大けが乗り越え20年4か月 ご長寿猫が迎えた静かな最期

ミミとおやつをねだるベル(右)
ミミとおやつをねだるベル(右)

 1年前に腰を骨折する大けがを負いながら、回復し、力強く生きたご長寿猫「ベル」。取材したのは9月だった。11月半ば、そのベルの訃報が家族から届いた。とても静かな最期だったという。

 

(末尾に写真特集があります)

 

「元気がないね」「食欲が落ちたわね」


 横浜市にある熊谷家。愛猫のベル(20歳)に異変が起きたのは、10月末だった。


 弘行さん(66)と、妻の淳子さん(58)は、大けがから回復したベルを見守ってきたが、食いしん坊だったベルの食が日ごとに細くなった。11月に入ると、自力ではフードが食べられなくなり、体重が落ち、目の輝きが消えてきた。それでも半径2mくらいを歩き周り、ソファによじ登っていた。

 

中学生のころから一緒だった夕起子さんと(結婚しても介護をし、ベルを看取った)
中学生のころから一緒だった夕起子さんと(結婚しても介護をし、ベルを看取った)

 夫妻は衰えたベルの状態を、別に暮らす長女の夕紀子さん(32)にも伝えていた。ベルは夕紀子さんが中学生の時に家に迎えて可愛がっていた猫だ。ベルがけがした時は、排泄介助を手伝っていた。


 水も飲まなくなった11月16日の夜、夕紀子さんが仕事帰りにベルに会いにきた。夕紀子さんは18日から海外に新婚旅行にいく予定だったが、旅行の間は持つだろうと、その時はみな思っていた。


 だが、ベルは夜中1時半すぎ、居間で添い寝をしていた夕紀子さんの横で静かに息をひきとった。


「真夜中、娘が1人で看取りました。娘もウトウトする中でベルの呼吸が一瞬止まり、また息をしてを繰り返し、『最後はっと息を吸い、声をかけたら動かなくて、そのまま一緒に寝たの』と報告してくれました」(弘行さん)

 

◆家族全員が集まり


 その日の夕方、葬儀を行った。神奈川県内のペット斎場の予約がとれて、離れて住む熊谷さんの長男や、夕紀子さんの夫も駆け付けた。みなでお花を供えてお別れをした。係の人から「歯や骨が年齢の割にしっかりしていて、崩れていない」と言われ、ベルのたくましさを実感したという。


「不思議です」と弘行さんがいう。


「その日、私は午前中が病院で午後がフリー。妻は仕事でしたが、午後休みをとれて、娘も早めに退社できた。息子は偶然休暇で、娘婿も午後休みがとれて車を用意してくれて。ウイークデーに家族全員が集まれたのは、ベルが“引き寄せた”としか思えません」

 

一緒に生まれたジジ、ゴンと。きっと今頃再会しているでしょう
一緒に生まれたジジ、ゴンと。きっと今頃再会しているでしょう

 ベルの旅立ちから1か月して、熊谷夫妻と再び話をする機会があった。


 この間の気持ちを「経験したことのない混乱ぶり」と弘行さんは表した。


「飼い主として、できることがすべてできたという安堵感がある一方、“不在”を受け入れられない。白い洗濯物が丸まっているのをみると、動き出すのではないか、と錯覚したり、無意識のうちにベルを探していたり」


 妻の淳子さんも、「生きがいをなくした感じ。毎日に張りがない」と悲しみにくれていた。


 同居していた”弟分“の猫「ミミ」(18)にも、変化が起きていた。


「ミミはベルを探すように大声で鳴き始めたので、2階の寝室で私と一緒に寝るようになったんです。でも目が覚めると、すぐ横にミミがいるので安心です。今は自分の中に、ベルへの感謝の気持ちもあふれています」(淳子さん)

 

◆耳元で聞こえた鈴の音


 葬儀をした夜、淳子さんは耳元で鈴の音が聞こえたという。


「チリンチリンと。ミミかな、と思ったけど、ミミは首に鈴をつけていない。ベルは鈴をつけていたけれど、娘によると、最後まで眠るような感じだったので、(鈴は)鳴っていないというんです。別れの挨拶が私にだけ聞こえたのかしら」


 誰も信じてくれないだろうと思いながらも、鈴の話を、20年前にベルを譲ってくれた知人に伝えると、「その時、ベルちゃんの姉妹が迎えにきたんだね」と言ってくれたという。


「ベルちゃんは大事にされていたから、この世に未練もなく、すぐに旅立てたんだと思うよ。きっと今頃、先に旅立った2匹と再会して3姉妹で仲良くしているよ」

 

熊谷家のベルの祭壇(鈴付き首輪も飾られている)
熊谷家のベルの祭壇(鈴付き首輪も飾られている)

 その言葉に淳子さんは救われ、悲しみが和らいだという。


 ベルがつけていた真鍮の鈴は、最期のお別れの時に外し、遺骨とともに手元に残している。「いつか土に還したい」と夫妻はいう。


「ねえ、ベルは幸せだった? 私たちは幸せだったよ。ありがとう」

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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