ペットの心と体の健康に、「中医学」を取り入れるといいワケ

 家族の一員である愛犬や愛猫と一日でも長く楽しく暮らすためには、彼らの心と体の健康を守ることがとても重要なポイントです。


 最近、ペットの健康に関心の高い飼い主さんやそれをサポートする獣医師さんの中に中国伝統医学である「中医学」の考え方や治療法を取り入れる人が増えています。その理由と「中医学」の基礎知識について、中医学講師の楊達先生にお話を伺いました。

 

 

ペットの健康を守るのは人間の責務!

 
中医学講師・医学博士の楊 達 先生
中医学講師・医学博士の楊 達 先生

 犬が14.36歳、猫が15.04歳*1。日本のペットの平均寿命は近年飛躍的に延びてきています。でも生き物である以上、老化は自然現象なので誰にも止めることはできない、と指摘する楊達先生。


 「長くなったとは言え、人間に比べれば犬や猫の寿命は短く、成長も老化も私たちが想像する以上のスピードで進みます。一日でも長く楽しい時間を共に過ごしたいなら、彼らの心と体の健康を保つことが肝心です。忘れてはならないのは、私たち人間と異なりペットは自分で生活環境や生活習慣を選べないということ。食べ物を選ぶのも、散歩に行くのも、動物病院へかかるのも、すべては飼い主さん次第。ペットの健康管理は、飼い主さんである人間の責務だということを忘れないでください」

*1一般社団法人 ペットフード協会「平成28年全国犬猫飼育実態調査結果」

 

 

注目され始めたペットの「中医学」

 

 犬や猫に最近増えているのが肥満やアレルギー性の皮膚疾患、関節炎、そして認知症です。

 「高齢の子が増えているという日本のペット事情もありますが、室内飼いが一般的になり、人間と同じ生活環境や生活習慣で暮らすようになったことも原因です。その影響で彼らの体の内部で変化が起こり、人間と同じような病気や体調不良が増えてきているのです」

 楊先生によると、検査数値は異常ではないものの調子が悪そうな子や、高齢で手術ができない子など、西洋医学では対応しきれないケースも増えてきているそうです。

 「そこで今、全国の獣医師さんたちから注目されているのがペットの『中医学』です」

 

 

病気だけでなく、全身に広くアプローチ

 

 4千年の歴史を誇る「中医学」は、中国薬学の理論と臨床経験に基づきながら、現代に至るまで日々進化してきた中国伝統医学です。日本の漢方の源流であり、鍼灸治療のベースにもなっている中医学は「整体観」と「弁証論治」という考え方が特徴です。


 「人間も自然の一部であり、周囲の環境や気候の変化、ストレスなどの影響を受ける存在であると考えるのが『整体観』。同時に『整体観』では、体の中でも様々な臓器や要素がバランスをとりながら影響し合っていると考えます。診断や治療にあたって患者さん一人ひとりの体質や生活環境、体調の変化を把握・分析して行うのも中医学ならでは。それが『弁証論治』です」


 中医学は犬や猫など動物の体を考える上でも有効だと言います。「なぜなら、彼らもまた自然の一部だから。西洋医学が病気にピンポイントで働きかける医療だとすれば、中医学は体だけでなく心も含めた全身に広くアプローチしていくイメージです。西洋医学と中医学、それぞれのいいところを用いて治療にあたるのがベストだと私は考えています」

 

 

大切なのは、バランスを整えること

 
図1
図1

 中医学では、体は活力や新陳代謝の力などエネルギーを意味する「気」、全身に栄養を運ぶ「血」、そして体にとって必要な水分「津液」の3つの要素で構成されていると考えられています。(※図1 参照)「この3要素を生成しているのが『五臓(心・肝・脾・肺・腎)』と呼ばれる内臓です。健康な状態では『気・血・水』と『五臓』は、それぞれが複雑に関わりながら一定のバランスのもとで働いています。体が不調や病気へと傾くのは、そのバランスが崩れたときです」


 バランスを崩す原因には生活習慣の乱れや運動不足、ストレスのほか、老化や気候の変化などが挙げられる、と楊先生。


 「まずは、正しい知識を得ることが大事です。その上で、生活環境や習慣を改善したり中医薬や鍼灸などを用いたりしながら、崩れたバランスを整えていく。それを中医学では『養生』と呼んでいます」

 

 

子どもの診療と似ているペットの診療

 
図2
図2

 中医学の診療は五感をフル活用しています。それが「四診」という方法です。(※図2 参照)

 「言葉を話せない犬や猫の診療の場合、『問診』に答えるのは飼い主さんの役目。小さなお子さんの診療と同じです。質問にきちんと答えるためには、普段からペットの食欲や排泄物、毛並みの変化に敏感でいる必要があるでしょう」


 ペットの健康を守るには2つのコミュニケーションが必要だというのが、楊先生の持論です。
 

「それは『ペットと飼い主さん』、『飼い主さんと獣医さん』の2つのコミュニケーション。実はもの言わぬ彼らからのSOSを誰よりも早くキャッチできるのは、獣医さんよりもいつも一緒にいる飼い主さんの方なのです。そのことを忘れないでください」

 


楊 達 先生
よう・たつ 中医学講師。医学博士。イスクラ産業株式会社取締役。1982年、中国雲南中医学院医学部卒業。同学院内経教室、大学院、中医外科(皮膚科専門)教室で助手、講師などを経て、93年埼玉医科大学皮膚科教室へ留学。医学博士号を取得する。以来、今日まで中医学の普及活動に従事。現在中華中医薬学会会員、世界中医薬学会連合会常務理事、世界中医薬学会連合会皮膚病専門委員会理事、中国雲南省中医薬学皮膚美容専門委員会名誉主任委員などを務める。

 

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