチック動物診療科

東京都文京区弥生1-1-1
地下鉄東大前駅から徒歩3分
TEL:03-5841-5420(代表)



地域の飼い主の要望に柔軟に対応
東京農工大学動物医療センター

 西東京地区の二次診療施設として地域のニーズに応えるべく、多様な専門診療を実施している。

 新設された腫瘍科では、外科療法や化学療法を中心に、動物に対してより負担の少ない「がん免疫療法」も実施しているのが特徴の一つ。完治が困難な悪性腫瘍の場合でも、飼い主の立場に寄り添い、動物に与える苦痛が少ない最善の治療法を探せるように相談に乗っている。

 放射線科では、治療の選択に迷っている飼い主のためのセカンドオピニオン読影も行うほか、頭部の病気に関しては問診から検査・内科的治療までも担う。循環器科でも、ほかの病院で心臓病と診断された症例のセカンドオピニオンに応じるほか、定期的な診察のみを実施して薬の処方はかかりつけの動物病院に任せるという柔軟な対応を行っている。

 皮膚科については、アジア獣医皮膚科専門医協会の指定教育機関ということもあり、臨床教育にも力を入れる。特に自己免疫性皮膚疾患、皮膚細菌感染症、アトピー性皮膚炎などの診療実績が多い。

 すべての診療科において、飼い主と十分なコミュニケーションをとりながら信頼関係を築くことを大切にしている。

診療科

一般内科、一般外科、皮膚科、循環器科、神経科、整形外科、腫瘍科、放射線科、臨床繁殖科
※眼科は休診中

東京都府中市幸町3-5-8
JR北府中駅から徒歩12分
TEL:042-367-5785



19の専門診療科を設置
日本獣医生命科学大学付属動物医療センター

 日本獣医畜産大学時代から、地域の獣医療に貢献するため、基幹診療施設としての役割を担ってきた。現在は19の専門診療科を設けており、どの専門診療科にかかればよいか不明な場合は、一般外科や一般内科などの総合診療科として対応をしている。

 特徴である腫瘍診療は、必要であれば内科と外科と放射線科の連携のもとに治療プログラムが組まれ、手術や抗がん剤治療のほかにリニアック装置による放射線治療も行っている。がんになった動物に対する緩和ケアにも積極的だ。

 内科系は細かく診療科が分かれ、内分泌科では糖尿病や副腎など内分泌器の病気を、腎臓科では腎臓病を、消化器科では慢性嘔吐や慢性下痢症の症状を示す動物の治療を行っている。

 神経科ではてんかん、脳脊髄炎、筋炎などの神経疾患を扱い、脳神経外科では脳腫瘍や水頭症などの脳外科疾患の診断と診療を行う。眼科では結膜炎、角膜炎、失明疾患などの診療に力を入れている。動物の攻撃行動、破壊行動、不安行動、恐怖症や常同障害といった問題行動を治療する行動治療科もあり、しつけの問題や飼い方相談にも対応する。

診療科

一般内科、循環器科、腎臓科、呼吸器科、生殖器科、内分泌科、皮膚科、消化器科、腫瘍内科、行動治療科、放射線科、神経科、一般外科、整形外科、産科、軟部外科、脳神経外科、腫瘍外科、眼科

東京都武蔵野市境南町1-7-1
JR・西武線武蔵境駅から徒歩2分
TEL:0422-90-4000(直通)



国内有数の診療実績を誇る
日本大学生物資源科学部動物病院

「日本大学動物病院(ANMEC)」という略称で親しまれている。MRIやCT、陽圧手術室などハード面での高い充実度に加えて診療担当教員、有給研修医、支援獣医師など豊富な人員をそろえており、診療実績と臨床教員の社会的評価は獣医系大学の中でトップレベルだ。

 体表、胸部、腹部、四肢の外科疾患を取り扱う軟部組織外科と、骨外科や関節外科を中心に神経外科も含む整形外科は、小動物外科専門医を育成する基幹施設に指定されてもいる。ほかの大学病院では独立させていない歯科を設けているのも特色の一つだ。

 ライナックによるがんの放射線治療が毎日実施されるなど、がん治療にも注力。人工心肺装置を備える循環器科では、動脈管開存症について犬や猫への負担が少ないコイル塞栓(そくせん)術を行ったり、肺動脈弁狭窄(きょうさく)症ではバルーン拡張術を行ったり、専門性の高い治療を実施している。眼科診療専用の検査器具もそろう。

「かかりつけ医」を持っていない飼い主が、病気についての悩みを相談できる医療相談室を設けるなど、地域の飼い主のニーズに応えられる大学病院でもある。

診療科

一般内科、消化器科、血液科、循環器科、放射線科、腫瘍科、呼吸器科、軟部組織外科、整形外科、神経・運動器科、眼科、歯科、皮膚科、産科繁殖科、臨床検査科、医療相談室、産業動物科

神奈川県藤沢市亀井野1866
小田急線六会日大前駅から徒歩10分
TEL:0466-84-3900



充実したチーム医療を展開
麻布大学附属動物病院

 1890年に設立された東京獣医講習所に始まる。現在は伴侶動物を中心に、約130人のスタッフのもと年間およそ2万例の診療実績を誇る。

 犬や猫などを受け持つ小動物診療部はCT、MRI などの診断装置をはじめ、日本では数少ないリニアック型放射線治療装置を備えるなど設備が充実。検査室にいる検査診断部門のスタッフが、検査結果をオンラインで処置室や診察室に報告するなど診療部と密接な連携を取る。

