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藤村かおり・sippo|更新|2017/08/27

猫27匹と犬1匹 自宅で子どもたちと見守る個人ボランティア 「保護活動は動物への恩返し」

居間でくつろぎ、新たな家族を待つ保護動物たち、手前の三毛が「ろうそく」(神保枝美さん撮影)
居間でくつろぎ、新たな家族を待つ保護動物たち、手前の三毛が「ろうそく」(神保枝美さん撮影)

 1カ月から19歳まで、27匹の猫と1匹の犬。東京都北区で動物の保護活動を個人でしている神保枝美さん(35)の自宅を訪ねると、2階のリビングに案内された。

 

 (末尾に写真特集があります)

 

 20畳以上はある部屋は明るく、広々としている。床でビーグル犬と小さな黒猫が並んで昼寝をし、その周囲で猫が遊び、キャットタワーにも何匹か上っている。その奥のケージにも猫がいる。


「ハンデがあったり、病気やケガを負っていたり、事情のある子ばかりです。でもみんな良い子たち。私は個人で細々と動物の手助けをしていますが、そうした事情のある動物のことを“応援したい”“ハンデも個性”と言って下さる方も多くいるので、嬉しい限りです」


 1匹の子猫がちょこちょこと神保さんの足元に寄ってきた。尾の先が少し細い。1カ月ほど前に保護した時には、ほとんど毛がなかったが、やっと近頃、生えてきたのだという。

猫たちが遊ぶ広々したリビング
猫たちが遊ぶ広々したリビング


「この子は『ダン』。生後約3カ月の男の子ですが、シッポの先がライターか何かで焼かれて焦げていました。ヒゲも切られ、赤い粉を体に撒かれていたんです。でもそんな『ダン』に新しい家族ができます。譲渡会に出した『てすと』というキジ猫と一緒に“卒業”する予定です。それから頭にろうそくの火のような模様がある三毛が『ろうそく』。ご縁はまだ。三毛やサビはご縁がゆっくりめなんです」


 神保さんが説明する横で、夏休みで家にいた二男、夕來君(9)が、床に転がり、1匹の子猫をあやしはじめた。子猫は元気そうに見えるが、尿道に少し問題があるそうだ。

 

「『ばくてん』という名で、生まれた時からおしっこが出にくい。こんなに小さいのに手術もしてカテーテルつけたんだよ。でも兄弟は死んじゃったんだよね」と、夕來君が話す。この日は不在だったが、普段は兄の凪詩君(13)と世話をするそうだ、


 神保さんは子どもの頃から動物が好きで、捨てられた動物を拾っては世話をしていたのだという。


「昔は犬や猫を飼育できない家に住んでいたので、隠れて面倒をみていました。捨て犬や捨て猫がたくさんいるのに、『なぜおとなは助けてくれないの?』と思いながら。親に言われて保護した捨て犬を泣く泣く表に放ち、その犬が人を噛んで保健所に連れていかれたこともありました。子どもは何もできないんだ、と悲しかったことを覚えています」


 その動物への思いが高まったのは、中学生の時だ。親の離婚などで悩んだ神保さんは3年間、不登校になって家にひきこもった。


「母は朝から晩まで働いているし、姉はやさぐれて家にいない(笑)。誰もいない一人の部屋で、文鳥やハムスターが唯一の話し相手でした。でもあの時、その小さな命にどんなに励まされたか……大人になったら動物たちに恩返しをしようと心に決めたんです」

 

子猫たちと遊ぶ二男の夕來君
子猫たちと遊ぶ二男の夕來君

 今住んでいる家は3階建ての3LDK。平日は実母と2人の息子と暮らし、週末はそこに単身赴任の夫が加わる。来てすぐの動物は病気の恐れもあり完全隔離するため、母や子ども部屋、脱衣所や洗面所にも、犬や猫のケージを置くことがある。一家全員で動物を見守るのだ。


「預かる数の上限はもちろん決めているし、部屋も猫がいるからこそきれいにしています。多くの動物を保護するのは、生活に余裕があるからじゃないかと言われることもありますが、そんなことはない、普通です。家族の世話もあるし、仕事も二つかけ持ちしていますし」


 ひとつの仕事は教育関係(学童保育)で、そこに通う子が「猫を拾った」と相談に来ることもある。そんな子に対し、神保さんは「ほめてあげる」のだという。

 

授乳ブラザーズ。(右は長男の凪詩君)近所の子供たちも世話にくることがある(神保枝美さん撮影)
授乳ブラザーズ。(右は長男の凪詩君)近所の子供たちも世話にくることがある(神保枝美さん撮影)

「困っている人がいたら助けるのは当然で、おとなができないことを子どもがしているんだから、すごく偉かったわと言うんです! 中にはお小遣いで缶詰を飼う子や、猫の卒業前にハグしにくる子もいたり。たとえ家で飼えなくても、保護した動物が無事に生きていくことがわかるのは、子どもの心もほっとさせるのだと実感しています」


 一方で、動物をないがしろにする“おとな”が許せない、と話す。実は近所に住む高齢の女性が昨年、18歳の猫を捨てたのだという。


「『なんで捨てるのか』と聞くと、『弱っているからだ』と。老猫の体は洗ったら白くなったけど、保護時は汚れで自然薯のような色をしていて、『とろろ』と名付けました。なんとその人が最近また猫を捨てたんです。大けがで片側の頬がえぐれていました。飼い方がずさんな家なので、保健所も時々指導に入っていますが、許せません」


 けがをした猫は5歳なのに体重が1.9キロほどしかない。ウルトラマンのように強くなるようにと、息子と『ウルト』と名付けた。貧血もひどく、輸血を受けさせて、見守っているところだ。


「ウルト」のそばに座っていたサビ柄の猫が、ニャアと鳴いて、こちらに近づいてきた。体は細いが、しっかりと歩き、指を出すとペロリと舐めた。推定17~18歳だが、赤ちゃんのような、あどけない表情をしている。

 

「びっちゃん」は高齢になって表で保護された。人懐こく甘えん坊
「びっちゃん」は高齢になって表で保護された。人懐こく甘えん坊

「このサビ柄の保護猫『びっちゃん』は余命わずか……、慢性腎不全が治らないんです。でも、朝晩の点滴をしながら、一生懸命生きている。がんで余命1か月の猫もいますが、限りある命でも、一瞬を楽しく過ごしてもらいたい」


 神保家に来た動物は、基本的にすべて新たな家族を探す。どうしても引き取り手がなかったり、難しい状態の時は、家で引き取ることがある。19歳の「とろろ」や、腎不全の「びっちゃん」、がんの「小花」は神保家で看取りをする予定だという。


 午後になると、夕來君は子猫をひょいっと抱きかかえ、哺乳瓶を片手に持って、授乳をはじめた。子猫は勢いよくミルクを吸う。“生きるよ、生きるよ”というように。

 

具合が悪くて寝ている二男の夕來君を心配そうに囲む猫たち(神保枝美さん撮影)
具合が悪くて寝ている二男の夕來君を心配そうに囲む猫たち(神保枝美さん撮影)

 

「仲良くなった犬や猫と別れるのは、さみしくない?」


 夕來君に尋ねると、「うーん」と首をかしげて、言った。


「泣いたこともあるけど……平気。おとなになったら、僕もたくさんの動物と暮らしたい。動物ってすごいよ。僕が病気で寝ている時、ガリバー旅行記みたいに布団の周りを取り囲んだんだよ」


 動物を幸せにしたい。その思いは、子どもたちをも幸せにしている。

 

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出典:sippo
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藤村かおり

藤村かおり(ふじむら・かおり)

ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。


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