イヌ・ネコの症状辞典

けいれんを起こす

 けいれんとは、一つの筋あるいは一つの神経に支配されている筋肉群(いくつかの筋肉の集まり)が、不随意で強い収縮を起こした状態をいいます。

 具体的には、手足がぴくぴくする、全身の筋肉が収縮を繰り返すような状態を示します。たとえば、人間が起こすしゃっくりは、横隔膜のけいれんです。胃と十二指腸の間にある幽門という部位が起こす幽門けいれんという病気もあります。

 動物では、これら腹腔ふくくう内の筋肉のけいれんは、ほとんど観察不能ですから、ここではイヌやネコにみられる体表の筋肉のけいれんを取り上げます。

原因
 
■脳の異常
●てんかん
 筋肉の収縮を支配している中枢神経系に原因不明の異常興奮が起こり、筋肉が収縮するのがてんかんです。てんかんには部分発作と全般発作があります。
【部分発作】 一部の筋肉群を支配している脳の運動野(大脳皮質の運動機能に関係している部位)と呼ばれる部位にのみ興奮が起こるもので、その運動野が支配している筋肉群(たとえば足)がけいれんを起こします。
【全般発作】 脳の広範囲に異常興奮が起こり、全身の骨格筋のけいれんが起こります。

●脳炎、脳腫瘍のうしゅよう
 犬ジステンパーや猫伝染性腹膜炎などの感染症で脳炎が起こった場合や、脳腫瘍ができた場合には、中枢神経系に異常興奮が起こることがあります。その結果、けいれんを起こします。


■神経刺激の伝わり方の異常
 神経から筋肉へ刺激を伝える物質(神経伝達物質)をアセチルコリンといいます。通常、アセチルコリンは時間がたつと分解されます。しかし、有機リン剤(農薬や殺虫剤)を口に入れたりすると、アセチルコリンの分解が妨害され、いつまでも体内に残ることになります。そうすると筋肉の収縮が続き、けいれんが起こります。


■筋肉の興奮性(興奮しやすさ)の異常
 血液にはカルシウムが含まれています。血液中のカルシウムは神経細胞の膜の安定性に関与しています。しかし、血液中のカルシウム濃度が低くなると、より低い程度の刺激で興奮するようになります。
 低カルシウム血症になると、運動神経線維の活動が異常興奮し、低カルシウム血症に特徴的なテタニー(強い拘縮)が起こります。このとき、全身の骨格筋(とくに四肢と喉頭こうとう)のけいれんがみられます。
 低カルシウム血症は、上皮小体(副甲状腺ふくこうじょうせん)機能低下症や授乳中の母親動物(主に興奮しやすい小型犬)にみられます。
 前者は上皮小体ホルモンが減少するため、骨からのカルシウムの供給が不十分となり、さらに腎尿細管じんにょうさいかんでのカルシウム再吸収や消化管からのカルシウム吸収が減少することが原因です。
 後者は母乳中に血液のカルシウムが移行し、血中のカルシウムが減少することが原因です。
観察のポイント
 
●前駆症状の有無
 てんかんのけいれんは、舌なめずりしたり挙動不審になるなどの前駆症状をみることがあります。

●中毒を疑う
 けいれんが起こる前に何かを食べたときには、中毒が考えられます。
 数分で治まる場合は、生命の危険はないと思われます。しかし、けいれんが治まらない場合は、至急獣医師の診察を受けてください。

●吐いた胃内容物の観察
 症状を起こす前に食べたものや嘔吐おうとしたものは、診断の助けになる場合もあります。どのような状態でけいれんが起こったのかを説明できるように冷静に観察してください。
考えられる主な病気
 
てんかん[主にイヌ]
有機リン中毒(殺虫剤中毒)[イヌ、ネコ]
低カルシウム血症[主に雌イヌ]
熱射病[イヌ、ネコ]
脳の炎症性疾患[イヌ、ネコ]
 クリプトコッカス症[イヌ、ネコ]
 狂犬病[イヌ、ネコ]
 犬ジステンパー[イヌ]
 猫伝染性腹膜炎[ネコ]
脳腫瘍[イヌ、ネコ]
腎不全[イヌ、ネコ]
ビタミンB1欠乏症[主にネコ]
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