 手術室は陽圧手術室を含めて3室。同時に四つの手術が実施可能で、そのうち二つは飼い主用の見学室も併設。また治療に関するインフォームド・コンセントなどを行う相談室もあり、飼い主にわかりやすい治療を心がけている。

 90頭の入院管理が可能。重症動物のためのICUや隔離室も含めて各部屋にはテレビモニターが設置され、どこにいても教員をはじめ研修獣医師や動物看護師が部屋の様子を確認できる。

 大学の付属病院には珍しく、検診センターも設置しており、高度な検査機器による検診で病気を早期に発見したい飼い主のニーズに応えている。飼い主が直接電話で予約を取ることができる。

診療科

一般内科、一般外科、血液内科、腎・泌尿器科、消化器科、皮膚科、腫瘍科、循環器科、脳神経科、整形外科、眼科、感染症科、画像診断科、内視鏡科、放射線科、麻酔科、検診センター

神奈川県相模原市中央区淵野辺1-17-71
JR淵野辺駅から徒歩12分
TEL:042-769-2363(直通)



中部地方唯一の大学付属病院
岐阜大学応用生物科学部附属動物病院

 中部地方唯一の大学付属病院として、1941年から動物の難治性疾患の診断と治療を行ってきた。2010年には新病棟、リニアック棟、本館、入院棟、CT棟などの増築と改修が終了し、国立大学では国内初となる高エネルギー型放射線治療器も導入した。任期制助教や非常勤獣医師の雇用を積極的に行い、ハード面でもソフト面でも高度先端動物医療の担い手としての充実度が増している。

 年間の治療実績が約6千件ある腫瘍科では、外科治療や抗がん剤による化学療法や放射線治療を連携させた治療で、成果が上がっている。国内初となる強度変調放射線治療(IMRT)は、腫瘍のない部分に照射する放射線の量を可能なかぎり減らし、腫瘍への放射線量を集中させるもの。鼻腔内腫瘍など頭や首のあたりの腫瘍に力を発揮する。がん治療では緩和ケアも重要であり、完治がむずかしくてもペットのQOL(生活の質)が保てるよう、飼い主と獣医師が十分に話し合って治療プランを組み立てられる。

 飼い主と動物には"やさしさ"と"親しみ"を、紹介者である開業獣医師には"信頼感"と"明確さ"を感じられる中核動物医療施設を目指している。

診療科

内科、外科、腫瘍科、神経科、麻酔科
※臨床繁殖科は産業動物のみ対象

岐阜県岐阜市柳戸1-1
JR・名鉄岐阜駅からバスで約30分
TEL:058-293-2962



設備充実の近畿唯一の大学病院
大阪府立大学 生命環境科学域附属獣医臨床センター

 1890年に完成した大阪府立農学校附属家畜病院から改組や改称を重ね、現在は大阪府立大学のりんくうキャンパス内に獣医臨床センターを置き、大阪をはじめ関西の動物を受け入れている。

 内科診療科や外科診療科では、一般的疾患の診断と治療を行うとともに、特定疾患については、内科では皮膚・免疫病、外科では腫瘍・神経病・泌尿生殖器疾患などの特別専門外来で診療を行う。放射線に対する感受性が強い腫瘍性疾患にリニアック装置を用いて放射線治療をする放射線科は、週3回の診察日が設けられている。

 手術は準無菌的な陽圧手術室で行われ、手術見学室の大きなガラス窓や術中カメラからのモニターでの見学も可能だ。手術中にX線透視検査を行える装置や、腹腔(ふくくう)鏡および間接鏡としての直視鏡下で手術を行える装置を導入し、手術の確実性を高めている。同フロアにはICU入院室があるほか、別のフロアには感染症の動物を隔離して診断と治療を行う感染症診療・入院室なども備えている。夜間や休日の入院動物の管理を行う入院管理科も設置して、入院動物への対応も手厚い。

診療科

内科診療科、外科診療科、繁殖診療科、放射線科、検査科、麻酔科、中央手術部、入院管理科

大阪府泉佐野市りんくう往来北1-58
JRりんくうタウン駅から徒歩7分
TEL:072-463-5082

大学病院の機器・設備
ペットのためにここまでできる

CT検査装置

 X線で体の断層画像を撮影し、3Dの立体的な診断を可能にする。腫瘍をはじめ多様な疾患の診断に使用される。

MRI検査装置置

 磁場を用いて体の断層の鮮明な画像を撮影する。とくに、脊髄や脳など神経系の診断や病状把握に有用。

リニアック(ライナック)装置

 X線や電子線などの放射線を患部に照射する装置。悪性腫瘍の治療に利用。

超音波(エコー)検査装置

 腹部の臓器や心臓などの検査に多く用いられる画像検査装置。腫瘍や炎症の有無、機器によっては血流などを、超音波を身体に当てることで映像で見ることができる。開業動物病院の導入も少なくない。

陽圧手術室

 細菌などの飛沫を最小限に抑えることができる、陽圧換気システムを導入した手術室のこと。清潔な室内環境のもとで手術が行える。

この連載について
from AERA Mook「動物病院 上手な選び方」
AERAムック「動物病院上手な選び方」(朝日新聞出版)に掲載された、ペットの飼い主に役立つ記事を集めた連載です。
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